楽曲について

Name / written by John Rzeznik
1986年ニューヨーク州バッファローで結成されたバンド、グー・グー・ドールズ。1995年にリリースしたアルバム「ボーイ・ネームド・グー ~グーという名の少年~(A Boy Named Goo)」に収録されシングル・カットされたこの曲で苦節9年、バンドはブレイクを果たします。
パンク・ロック/ハード・ロックを基調にした激しい楽曲がアルバムの大半を占める中で、変則チューニングによる美しいアコースティック・ギターの響きが印象的なこの曲は異彩を放っています。
作者はバンドのフロントマン、ジョン・レズニック。15歳で両親を亡くし「孤児」となり、バンド活動は長らく陽の目を見ないままアルコール依存症やドラッグに苦しみつつ、長い下積みを経て成功を得た大変な苦労人。そんな出自から慈善家としても活動し、ファンや同業者からの信頼も厚く、2008年にはソングライターの殿堂(Songwriters Hall of Fame)入りも果たしている人物です。

曲を聴く前にイメージしたいこと

元々あった夢を捨てて ”何者かになってしまった” 元恋人に対するやりきれない想いを描いた、ちょっと複雑なブルー・ラブソング。I won't tell 'em your name……お前の名前は誰にも明かさない、という歌詞にもかかわらず、作者ジョンの元カノだった、当時MTVのVJで現在はFOXニュースの政治コメンテーターをしているケネディなる女性が、後に自著で「この曲は私のこと」と暴露しているそうです(笑)。が、翻訳を終えた後に気づきましたが、この曲で言及しているのは前年にこの世を去ったカート・コバーンのことのような気がしてなりません。あくまでも筆者の想像ですが。
冷戦終結で共同幻想を見失った90年代のアメリカにおいて、ジェネレーションXと言われる当時の若者世代の意識は「自分探し」にベクトルが向かいます。その過程で、自分を捨てることで初めて何者かになれる、という矛盾に直面する(※1994年の映画「リアリティ・バイツ」にその辺がよく描かれています)。筆者も同世代でして、当時の社会心理が滲み出ているなあと翻訳しながら感じました。
そんな世相もあり、90年代アメリカン・ロック全般はどこか暗い影がつきまとう印象。そんな中、元々激情型パンク・バンドだったグー・グーは長い下積みを経るうちに音楽性を高めていき、この曲が一つの到達点。言葉遣いも詩的で、まるで砕け散ったニルヴァーナのかけらの中から拾い集めた宝石で作った、切なくも美しいバラードのようです……それではどうぞ!

歌詞と対訳

And even though the moment passed me by
心が 冷めてしまったというのに
I still can't turn AWAY
まだ気持ちを切り替えられない
'Cause all the dreams you never thought you'd lose
決して諦めないと思っていた 夢の数々を 
Get tossed along the WAY
お前は途中で投げ出したんだな
And letters that you never meant to send
俺に寄こした手紙は 元々送るつもりも無かったんだろ 
Get lost or thrown AWAY
捨てたか その辺に放り投げてしまった

And now we're grown-up orphans that never knew their NAMES
もはや俺たちは 自分が何者か知らずに大人になった孤児
We don't belong to no one, that's a SHAME
どこにも拠り所が無くてやりきれないから
You could hide beside me, maybe for a while
もう少しの間 俺のそばに居てもよかったんだぜ
And I won't tell no one your NAME
でも お前が何者だったのかは 内緒にしておくよ
And I won't tell 'em your name
内緒にしておくよ

And scars are souvenirs you never lose
置き土産のように ずっと傷跡が残っていて
The past is never FAR
過去が遠くに去ってくれない
And did you lose yourself somewhere out there?
お前はどこで 自分自身を見失ったんだろう?
Did you get to be a STAR?
結局、スターになれたのか?
And don't it make you sad to know that life
悲しくならないのかな? 人生が
Is more than who we ARE?
俺たちが思う以上の何かになってしまうことに

You grew up way too fast and now there's nothing to believe
お前は早く大人になりすぎて もはや何も信じられない
Then reruns all become our history
いつか見た再放送の繰り返しで人生一丁上がりだ
A tired song keeps playing on a tired radio
退屈な歌が 退屈なラジオから流れ続けてる
And I won't tell no one your name
でも お前が何者だったのかは 内緒にしておくよ
And I won't tell 'em your name
内緒にしておくよ

And I won't tell 'em your name
内緒にしておくよ お前が何者だったのか
And I won't tell 'em your name
内緒にしておくよ お前が何者だったのか

I think about you all the time
俺はお前のことを いつも気にしているけど
But I don't need the SAME
お前が俺に同じことをしなくていい
It's lonely where you are, come back down
ただ そんな虚しい場所から 帰ってきなよ
And I won't tell 'em your NAME
内緒にしておくから お前が何者だったのかは

  • the moment passed……その瞬間が過ぎ去った、というのは転じて「気持ちが冷めた」「やる気が無くなった」「好きじゃなくなった」に通じるようです。コチラの記事が図解入りでとても判りやすく解説していました。

  • reruns all become our history……rerunは「再放送」。いつか見た再放送の繰り返しが我々の歴史に組み込まれる。というのを思い切って意訳しました。Geniusの注釈には「年を取ると何度も同じ問題にぶつかることに気づく。何をやっても、一度経験したことが二度、三度と繰り返される。壊れたレコードのように」とあります。わかる気がする…。

  • この翻訳で特にこだわったのは、nameを「名前」と訳さないこと。アルバム・タイトルにもなっている重要なキーワードですが、「名前」にしてしまうと「何者でもない俺とお前でありたい」という曲のメッセージから遠ざかる気がしたからです。グー・グー・ドールズという不思議なバンド名も何だか匿名性を感じますが、そんな彼らのインディーズ時代からのキャッチコピーは「アメリカで最も有名な無名バンド」。まさに、何者でもない彼らの金字塔がこの曲です。


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