日本の文化財行政とMLA連携: 博物館附属図書館の分類
博物館図書館と「MLA連携」
近年、博物館(Museum)・図書館(Library)・文書館(Archives)間の相互連携「MLA連携」の重要性が認識されつつあります。いずれの施設も、文化財・美術品・書物等といった文化的情報資源(資料)を収集・蓄積・提供する非営利機関であるという共通点を持ち、デジタルアーカイブ化等の課題も共有しています。人類共通の財産である文化的情報資源を最大限活用し、学問の発展を目指す上で、博物館学・図書館学・アーカイブズ学というそれぞれの分野の視点より、学際的な相互連携を模索することは大変意義深い取り組みです。
「MLA連携」の捉え方として、「外なるMLA連携」・「内なるMLA連携」の2つに大別することが出来ます。前者は、複数の博物館・図書館・文書館同士での相互連携を行うもので、後者は、同一の施設内で博物館的事業・図書館的事業・文書館的事業を行うものです。
後者のうち、その先駆けとなり得る既存の施設としては、博物館内に設置された図書館(図書室を含む)の存在が挙げられます。博物館施設は、その事業の一つとして、図書室を設置することが定められています(博物館法第三条第三項)。博物館の図書館は、来館者に対しては展示見学の上で参考となる情報を、学芸員等の職員に対しては調査研究事業に役立つ情報をそれぞれ提供し、博物館の理念達成へのサポートを行う部署として不可欠な存在あるといえます。
博物館施設・図書館施設共に、その館種の分類には様々な方法がありますが、これまで、博物館附属図書館を対象とした分類に言及されることは殆どありませんでした。本稿では、「MLA連携」という視点から博物館の図書館に注目し、その分類を試みたいと思います。
「内なるMLA連携」の分類
日本国内で博物館・図書館同士の「内なるMLA連携」が行われている施設は多種多様なのですが、概ね次の様に大別することが可能であると思われます。
①博物館施設内に図書館が設置されており、司書有資格者が配属
②博物館施設内に図書室等が設置されているが司書有資格者未配属
③同一施設内に博物館・図書館がそれぞれ対等な機関として設置
④文学館
⑤文化的情報資源の一元的な収集・保存・公開を目的に、当初より博物館的機能・図書館的機能・文書館的機能を集約して設置された施設
⑥図書館施設内に博物館が設置されており、学芸員有資格者が配属
⑦図書館施設内に資料展示室等が設置されているが学芸員有資格者未配属
この内、大半を占めるのは、やはり②と⑦でしょう。近年では、レファレンス室等を設ける博物館施設が増えつつあります。但し、専門職員である司書や司書補を設置せず、書籍のみを手当たり次第に排架することが、果たして来館者のサービス向上に結び付くのかは疑問が残ります。確かに、情報検索のツールを増やすこと自体には一定の意義が認められますが、それらを使いこなすことが出来なければあまり意味がありません。ハード面のみを整備し、ソフト面を軽視した結果、結局空回りした状態になってしまっている施設も少なくないといいます。また、これは図書館施設内での展示室についても同様です。一般的に、司書養成課程で実物資料の取り扱いについて学ぶ機会は非常に限定的であることから、非図書資料に精通する司書は必ずしも多数派ではありません。その為、学芸員有資格者不在の図書館における展示は、どうしても中途半端な印象を拭えないものになりがちとの指摘もあります。
①や⑥は、それぞれ主体となる施設の補完組織としてその理念を達成する目的で運営されるものです。③についても、それぞれの施設の理念達成に向け、双方が連携を深めるものです(この場合、「外なるMLA連携」の色彩が強いといえます)。
④は、館自体が博物館施設・図書館施設の双方に該当すると考えられています。これは、文学館では、草創期より、博物館的機能を念頭に置いた資料展示業務と図書館的機能である資料提供義務の2つが活動の大きな柱として意識されてきた為です。
⑤は、MLA連携の推進を念頭に、文化的情報資源を一元的に取り扱うことを目的に設立された施設です。但し、全国的な現状としては少数に留まります。
図書館施設としての分類
図書館施設そのものの分類には、法制度的観点からの分類と収蔵資料(コレクション)上の分類の2通りの方法があります。
前者の場合、地方公共団体の設置する館は「公共図書館」、日本赤十字社または民法第三十四条の規定する法人が設置する館は「私立図書館」とされます(図書館法第二条第二項)。また、大学または短期大学の設置する館は「大学図書館」(大学設置基準)、学校に設置される図書館は「学校図書館」とされます(学校図書館法)。民法第三十四条の規定する法人を除く私企業・個人等の設置する図書館施設に関する法的根拠はありませんが、図書館法第二十九条は「図書館と同種の施設は、何人もこれを設置することができる」と定めています。こうした図書館同種施設は、私立図書館と同様、各都道府県教育委員会に対し設置・運営に関する助言や指導を求めることが可能です(図書館法第二条第二項)。
後者の分類では、一般的に、都道府県立図書館及び市区町村立図書館は「公共図書館」とされます。公共図書館の目的は「専ら図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資すること」(図書館法第二条第一項)ですので、幅広い利用者層に向けた幅広い分野のコレクションを構築する必要があります。また、その特性上、所在地域に関連する郷土資料の収集も重要視されています。
これに対し、特定の組織体の構成員を対象に、その目的実現に向け専門的な領域に特化したコレクションの構築を行う館を「専門図書館」(または「参考図書館」)と呼びます。主に官公庁の図書館、民間団体や企業の図書館、大学図書館、調査研究機関の図書館等がこれに該当しますが、広義の意味では議会図書館・病院患者図書館・点字図書館・船舶図書館・矯正施設図書館の他、文庫・資料室等の図書館類似施設が含まれる場合もあります。専門図書館には、それぞれの組織が必要とする専門的な情報資源が集積されています。利用者も組織の関係者(いわゆる専門職員)に限定されている場合も少なくありませんが、一般にも公開し、専門的な分野に踏み込んだ高度な情報の提供を行っている機関もあります。
博物館図書館の分類
以上の様な観点を総合的に考えた場合、博物館図書館は、以下の6通りの形式に大別することが可能です。
I. 公立図書館/公共図書館(公立の郷土資料館・総合博物館等の図書館)
II. 公立図書館/専門図書館(公立の専門博物館の図書館)
III. 大学図書館/専門図書館(大学博物館の図書館)
IV. 学校図書館/専門図書館(学校博物館の図書館)
V. 私立図書館/専門図書館(日本赤十字社または民法第三十四条に規定される法人運営の博物館の図書館)
VI. 図書館同種施設/専門図書館(民間団体・私企業・個人等運営の博物館の図書館)
参考文献
辻󠄀 博仁「博物館図書館(図書室)に関する一考察」(『國學院大學博物館學紀要』第43輯、國學院大學博物館学研究室、平成31年、127-138頁)
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