タンブラー

ついこないだ、ショッピングモールを歩いているとオシャレな水筒を見つけたのでその場でその水筒を買った。今書いていてふと気づいたがオシャレな水筒のことを人はタンブラーと呼んでいる気がするのでこれからはタンブラーと呼ぶ。普通に生きているといつの間にかズボンと呼んでいたものがパンツになっていたり、スパゲッティと呼んでいたものがパスタになっていたりする。物の呼び方を周りに合わせてアップデートしていかなければダサい人間になってしまうので常に気を張っていないといけない。意外とオシャレな水筒がタンブラーに切り替わっていることに気づいている人は少ないと思うので今気づけて一安心だ。どうせ今後は傘のことをアンブレラとか電車のことをトレインとか当たり前のように呼ぶような人が出てくるので気をつけておこう。そういった言葉のアップデートに疲れる人は、日本がよく分からない横文字で支配される前に海外に移住するという選択肢を持っておくのもいいだろう。しかしそれはそれで話す言語自体を全てアップデートしないといけないので本末転倒である。

話がだいぶ逸れてしまったが、今日は久々に会社に出社した。この前買ったタンブラーに熱々のコーヒーを入れて会社に持っていった。会社にいる大抵の人は朝は時間がないので自動販売機で買った飲み物を机に置いている。しかし今日から俺の机にはコーヒーの入ったタンブラーが置かれている。それだけで周りの人が持っていない余裕を自分だけが持っているような気になり何だか勝ち誇った気分になる。オフィスの中で辺りを見渡すと500mlの綾鷹、いろはす、BOSSのブラック、カフェラテといった十人十色のまるで余裕のない飲み物達がそれぞれの机に心なしか窮屈そうに置かれている。しまいにはモンスターやレッドブルといった、自分自身に余裕のないことを自らアピールしているようなどうしようもない飲み物を置いている人もいる。俺の机にはコーヒーの入ったタンブラー。メールがたくさん来て仕事が溜まりそうになっても今日の俺はコーヒーの入ったタンブラーを見る。すると心に余裕が生まれ仕事の優先順位を冷静に判断し順番にさばいていける。ある会議で上司に意見を求められる。特に何も言うことがなくて焦ったが、やはり机の上のタンブラーを見る。ついでに上司の机にある綾鷹のペットボトルも見る。目には見えない圧倒的な心の余裕の差を感じる。心が落ち着き頭の奥からそれっぽい意見が湧いてきたので発言する。意外と良かったみたいで褒められる。もはや俺というよりタンブラーに発言してもらっているようなものだ。朝自分でタンブラーに飲み物を入れて持っていくだけで、いつもより気持ちよく仕事ができた気がする。モンスターやレッドブルよりもある意味エナジードリンクである。今日を機に俺はこれからもタンブラーに飲み物を入れて会社に行くことにする。
いや、タンブラーにドリンクを入れて会社にゴーする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?