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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材… もっと読む
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2021年11月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 44(最終回)

 お目当てのゴミ箱も手に入れ、腹ごしらえも済ませたので、夕方からの出勤に備え、早めに帰宅しようと、ショッピングモールの外に出ると、雷鳴とともに土砂降りの雨が降っていた。遠くは晴れているのに、なぜかわたしの頭上だけ、雨雲がかかっており、降水量一〇〇ミリを優に超えるゲリラ豪雨が、ショッピングモール前の地面を叩きつけていた。  どうせ通り雨だろうと高を括り、しばらく店内で雨宿りをしていたのだが、待てど暮らせど雨が止む気配はなく、それどころか雨足は強くなる一方だった。自転車で来てい

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 43

 父にデリヘルで働いていることを打ち明けてからしばらくして、ふと部屋に置くためのゴミ箱を買いに行くことを思い立った。  ゴミ箱などどこにでも売っているのだろうが、行った先で売っていなっかったときの絶望感を考えると、多少、遠かろうと確実に置いてあるニトリに行くほうが、よほど合理的な気がして、出不精なわたしにしては珍しく、東区にあるゆめタウンまで足を伸ばすことにした。  言うまでもないかもしれないが、お目当てのゴミ箱はすぐに見つかり、クリーム色のオシャレなやつをゲットした。

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 42

「どうした? 芳枝から電話してくるなんて、珍しいやないや……」  生休で帰って以来、ほんの数日会ってないだけなのに、父の声がえらく懐かしく感じられた。 「あ、あのね……」 「な、なんや。急に畏まって……」  わたしの緊張感が伝わったのか、いつもと違う娘の様子につられ、父が電話の向こうで、戸惑っているのが、こちらまで伝わってきた。 「わ、わたしね……」  父が無言のまま頷いているのが、見えなくてもなんとなく伝わった。それは、なかなか本題を切り出さないわたしの次の言葉