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【TSUGIHO】 第3号-巣立ち-

割引あり


うちの家には中庭があって、ときどきスズメが遊びに来る。一本だけ生えている木に止まってガサゴソしたり、ウッドデッキでチュンチュンと鳴いてはすぐにどこかに行ってしまう。

ある時、いつものようにガサゴソと音がしたので木の枝の揺れているところを見ると、今まで中庭にやって来たことのない鳥がいた。その鳥はいつもスズメがそうするようにしばらくガサゴソしてから飛んでいった。

明くる日、またガサゴソ聞こえたので木の方を見ると昨日のあの鳥がまた来ていた。しばらく様子を見ていると明らかに何かをしている様子だった。またしばらくすると飛んで行った。これはもしかしたらもしかするとである。ガサゴソしていたあたりの枝をじーっと見てみると、やはりである。細かい枝を組み合わせてできた巣があった。あわてて家族に伝えると、その日から巣の観察が家族の日課になった。

「今日も来たで!」
「なんか咥えてるわ」
「飛んでいった」
「今日は来んかった」
「また来たで!」

巣は木の枝葉が混みいったところに作られているので、鳥の姿を写真に撮るのは難しく、何という鳥なのか判明するまでに時間がかかったが、子供が何とか撮影に成功し、それをもとに検索するとどうやらそれはヒヨドリのようであった。

何日かすると、せわしなく動いていたヒヨドリの動きがなくなった。居なくなったのかなと巣のあたりをよーく見てみると、ヒヨドリは巣の中でじっとしていた。これはもしかしたらもしかするとである。

「卵あたためてるんちゃう?」
「ほんま?卵見える?」
「いや、見えへんけども。」

何日かすると、ピーピーピヨピヨと甲高い鳴き声が聞こえた。これはもしかしたらもしかするとである。巣のあたりを見てみると、ずっと動いていなかったヒヨドリが巣から飛び立っていった。と同時にピーピーピヨピヨが止まった。何分か経ってヒヨドリが帰ってくるとまたピーピーピヨピヨが始まり、小さく尖ったたくさんの三角形が巣から飛び出さん勢いで動いていた。これはやはりそうだ。卵がかえってヒナが産まれたのだ。

それからのヒヨドリは忙しそうだった。ヒナにエサをやっては飛び立ち、また帰ってきての繰り返し。こちらが心配するほどとにかくよく働く。エサをヒナにあげてばかりで自分は食べてないのでは?とか、ちゃんと休めてるかな?とか、いらぬ心配などした。

ヒナはみるみる大きくなり、三角の小さい嘴だけでなく、巣から顔が全部見えるようになった。

「5匹おるで!」
「ちゃう、6羽や。数字も単位も間違えとるやん。」


それから何日か経って、仕事中の小生の電話が鳴った。めったにかかってこない子供からである。何事かと電話を取った。

「どないしたんや。」
「ヒナが巣から落ちた!」
「ほんまか!」
「どうしたらいい?」
「しゃあないからそのままほっとけ。触ったらあかんで。仕事中やから切るで。」

どうしたもんか気が気でないので、鳥、巣立ち、落ちる、で検索。どうもそういうものらしいと一安心した。

帰宅して子供にどうなったか聞くと、しばらくしたら飛んでったとのこと。巣を見るとヒヨドリの気配は無くなっていた。ああ、ついにこの日が来たか。

うるさいうるさいと思っていても、あっという間に大きくなって巣から飛び立っていく。そんなもんなんだろうなと思った。

「また来年も来るかなぁ?」
「さあ、どうやろなぁ。」


後書きに続く

インタビュー:たつま(@tatsumamustat
特集:シャーク鮫くん(@lno_glK
エッセイ:ノカヤク(@kansoukyabetsu
フォトエッセイ:セキヤ(@sekiyanabemotsu
小説:chicagocoffeee(@abovethesea2
前書き・後書き:OC-3(@oshiteoku


《インタビュー グラデーション:徐々に》

第3号のインタビューは歯科医として研修を終え、これから渡米して活躍するピーターさんにお話を伺う。いま、一人前になる直前の「巣立ち」の真っ只中にいる彼に巣立ちの距離感やその心中を掬っていく。

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