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若い女性の人口流出は本当に激しいのか、という話をしてみたいと思います。(とある県の話。)

人口データの使い方っぽい話を書いてみようかと思ったのですが、ニュースが気になりましたのでこちらを先に。


先日からニュースで、県の人口が云々で何万人を割り込む予想とか
消滅可能性都市がいくつに増えたとかやっておられまして
その中で、「若い女性の人口流出が激しい」という話がありましたので
敢えて何県とは申さぬままに、少し書いてみようと思います。


1 ざっくりとした現在の環境

若い女性は確かに流出傾向にあるとは思います。
だってこちら、女子が付きたくなる職が少ないのですよ。
労働関係の統計を詳しくは出しませんけれども、主に産業としては、重工業、大手企業様の製造所が立地している、という状況。
今の若い女子が就職したいかどうかは別として、繊維産業なんかは平成の間にどんどん減っていきました。
また、女性が多いとされてきた職場には、男性が増えていますよね。
看護師、保育士、介護士等々。(医師など逆もしかりですが)
また近年は不況やリモートワーク普及で、地方都市にあった営業所が県庁所在地のみになったり、地方の第一都市に集約されたりと減ってきています。
2040年問題なども見据え、銀行さんの支店なども減ってきていますよね。
人口問題については、ひと頃は「女性の流出抑止のために働く場を」という言い方でしたが、今後はリモートワークのしやすさを訴えるしかないのかもしれません。
(リモートな我が身としては、それもまだ難しいことは実感していますが…)

2 では、それは今に始まったことなのか?

それでは検証に入ります。
使用するのは、国勢調査の経年データのうち、人口5歳階級集計のもの。
調査開始時の大正2年から最新データまでを積んであるという素敵なデータです。
全国のものと、都道府県集計が用意されています。

これを新しい方からずらしていき…
最新(令和2年)の時に何歳の人=生年月日の範囲を固定した人口が1行に揃うようにします。
※2015・2020年の数値は不詳補完結果数値の方を使っています※

コーホート集計というやつです

こういうですね、階段状の表ができまして、右側に基準となる時点の年齢と、生年月日の範囲を入れまして、その範囲生まれの人の人口の推移だよ、というのを分かりやすくします。
この行を使用して、その範囲の人の人口の時系列推移を出すこともできますが、まずは、要は進学や就職の際に故郷を離れて行ってしまう女子が多い!という嘆きを数字で見てみます。

実はお勤め時代に、その市の部分だけ住民基本台帳で1歳刻みの年齢で同じことをやりました。
18歳で減って、22歳で増えて、というところで、17歳時と25歳時の人口を比較したのですが…
国勢調査は5年に1度ですので、5歳階級集計を使うしかありません。
そこで、進学・就職で大きく転出が出る前の「10~14歳時」の人口と、概ね卒業・就職がなされたであろう「25~29歳時」の人口を比較してみます。
カラーリングしてあるのが、10~14歳時から25歳~29歳となるまでの期間で、元の表上のインデックスを見ると、何年のことかが分かります。
遡って令和2年時点70代の方、昭和15年の10月2日以降生まれの方までが対象となりました。
その頃で考えると初婚年齢が低く、女性の場合では22歳あたりなのですが、まあ県をまたぐかという話も今より少なかったのでは、という想定で進めます。
(自分の親が団塊の世代ですが、県外から転校してきたという人以外にご両親の少なくともどちらかが県外出身という人を自分の親以外に知らない状態でしたし…)

こちらが比較した表です

こう見ますと、若い人が戻ってこないのは、今最近のことじゃないんですね。
むしろ直近だけ見ると改善傾向にあるようにも見える。
お勤め時代の某市のデータでは、十分改善されているような状況にも見えました。
が。
目立つのは男女比で、女性の方が戻ってこない、というのはまあ事実と言えるでしょう。
とはいえ、団塊の世代やそのジュニア世代から見ると絶対数が異なる訳で。
人数で見ると、令和2年時25~29歳の女性が10~14歳の頃から減ってしまった人数は3970人。
かたや93%戻ってきて、前後に比べれば戻った人の多そうな団塊ジュニア世代の女性の場合では5535人と出ます。
人数で見るとやはり多い。

3 各世代の、推移を見てみる

次に、各5年ごとの世代の人口が、生まれてからどう変化するのかを見てみます。
先ほどコーホートで階段状になったデータを、今度は左詰めしていきいまして、横軸を5歳階級の推移にいたします。
女性が問題だということなので、女性のみ抽出してみましょう。
絶対数が違うので、0~4歳時の人口をそれぞれ1と置いて推移を見ます。

多分グラフの方が概要をつかみやすいので…↓

さて。
こちらから見えるのは、54歳以下の世代では、まず年少人口の間ににいったん人口が増える、と。
この年代では自分の都合での引っ越しはないので、「子供を連れた人」が転入してきている、ということが見えてきます。
ちなみに、もっと下の世代の推移はこちら。

やはり微増するようです

その証拠が、上のグラフのように、いったん減った人口が、20代後半以降また微増すると。
ここにお子さんがくっついているケースがある訳ですよね。

4 なので、別に最近のことではなくて。

ということで、若い女子の流出傾向は特に昨今の話ではなく、むしろ率としては以前より減りっぷりが少ないよね、というところ。
(コロナ後どうなっているかはまた次回のデータに基づいて、ですが)
数だって、絶対数が減っているので、以前ほどどかどか減っているものでもない、というのが実態で。

男女比が激しいのは、男性が戻ってきているからか、または男性がつきやすい職場があって、新しく入って来る人が多いのか。
とある記事には、「これでは若い男性が結婚しようと思っても相手が…」という話が載っていましたが、もしこれが、各家庭の子供数が減って、「あなた長男なんだから!」で帰ってきている人が多いと、女性も戻ってきていたって結婚にプラスに働くとは言い難いですよね。
保守的そうだし、難しそうだし、女の子側だって子供の数は減ってる訳だし。

そもそもですが、お勤め時代は、他市から配偶者を連れてきたら褒められてましたよね。
人口が増えるので。
(何故に人口が増えると自治体的に良いのかはこちら↓)

ということで、男性だっていったん県外に出ているので、そこから配偶者の方をお連れいただいてもいいんですよ、と思ったりもいたします。
(女性もね)
また、県内生まれの男性が戻って来るというよりも、新しく入って来る人が多いということであれば、産業構造的な問題で、ずっと女性の働きたい職場って言ってきましたよね、そこ失敗してますよね、という問題になります。
(何となく、近年とみに増えている技能実習生男子がそこにカウントされている気もしていて、県内生まれの男の子が帰って来る率が増えているわけではないように思います。現時点では根拠なし)

とにかく、県内で生まれ育った若者、特に女子が帰ってこない、だから男性が結婚できない、子どもが増えない、人口が減る、というような、なんだか最近の女子が悪い、というような流れにはなって欲しくないなと思います。
また、その辺をチクチク言うよりは、せっかくもともと子連れ世代が流入する傾向にあるはずなので、そうした世代のリモートワークの方に選ばれるようにするとか、そんな地道な取り組みの方が、意外と伸びしろがあるんじゃなかろうか……とも思う次第です。


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