楽曲について

The Weight / written by Robbie Robertson
ザ・バンドが1968年に発表したデビューアルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」に収録。シングルカットもされ、さらに翌1969年の映画「イージー・ライダー」でも効果的に使用されたことで、同バンドを代表する楽曲として広く認知されることとなりました。作詞・作曲は同バンドのリーダー、ロビー・ロバートソン。メインボーカルをドラムのリヴォン・ヘルムが担当、一部のみベースのリック・ダンコが歌っています。
バンドの解散劇を追った1976年の映画「ラスト・ワルツ」で共演したザ・ステイプル・シンガーズ他、アレサ・フランクリン、キング・カーティスなどソウル系アーティストによる無数のカバー・ヴァージョンが存在します。石田長生の独自の日本語詞によるカバーも秀逸です。

曲を聴く前にイメージしたいこと

発表当時から非常に難解な歌詞とされ、ネット上に数多ある研究記事(他の曲と比べて突出して多い!)や翻訳ブログ記事も、それぞれ異なる解釈が見られます。メインボーカルのリヴォン・ヘルムも「意味がわからず歌っていた」といい、当の作者ロビー自身は「みんな考えすぎ。深い意味など無い」と突き放す(笑)。
意味が無いなら、聴き手がそれぞれ勝手に解釈すれば良いじゃん!というわけで筆者は、登場人物の多いこの曲のプロットを以下のように「勝手に」決めた上で翻訳しました。
人生の重荷から逃れたくて、愛人ファニーの元を離れ「死に場所」を求めて彷徨う主人公。でも行く先々で狂った人々の狂った光景を目にする。悪魔と取引するカルメン、若いアンナ・リーに不貞を働き妻モーゼスに殺される老人ルーク、主人公の死に場所を用意する狂人チェスター。
人生の不条理を体感して、結局はファニーの元に帰っていく主人公。彼女の重荷をも受け取る覚悟で……。

いわゆるロックの、特にウッドストック前後の楽曲には、この手の「解釈を聴き手に委ねる」歌詞が多い気がします。ナザレスやモーゼといった固有名詞の多くがキリスト教絡みなのも、ミステリアスな印象を生み出すためのロビーの戦略なのかもしれませんね。意味ばかりに囚われるとビシバシと決まる巧みなライミングを見落としてしまいますし、あまり深く考えず、聴き手が思い思いに楽しむのが正解と思います……それではどうぞ!

歌詞と対訳

I pulled in to Nazareth just feeling 'bout half past DEAD
半分死んでる心持ちで 俺はナザレスに辿り着いた
I just need someplace where I can lay my HEAD
必要なんだ とにかく俺には 完全な死に場所が
"Hey, mister, can you tell me where a man might find a BED?"
なあ教えてくれよ どこか泊まれる場所は無いだろうか
He just grinned and shook my hand "No" was all he SAID
彼はニヤニヤして俺の手を取り 「無いね」と一言

Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
Take a load for FREE
荷物を降ろせよ 無駄だから
Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
And you put the load right on ME
その荷物 俺が引き受けるから

I picked up my bag, I went looking for a place to HIDE
やむなくバッグを手に 身を隠す場所を探していたら
When I saw Carmen and the Devil walking side-by-SIDE
見たんだよ カルメンと悪魔が並んで歩いてるのを
I said, "Hey Carmen, Come on, let's go DOWNTOWN"
おい、カルメン何してる? ダウンタウンに繰り出すぜ
She said, "I gotta go but my friend can stick AROUND"
私も行きたいわ だけど「友人」が纏わりついて離れない

Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
Take a load for FREE
荷物を降ろせよ 無駄だから
Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
And you put the load right on ME
その荷物 俺が引き受けるから

