2002のニューバランス

3万円のニューバランスのスニーカーを買った。俺にとっては相当大きい買い物である。結果的に凄く良い買い物になった。

友人二人と何気なく入った店で靴を見ていると気前の良い店員さんがどの季節でもいつでも使えるというグレーのニューバランスのスニーカーを勧めてきた。おしゃれでおしゃべりが上手く、いかにもファッション〜という感じの店員さんだった。試着してみると履き心地が抜群でデザインもかなり良かった。その店員さん曰く、オールシーズン履けるスニーカーとなると大体白を選択する人が多いが、そのスニーカーはグレーでかつソールの部分が黒なので汚れが目立ちにくいのがメリットだということだった。また、2002というニューバランスの中では非常に珍しいモデルで、周りとの差別化を図ることができ履いていると一目置かれるらしい。たしかにニューバランスのスニーカーはモデルによって99なんちゃらや50なんちゃらなど三桁の数字で表されているが2002は見たことがなかった。実用性、デザイン性、ファッション性、どれを取っても完璧だと思った。3万円というのは俺の靴に対する金銭感覚の枠を超えているが、まあ良い年した大人だからそれくらいは問題ないだろうと思った。

しかし、ここで唯一問題なのは、2002は珍しいモデルでなかなか履いている人がいない、差別化を図れる、というメリットが俺にとってはデメリットとなる可能性があるということだった。俺は特にスニーカーやファッションに詳しいわけではないので、このスニーカーで遊びに行った時にスニーカー好きの人間が寄ってきて、俺をスニーカー好きの人間として認識して話を進められるような状況になると困るなあと思った。2002の良さは〜とか、やっぱり574とは違って〜とかそんな会話は俺にはできない。ただ単純に店員に勧められて良かったと思ったから買ったというオチになってしまう。それを聞いたスニーカー好きは、俺をにわかスニーカー好きに認定し、おれからその2002のスニーカーを取り上げ、このスニーカーの良さが分からない奴はこうだ!と声高に叫びながら2002に二重線を引いて996と書き換え、せっかくの綺麗なグレーの上から黒のペンキを塗ってくるだろう。そんな未来を想像すると俺は最初から大人しく比較的安い黒の996を買う方が良いのかなと思った。しかし、グレーの2002を履いた自分を鏡で見てみるとそんな想像が馬鹿らしくなるほど、カッコ良いと思ったので早速レジに持っていき3万円払っていた。

早速買ったスニーカーをそのまま履き帰路についた俺は、足元の綺麗なグレーを見て自分でもびっくりするくらい自己肯定感が爆発的に上がった。ファッション〜と思った。

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