Pancho and Lefty 歌詞と対訳

楽曲について

Pancho and Lefty / written by Townes Van Zandt
アメリカのシンガーソングライター、タウンズ・ヴァン・ザントによる作品。1972年に自身のアルバムで初めて発表し、1976年にはエミルー・ハリスのアルバム「Luxury Liner」で採り上げられています。
さらに1983年、カントリーミュージックの大御所ウィリー・ネルソンとマール・ハガードによるデュエットでこの曲がカヴァーされ、見事カントリーチャートの1位を獲得。ミュージック・ビデオも作られ、タウンズ自身もカメオ出演しています。
筆者にとって、名前は聞いたことあるけどよく知らなかったタウンズ・ヴァン・ザント。調べてみるとなかなか凄まじいです。
そのキャリアの初期から薬物とアルコール依存に苦しみつつ、華やかな表舞台に出ることなく曲を作っては場末のバーで少人数に向かって歌い、電話も無い郊外の小屋で隠遁生活を送り、最初から「生ける伝説」みたいだったようです。
この曲がカヴァーされることで脚光を浴びてもスターダムに上がることもなく、彼の大ファンを公言するボブ・ディランが共作を願い出ても断り、1997年に52歳で亡くなるまでマイペースに創作を続けました。そんな”伝説的”ソングライターの代表曲です。

曲を聴く前にイメージしたいこと

メキシコを舞台に2人の盗賊の運命が交錯します。自由を求めて盗賊になったパンチョは、鋼のような身体で鉄道より速い愛馬を乗りこなし、メキシコ連邦警察の追手からも一目置かれる存在に。
しかしその後パンチョは、もう一人の盗賊レフティの密告によりメキシコの地で最期を迎えます。そしてレフティは懸賞金を元手にオハイオ州クリーブランドに逃亡。
その後、詩人たちがパンチョを讃える一方で、レフティは極寒のクリーブランドで身を隠すように生き長らえます。パンチョを裏切ったことの後悔の念に苛まれながら…。
アウトローに対する英雄視や憧れは、古き良きアメリカを懐かしむ多くのアメリカ人にとっての共通コンテクスト。それをベースに、裏切りと後悔といった心理描写も少ない言葉で描かれ、聴き手に想像の余地を残しつつ彩り豊かな情景を巧みに表現しています。それこそが歴史的名曲と評価される所以なのでしょう。
この曲はアメリカ西部劇作家連盟によって「史上17番目にすぐれた西部劇の歌」に選定されていますが、確かにこの曲だけで西部劇の映画が1本撮れそうな豊穣さです。噛み締めてみてください……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Living on the road, my friend
家を持たず 旅人として生きるお前は
Was gonna keep you free and CLEAN
自由で 自分自身に正直であり続けた
Now you wear your skin like iron
鋼のように屈強な肌を 身にまとい
Your breath's as hard as KEROSENE
灯油並みにアルコール分強めの 息を吐く
You weren't your mama's only boy
お前は 一人っ子ではなかったけど
But her favorite one, it SEEMS
きっと ママのお気に入りだったろう
She began to cry when you said goodbye
ママは泣いたぜ お前がさよならを告げて 
And sank into your DREAMS
夢を追ったものだから

Pancho was a bandit, boys
そうしてパンチョは 盗賊になった
His horse was fast as polished STEEL
奴の愛馬は 鉄道なみに速く走り
Wore his gun outside his pants
ピストルは 敢えて隠さずズボンの外に装着した
For all the honest world to FEEL
自分に正直に生きようとする者に 見せつけるように
But Pancho met his match, you know
そんなパンチョの 命運が尽きたのは
In the deserts down in MEXICO
メキシコの 砂漠でのことだった
Nobody heard his dying words
奴の今際の言葉を 聞いた者はだれもいないが
That's the way it GOES
人生とは そういうものなんだろう

And all the federales SAY
連邦警察の連中が 言うには
They could have had him any DAY
いつでも奴を 捕まえられたが
They only let him hang around
結局 奴を野放しにしていたのは
Out of kindness, I suppose
多分 情が移ったからだろう

And Lefty, he can't sing the BLUES
一方 レフティはブルースを歌えなくなった
All night long like he used TO
かつては朝まで 歌っていたというのに
The dust that Pancho bit down SOUTH
パンチョが南の地で 噛んだ砂埃は
Ended up in Lefty's MOUTH
めぐりめぐって レフティの口に残った
The day they laid poor Pancho LOW
哀れなパンチョを埋葬する その当日
Lefty split for OHIO
レフティは オハイオに逃げた
And where he got the bread to GO
逃げるための旅費を 彼がどう捻出したかは
Ain't nobody KNOWS
誰も知る由もない

And all the federales SAY
連邦警察の連中が 言うには
They could have had him any DAY
いつでも奴を 捕まえられたが
They only let him hang around
結局 奴を野放しにしていたのは
Out of kindness, I suppose
多分 情が移ったからだろう

Well, the poets tell how Pancho FELL
詩人たちは パンチョの最期を歌にする一方で
Lefty's living in a cheap HOTEL
レフティは 安ホテルで身を隠すように暮らしている
The desert's quiet, Cleveland's COLD
砂漠は静まり返り クリーブランドは凍える寒さ
So the story ends, we're TOLD
というわけで この物語はおしまい
Pancho needs your prayers, it's TRUE
パンチョのために祈ることも 大事だけれど
But save a few for Lefty, TOO
いくつかは レフティのためにも残してやれ
He just did what he had to DO
彼は彼なりに やるべきことをやった結果
And now he's growing old
あとは ただ老いるだけの人生だから

And all the federales SAY
連邦警察の連中が 言うには
They could have had him any DAY
いつでも奴を 捕まえられたが
They only let him hang around
結局 奴を野放しにしていたのは
Out of kindness, I suppose
多分 情が移ったからだろう

  • polished steel=磨かれたスチール、ですが転じて「鉄道」という意味になるんだそうです。

  • meet one's match=直訳すると好敵手に出会う、宿敵と対峙する、ですが「困難に遭う」という意味合いもあります。

  • federales=連邦警察。アメリカのではなく、メキシコの。federalesは一見英語っぽく見えますが実はスペイン語です。

  • bit the dust=砂埃を噛む、で「死ぬ」という意味を持ちます。戦いで敗れてバタッと地面に倒れる時に砂埃を噛む。いかにも西部劇っぽい慣用句ですね。

  • breadはパンですが「お金」を意味するスラングでもあります。

  • Cleveland=クリーブランドはオハイオ州北東部に位置する都市。行ったこと無いですけど、北海道と緯度がほぼ同じなので冬はそれなりに寒いのではないでしょうか。

  • 少々マニアックな曲ですが、検索すると翻訳ブログ記事はけっこうあります。が、どれも決めてに欠けると思っていたところ湘南ビーチFMのDJジョージ・カックル氏が自身のYouTubeで解説しているのを見つけ、とてもわかりやすかったので、ほぼ書き起こしレベルで参考にさせて頂きました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?