Go down, Miss Moses, There's nothin' you can SAY
こっちに来いよミス・モーゼス 何も言う事無いだろうけど
It's just ol' Luke, and Luke's waitin' on the Judgement DAY
このルーク爺さんは まもなく死んで地獄に堕ちる
"Well, Luke, my friend, What about young Anna LEE?"
なあルークさんよ 若いアンナ・リーをどうすりゃいい?
He said, "Do me a favor, son, Won't ya stay and keep Anna Lee COMPANY?"
すまねえな アンナ・リーはお前が仲良くしてやってくれ

Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
Take a load for FREE
荷物を降ろせよ 無駄だから
Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
And you put the load right on ME
その荷物 俺が引き受けるから

Crazy Chester followed me and he caught me in the FOG
いかれたチェスターがついてきて 霧の中で俺に声をかけた
He said, "I will fix your rack if you'll take Jack, my DOG"
お前の最後の寝床を作るから 愛犬ジャックの面倒を見ろ
I said, "Wait a minute, Chester, You know I'm a peaceful MAN"
ちょっと待ってくれチェスター のんき者の俺には無理だ
He said, "That's okay, boy, Won't you feed him when you CAN?"
なに、簡単だよ小僧 適当にエサをあげときゃいいんだ

Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
Take a load for FREE
荷物を降ろせよ 無駄だから
Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
And you put the load right on ME
その荷物 俺が引き受けるから

Catch a cannonball, now to take me down the LINE
特急列車を捕まえて 帰路についたところだ
My bag is sinkin' low and I do believe it's TIME
バッグが重くて沈みそうだから そろそろ潮時だと思ってさ
To get back to Miss Fanny, you know she's the only ONE
ファニーの元に帰るよ なんたって彼女はオンリー・ワン
Who sent me here with her regards for EVERYONE
彼女の元に俺を導いてくれた 全ての人に感謝するよ

Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
Take a load for FREE
荷物を降ろせよ 無駄だから
Take a load off, FANNY
荷物を降ろせよ ファニー
And you put the load right on ME
その荷物 俺が引き受けるから

  • lay my headは「頭を横たえる=寝る」ですが、lay one's head on the block = 断頭台に頭を乗せるという慣用句もあるのを踏まえて where I can lay my head=俺の死に場所、と意訳しました。

  • fannyは皆さん勝手にググって頂ければと思いますが、とても人名に用いるには憚られる卑俗な言葉。それでも最後のヴァースでMiss Fannyとあるのを踏まえて、この稿では人名と解釈しました。

  • Take a load for free の for free は文法的には loadにかかり「一文の価値も無い荷物は降ろしな」となるようです。for freeを「荷物を降ろして自由になりなよ、ファニー」と解釈すべきか迷いましたが、人生は永遠にfreeになれないというのがこの曲のテーマという気がしたので、最終的に前者の解釈に落ち着きました。

  • the Judgement day=一般的には「最後の審判」と言われていますが、筆者はトムとジェリーの「天国と地獄」で見られるアレ(天国急行の駅長がトムの現世での罪状認否をする場面)をイメージしました。モーゼス/ルーク/アンナ・リーの関係性については、この稿においては完全に筆者の創作ですので悪しからず。

  • rack=寝床。ですが狂人チェスターが作るrackは主人公の望みに応じた「死に場所」としてのrack。棺桶、と訳そうとも思いましたが業深い人は棺桶にすら入れないと思うので「最後の寝床」としました。

  • キリスト教との関連を指摘されるこの曲ですが、筆者が真っ先にイメージするのはカミュの「シーシュポスの神話」。神々がシーシュポスに科した刑罰は大岩を山頂に押しあげる仕事だった。だが、やっと難所を越したと思うと大岩は突然はね返り、まっさかさまに転がり落ちてしまう。でも結局また最底辺から大岩を押し上げ始める。そしてまた転がり落ちる。そしてまた押し上げ始める……シーシュポスとこの曲の主人公を重ねてしまいます。人生に何の意義も見いだせなくても人はひたすら生きていくしかない。深いなー。もっとも、ロビーはそこまで深く考えてないかもしれませんけど!


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