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感想*『グランプリ・プレリュード』

 先生の描かれる命の温度が好きだ。

 あべまりな先生の御本を初めて購入した。先生のスペースは西2ホールの端っこにあって、それなのに私はめちゃめちゃ迷ってからたどり着いた。スペースには既刊を含めて四冊が並んでいて、それはなんか覚えているんだけど、後から設営のお写真を見たら右のほうにお名刺もあったらしく、「貰えば良かった……!」と今になってめちゃくちゃ歯噛みしている。緊張すると途端に視野が狭くなる。

 私は、恐らく半年くらい前、タイムラインに流れてきた「ジークの左手」から先生のファンになった。ファン歴としてはかなり浅い。月刊誌にも描かれているので、単行本が近々出るのだろうか……とソワソワしながら御作品を楽しませていただいている。私が存じている中で今の所一番好きなのは「コタロとポポ」なのだけど、新刊もとても、とてもよくって、他の作品のことも交えつつ『グランプリ・プレリュード』の感想をここにワ〜ッと書きつけておきたいと思う。

 好きです、という話、とりとめもなく書き始めるとあれもこれもと箇条書きになってしまいそうなので、冒頭に書いた「命の温度」という切り口で書いていこうかな、と思う。

 私はまず、先生の絵柄が好きだ。可愛らしくて、柔らかで、登場人物たちの体温が確かにそこにあるのに、触れたらはらりと消えてしまいそうで、でもずっとそこに居て鼓動を打ち続けてくれそうな確かさがあって、その温度感がたまらなく好きだ。最近は彼らの表情を見ているだけで泣いてしまう。そして、こんなにやさしく生命を描く先生が度々描く「死」に、私はものすごくぐっと来てしまう。

「ジークの左手」は戦争の話だし、「春の恋人」は儚く消えそうになる命を描いているし、「コタロとポポ」のコタロは妹を失っている。どこか絵本みたいな絵柄で綴られた世界の中には、ものすごくシビアで現実的な死が当たり前のように佇んでいて、生活の一部としてキャラクターたちに寄り添っている。

 私のイメージでは、生と死は数直線上の0から見て右と左に分かれていると思っていて、(じゃあ“0”は生と死のどっちなのか……という話は、こんがらがりそうなので置いておきます)100の「生」を描こうとしたら、-100の「死」も描かなきゃいけないのかな、みたいに思っている。命の「深さ」というか、目一杯の100の「生」を描くには、それだけの眩い光みたいなのを描くには、影の部分も描かないと明るさとして伝わらないのかな……という感じだ。

 先生の描かれる「死」は、作品によってはさりげないけれど、しっかりと物語の根幹にあって、ふっとお腹のあたりが寒くなるような冷たさを物語の中に与えつつ、けれどそれが描かれた分だけ、暖かくて柔らかな「生」が、作品の内側からわあっと花咲くようににじみ出ていて、もう、この、この感じが、涙。文章が壊れがちだけど、先生のご作品を読んだことのある方には伝わるんじゃないかな、と思う。

 そして、新刊『グランプリ・プレリュード』だ。Twitterにも冒頭部分を投稿なさっているのでネタバレにはならないのだと思うけれど、今回はレーサーのお父さんを亡くした少年タックと、タックに寄り添う少女ラナ、そして、ラナだけに見えている「亡くなった」タックのお父さん、ルミがお話を彩っている。今回もまたキャラクターたちの素晴らしい表情に初っ端からうるうるしながら読み進めていったのだが、伏線回収や台詞の呼応にぐっときて泣き、ぐわっと盛り上がった後半の展開にハラハラし、繋がった手や受け渡されていく命の流れに胸をぽかぽかさせながら読み終わった。

 先生の作品において、「死」はこう、なんというか「乗り越えるもの」というよりは、生命の川の流れの中の一部分なのかな、と感じる。乗り越える試練でもあるのだけど、先生の「死」は冷たいひとの体温をまといながらも、どこか暖かい余韻を残したまま登場人物たちに寄り添っている。「死」は確かに途方もなくて恐ろしいものだけれど、先生の作中では、なんだか当たり前にそこにあって、心臓の奥からにじみ出てくる暖かな「生」を優しく見守っている感じがする。キャラクターたちは流れていく時間の中で何かを受け渡したり、受け渡されたりしながら、温もりの中で生きている……。もう、もう、めちゃくちゃいい……。私の文章はもうこのへんでいいから先生の御作品を読んでください……。

 読んでください、という気持ちははやるのだが、このnote内でタイトルを挙げたあべまりな先生の「ジークの左手」、「春の恋人」、「コタロとポポ」は、現在はTwitterにないらしく、当該ツリーを探しにいって見つからず、びっくりした。先生は通販をなさっていないらしく(私が見つけられていないだけかもしれない……)今の所、先生の御作品を読むには、先生のお名前で検索して月刊誌のバックナンバーを取り寄せるのが一番早いのかもしれない。もしかして単行本化の作業が進んでいるということなのかな……!? と、これを書きながら私は現在進行形でわくわくしているわけなのですが、ゆっくり続報を待ちたいと思います。とっても楽しみ!

 いつか、「コタロとポポ」の「ここが素敵なんですよ……」という話もしたいなあ、と思っているけれど、先生ご本人の知らないところで、しかも既刊の感想が長々とまくしたてられているのは現象として結構怖い気がするので、私がもうちょっと図々しくなるまで待とうと思う。COMITIAでお手紙を渡そうかな、とも思っていたのだけれど、悪筆なのに加えて、こういう「解釈」めいたことを肉筆でお送りするのもな……とさまざま理由をつけて御本を購入しただけで帰ってきてしまった。でも、「コタロとポポ」の巻末に、Twitterでは見覚えのないイラストが載っていたのがめちゃくちゃ嬉しかった話とか、いつかお手紙にしたいなあ、と思う。


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