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中国不動産問題について(続)

2020年の不動産デベロッパー向け融資の引き締め措置(三条紅線)が発端になって、不動産経済のエコシステムが逆回転して、デベロッパーの債務不履行、未完マンション購入者のローン不払い抗議運動、地方政府の収入減少など様々な問題が噴出しているという日経の記事。文中の

”ロイター通信によると、中国政府は最大3000億元の不動産基金をつくる検討に入った。開発企業の資金繰りを支援する狙いだが、共産党関係者は「あきらかに規模が小さい」とつぶやく。”

というくだりが気になった。
これはロイターや財新が「不動産支援ファンド設立の動き」として先月末に報じたのと同根の中身だろう。

ロイター7/25付け「中国、デベロッパー支援基金の設立検討 最大440億ドル=関係者」
この記事によると、
ファンドの目的:未完成の住宅建設プロジェクトに融資し完成を後押しする。その後は賃貸住宅促進の政府計画の一環として個人に貸し出す計画
基金規模:最大3000億元(≒6兆円)
基金出資者:中国人民銀行(中央銀行)が基金を支援する。その後、中国建設銀行が500億元を拠出するが、資金は人民銀行の再貸出で賄われる

財新7/28付け「“停贷”风波持续发酵 各地政府如何化解停工楼盘风险」
この記事によると、
ファンドの目的:未完成の住宅建設プロジェクトを買収(完成させ)、その後は公務員向けの賃貸住宅とし、最終的にはREITの方式で出資をエグジット
基金規模:建設銀行がまず湖北省をトライアル地点として数百億元拠出
基金出資者:上記建設銀行案の他、別途、河南省で省傘下の国有資産会社、AMC(金融不良債権処理に当たってきた資産管理公司)などでファンド設立という案も検討されている。

最近全国多数の「売約済み・未完工マンション」の購入者達が地元政府に対策を求めるために、集団で住宅ローンの支払いを拒む抗議運動(日経7/18付け記事参照)を展開している件を解決するためのアイデアなのだろう。

たしかにこの問題を放置しておくと、「今マンションを買っても、引き渡されないかも」という不安が拡がって、ただでさえ厳冬状態の住宅市場がほんとうに壊れてしまう恐れ、銀行の住宅ローン債権が不良債権化してしまう恐れも出てくる。

だから事は迅速を要するのだが、ロイター記事を見ても財新記事を見ても、参画金融機関達はみな「損する投資はできない」前提で検討に当たっているようで、それじゃダメなんじゃないかと感じた次第。
だって、その前提じゃ対象にできる物件も限られてくるし、個々の案件を取り上げるか否かも「回収可能性をよく吟味してみないと…」式に時間がかかって、事態は悪化の一途を辿る恐れがあるから。

そうじゃなくて、とにかく資金ショートで中断している工事を再開できる「つなぎ資金」を融通するビークルを設けて、そこがする融資には政府が債務保証を付ける、それで政府が代位弁済することになったら、その債権は既往の金融債権に優先して弁済を受けることにする、といったかたちでスピードアップを図るべきだと思う。

この「未完工マンションのローン支払い拒否運動」も然り、「河南省の農村小銀行の預金引出停止に伴う抗議運動」(朝日7/11付け記事参照)も然り、対処が遅れると、どんどん延焼してシステミックなリスクに発展しかねない「引火性の強い」案件について、最近中国(地方)政府の反応が鈍く、対応策も中途半端なのが気になる。

それはこの記事にあるように、地方財政が困窮していて機動的に動く能力が陰っているせいなのか、さもなくば、本件の場合、政府が保証を付けて、最終的に回収できるかどうかは事業清算の結果次第、みたいな仕組みにすると、不動産不良債権処理スキームに似てきて、「不動産繁栄時代の終焉」を象徴することを嫌がっているせいなのか…
いずれにせよ政府が果断に動かないと不動産市場はますます不安定化し、バブル崩壊を招くリスクが増してしまう。

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