米中対立で最後に勝つのは誰か “ネーション・ステート”の黄昏(連載#4)

前回「情報アーキテクチャーを握って21世紀の権力を掌中に収めるのは、プラットフォーマーの創業者のようなビジブルな存在ではなく、技術テクノクラートと呼ばれるような一群の匿名者たちではないか?」という根拠レスな思いつきを述べた。そして、

(1)彼らは、誰にどうやって規律されるのか?技術に明るいからと言って彼らに独裁者になられたんじゃたまらない。

(2)技術テクノクラートが権力を握る・・・なんて言うと、お隣にそういうことが人一倍好きで得意な人がいたことを思い出す。中国だ。

という「更問い」(←霞が関用語w)も。

今回は、まず(2)から、私の考えを述べる。

中国と情報アーキテクチャー

中国はいまや前回書き連ねたような情報技術革新の最前線だ。こういう技術に対して中国がアグレッシブに向き合ってきた成果だと言って良い。

もともと中国人は「追いつけ追い越せ」の強いメンタリティがあるせいか、「先進技術」と聞けば「取り入れねばならない」と脊髄反射するメンタリティの持ち主が多い。

その傾向に輪をかけているのが中国共産党と政府だ。共産党は何事によらず「指導」する立場に立ちたいから、「技術進歩に鈍感」では、共産党の気が済まないせいかもしれない。

加えて、最近の情報技術の著しい進化をみて、「無関心で放置していると、一党支配を脅かしかねない」とばかり、一段と注視するようになったのかもしれない。そういう「嗅覚」は他国の政府よりずっと優れている気がする。

とくに印象的だったのは、アリババが銀行口座を必要とせずに、お金を出し入れして利息もつく、理財商品投資もできる「余額宝(ユィアーバオ)」のサービスを始めた時だ。

なにせ、スマホがあれば銀行口座なしで送金することもお金を貯めておくこともできる、国際的に通用すれば、米ドル基軸体制を支える“swift”システムが迂回されるかもしれない・・・などなど、金融取引に大変化を及ぼしかねない新商品だ。

それゆえに在来銀行にとっては、とんでもない商品だ。怒った中国の銀行界は、これを潰しにかかったが、李克強総理がアリババを庇って、潰させなかった。 よその国だと潰されちゃったんじゃないかな。

アリババは、おかげで金融サービスに進出できて、一段と「化け」ることができたが、話がそこで終わらないところが中国だ。

銀行口座に拠らないアリババの金融取引プラットフォームを解放区みたいな環境で「肥育」した後、中国政府は満を持して人民銀行の管理下に置いた。そして近く「デジタル人民元」として、国家が銀行口座に拠らない資金取引のプラットフォームを発足させようとしている。

「アリババ、ご苦労じゃった!」みたいなもん?

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中国の「監視社会」の発展ぶりは3~4年前から話題になっていたが、今回の行動追跡、感染リスク判定アプリの開発と運用も実に見事だった。アリババがアイデアを提唱して社内の知財などを提供すると表明するや、各地で政府と企業のコラボが始まり、1週間かそこらでアプリの運用が立ち上がった。

という訳で、中国の党・政府の情報アーキテクチャーに対するリテラシーは群を抜いている。米国はトランプ本人はもとより、側近の中にもそんなリテラシーのありそうな人間が見当たらないので、この点では太刀打ちできそうもない。

ということは、「主権国家」レジームが情報アーキテクチャーに母屋を取られて、次第に衰退していく過程においても、独り中国では、共産党が情報アーキテクチャーにレジームを乗り換えて「権力のバージョンアップ」を果たし、ゆくゆくは世界に覇を唱える結果になるのだろうか?

デジタル武装した中国が短期的には優勢か

私の感じは、「イエス&ノー」だ。

短期的(向こう5年、10年)には、そっちの方向に行きそうな気もする。

コロナ禍制圧の過程で中国の行動追跡アプリがあっという間に立ち上がったことは、いまや中国の情報技術は米国を真似たり盗んだりしなくても独自の発展を遂げられる域に達しつつあることを象徴する。

米国タカ派が直情的に始めたハイテク冷戦は、あろうことか、中国が半導体自給を目指して産業政策を全速前進させる結果をもたらした。ファーウェイが新しく世に出すスマホの蓋を開けると、部品の「脱米国化」がどんどん進んでいるそうだ(関連記事)。

「デカップル」政策も米国が企図しない結果を生みつつある。一つは、中国のITサービスが西側企業の浸透や西側のプライバシー理念の容喙なしに「中国の特色ある」発達を遂げるようになったことだ。

もう一つ(これは東京大学の伊東亜聖准教授に教えられたのだが)、南半球というか、発展途上国の世界では、ハードウェアのファーウェイ、ZTE、アプリのアリババ、テンセントが目覚ましい勢いで現地勢とアライアンスを組んで現地の情報化を中国色に染めつつあることだ。

米中対立が激化する中で、「21世紀世界のブロック」化が言われるが、ブロックの陣取り合戦では中国の方が優勢らしいのだ。

中国IT企業の途上国進出

米国が後れをとる理由はハッキリしている。中国側は「民間企業」がウィン&ウィンのビジネス・アライアンスを進めているのに対して、米国側は政府が相手国政府に対して「従わないと不利益を被るぞ」と恫喝しているからだ(でも情報化は企業の手で進む)。

中国は理念的には危うさを孕みつつも、掣肘を受けることなく情報アーキテクチャーの「中国モデル」を発展させていくだろう。その主役は中国共産党であり、中華プラットフォーマーはいまや「党の侍女」と化しつつある・・・

ここで終わると、「ヲイヲイ!結論は中国の勝ちかよ!?」と、クレームが来そうだが、また紙数が尽きてしまった。今回で最終回のつもりだったが、一回延長して、次回を最終回にする。

最終回は、「中長期的には中国も勝者になれない、それでは21世紀の覇者は誰だ!?」という話をする。お楽しみに!

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