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米中対立で最後に勝つのは誰か “ネーション・ステート”の黄昏(連載#1)


昨今は「毎日が日曜日」なので、英語メディアで米中対立の現状と行く末がどう論じられているか目を通してみた。

習近平政権とトランプ政権がコロナ・パンデミックを巡って、互いに相手を糾弾し合っているが、総体として、米国より中国の方がうまくやっていると感じる人は少なくないだろう。

初動段階で情報隠蔽という大失態をおかしたが、その後は果断な封じ込め(しかもデジタル技術武装!)が功を奏して、世界に先駆けて「正常化」に動き出しているし、いまや外交面でも他国を援助できる余力のある唯一の国として国際貢献ぶりをアピールしているからだ。

「米国が中国にしてやられている」と危機感に満ちた投稿をしたのは、米国務省の元高官でアジア政策を担当したカート・キャンベルだ。曰く(注:以下、要約の文責は私)

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“米国は過去のパンデミック対応で毎回国際的リーダーシップを発揮してきたが、トランプ政権はこの点でまったく無関心で無能だ。国内でのパンデミック対応のまずさも米国のリーダーシップへの国際的信頼を傷つけている。
一方、中国は米国の対応不手際と内向き志向で空いた真空を機敏に掴んで、パンデミックに対する国際的な対応に貢献する中国の能力と意思を宣伝し、初動失敗の記録を世界から抹消しようとしている。”

キャンベルは、この状況は危機的で、このままではコロナウィルス禍が米国にとっての「スエズ・モーメント」(注)になると言う。

注:エジプトによるスエズ運河国有化宣言に端を発して1956年に起きた武力紛争(スエズ動乱)。英国は仏、イスラエルと組んで軍事侵攻したが、国際世論の圧力に遭ってあえなく撤兵を余儀なくされ、英国が覇権国の影響力を決定的に失うきっかけになった。

「中国もダメ」説

キャンベルの主張は直ぐにマイケル・グリーンとエバン・メデイロスから反論を受けた。曰く;

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“今の米国が直面するコロナ禍を1956年に英国を襲った「スエズ・モーメント」になぞらえるのは不適当だ。英国は、そのはるか前に様々な点で米国に凌駕されていたが、いまの中国はそこまで全然達していない。
中国は内外ともに問題を抱えており、コロナ禍への対応も台湾や韓国などの方が優れたモデルを提供している。経済面でも、いまの中国経済に10年前のように世界経済を牽引する力はない”云々と。


もっと根本的に、「習近平体制は内外に問題を抱えており、むしろ中国が大混乱に陥る可能性がある(→中国が米国を追い抜き、打ち負かすことはあり得ない)」と説くのは、上海出身のクレアモント・マッケナ大学教授、裴敏欣(ペイミンシン)だ。曰く;

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“習近平は「強い指導者」像に基づく権力集中的なリーダーシップを以て、従来の集団指導体制を置き換えたが、その結果、中国はかえって旧ソ連に似て不安定で脆弱な国になってきた。
集団指導体制は意思決定に時間がかかるが、プラグマティズムと慎重さを身上とした。習近平による権力集中は、果断だが思想的硬直性があり、忠誠を要求する姿勢が異見を抑圧し、誤りを正しにくい体質をもたらす。
経済における集権化は不効率な国有セクターを増長させるし、成長を底上げするために借金で公共投資を増やすと、中長期の成長はさらに低下して大衆からの支持を低下させる。
また、監視や言論統制の強化は政治的抵抗を増大させる。米国に対抗する姿勢が誤りだったと認めたくない習近平はナショナリズムに走って、ますます柔軟路線に戻れなくなる恐れが強い。このままでは、中国は大混乱に陥る恐れがある“と。

「ダメ比べ」にうんざり

他にも幾つか目を通したが、米国の論調の多くは、「米国がダメになっている」という嘆き・警鐘と「中国だって、あんなこんな問題を抱えている」というDisり・・・この二つの心理の間を行ったり来たりしている。

中国の論調は、表では米国の身勝手、ダブスタぶりを罵倒し、米国のダメさを嗤う論調が多いが、裏サークルでは、中国も深刻な問題を抱えているのを棚に上げて米国を罵倒する同胞の夜郎自大ぶりを嘆き、世界から厳しい眼で見られていることに不安感を募らす論調も数多い。表と裏が分離してしまっているが、けっきょく論点は「どっちがよりダメか」に収斂しそうだ。

いま世界はリーダーがいない「Gゼロ」状態でグローバルな危機に直面しているのに、こういう「米中ダメ比べ」を聞かされると、うんざりする。

「米国はエボラ熱など過去のパンデミック対応で毎回国際的リーダーシップを発揮してきたが、トランプ政権はまったく無関心で無能だ」というキャンベルの指摘は胸に刺さった。

たしかに、今回各国のコロナ禍への対応はてんでバラバラで、何の共通指針も協調行動もなかった(米国がリーダーとして不作為なだけでなく、中国の提灯持ちをしてWHOの信頼を損ねた、アノ事務局長にも責任)。

パンデミックを封じ込めても、新興国や産油国を起点とした新たな世界経済危機が後に続く恐れが高いが、そのとき世界は従来の「G7」という仕組みもワークしなくなった現実に直面するのではないか。

世界的危機を脱するためのソリューションを提供できるリーダーが不在・・・

Gゼロ」って、そういうことだ。そんな時に「米中どちらがダメか」論に立脚した「米中どちらが勝つか」論を聞かされても鼻白んでしまう。くだらないとしか感じられない。

字数が2000字を超えたので、今回はこれくらいにして、次回はいよいよ本論、21世紀の覇者は誰か?に話を進めたいが、簡単に予告すると、「それは米国でも中国でもない、ネーションステートは衰退していく運命だ」という仮説を展開するつもりだ。

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