進化するICTと適切に融合したあるべき医療の姿とは。日本でオンライン診療がいまいち進まない現状から考える。

※ほぼ全文無料で読めますが、気が向いたら課金してもらえると今後のやる気が出ます(パクリ)

以前にAI問診サービスやオンライン診療についてメモしました。

米国・中国・インド・英国(NHSでさえ!)あたりを中心にオンライン診療がどんどん普及していますが、日本は広がりません。

その理由はいくつかあります。

1)規制側(厚労省・診療報酬)

 行政というものは、前例がないものはとりあえずNGから入るし、既得権益である業界団体に相談してからね、となるので、スピード感はない。

 そもそも行政側に進めるメリットはない。仕事が増えるだけである。対応しなければ仕事は増えない。やらないほうのインセンティブがかかる。

2)医療機関・医者

 物の準備が必要である。PC、カメラ、マイク、タブレット、ネット回線、対応するスタッフの教育も必要である。

 報酬は診療報酬で国で公定価格で決めている。オンラインにすると対面診療よりも減収になる。

 上述の通り、手間がかかるのに、減収となれば、よほどのもの好きな医者くらいしかやるわけない。

 新しいもの好きの医者はともかく、一般に医者はリスクを取りたくない。というかとるメリットがない。リスクは挙げればきりがない。例えば、顔色もよくわからない。雰囲気(これ重要)も良くわからない。立って歩けるのかとかもよくわからない。触れない。聴診もできない。そしてそんな状況で、判断を間違う(特に軽く見誤る)となると、訴訟リスク高そう(そもそも訴訟用の保険はオンライン診療をカバーしてくれるのか?)。正直、オンライン診療はリスクの塊と思います。ここら辺を考えると、オンライン診療は、極めて状態が軽微(花粉症・明らかに風邪)または安定していて(血圧の薬)患者が来院を希望しない(移動が大変、忙しいなど)、とか、トリアージのため、というスタンスで使用するべきではないでしょうか。そもそも論をいいだせば、こういう対応は薬局での薬剤師(や日本ではいませんが診療看護師)による対応でもいいのではないかと思います。仮にこういうことが日本でも薬局対応ができるとなると、オンライン診療ってかなり必要性乏しいと思います(残るはD to D consultationやD to P with Nくらい?)。

 勤務医にとってはオンライン対応はやってもやらなくても給料は変わらない。対応することで仕事が減るなら対応するかもしれない。が、おそらく仕事は増える。

 開業医は売り上げが増えれば増収となるが、後述の通り、患者数の増加も見込めず、単価も下がるとなると、経営判断としてはやらないのが当然。

3)患者

 日本人は基本的に保守的な人が多いので、「なんか不安」ということで外来に行くだろう。日本は医療アクセスが国際的にみても極めて良い。つまり、国際的にみれば、日本は地理的に近くに医療機関がたくさんあり、待ち時間も極めて短い(予約なしで当日飛込で専門医に直接みてもらえるなんてこんな国なかなかなさそう)、自己負担も極めて安い。こんな状況では、直接医療機関を訪問するのが当然だろう。オンライン診療を選択するのはよほどの好き者ではないか。

 日本は患者の多くが高齢者である。高齢者の多くはオンライン診療の意味がよくわからないだろう。特に今のままでいいと思っている人には、オンライン診療なんて検討にすら値しないだろう。

 若い世代を中心にニーズはあると思うが、全体で見ると数としてはかなり少数派なので、発言力は極めて弱い。


とまぁこんな感じで日本はオンラインなんて進むわけないと思う。

風穴を開けたのがコロナでした。

コロナにより、「医療機関で感染するのが怖い」という患者側のニーズ、「感染対策が大変」という医療機関のニーズが発生しました。

政治側も規制改革系の経産省内閣だったので、オンラインイケイケどんどんとなっていますが、保守勢力である医師会が押し戻しています。

 

 社会におけるオンライン診療だけをみているとまぁこんな感じで、コロナでちょっと進みそうだけど、まぁでもやっぱり進まない感じがします。あまり表立って議論されませんが、根源的な原因は、やった分だけ売り上げがあがるという「出来高払い」という現行制度でしょうね。

 オンライン診療といった最先端のサービス・モジュールの議論はどうしてもミクロな議論になりがちですが、社会における医療全体像を描いてないと、モジュールがそれ自身の最適化・自身の正答化を目指して、全体像としては、いびつで筋悪な議論になりかねません。全体像を考えておくことは重要ではないでしょうか。

 仮に日本が、入院診療のように「出来高払い」から一定程度の包括払いに移行すれば、オンライン診療の普及はあり得ると思います(*入院の多くは包括払いに移行しています)。

 包括払いというと、その究極である人頭払い制度がいいというのか?という極論を言うような人もいるでしょう。人頭払い制度と聞くと、諸外国医療制度に詳しい人や高齢の方は「それで破たんしたのがイギリスだろ」と言ってきそうです。

かかりつけ医をあらかじめ決めて、その医療機関に登録した患者の人数に応じて診療報酬を支払う方式とのことです。患者さんは、どこにいても、どんな病気でも、まずは登録した医療機関を受診しなければなりません。保険証1枚で、全国どこででも、どの医療機関にかかっても、医療が受けられるという患者さんの権利を制限する制度です。

 個人的には個人レベルのリスク調整をした人頭払い制度(オランダの保険組合はそんな感じらしい)であればアリだと思うのですが、おそらくはそのミックスなんでしょうね。ミックス方式は大陸欧州のいくつかの国で導入されています。そこら辺を知りたい方は、わが師匠、松田 晋哉先生のこの本がおすすめです。

 外来支払いを包括にするとはどういうことでしょうか。

 例えば人口1万人のAという町があるとします。この地区全員の健康・医療の運営は、A町保険組合が行います。A町保険組合は、A町の特別会計です(一般会計とは別の財布)。A町保険組合は、直接病院を経営してもいいのですが、多くの場合はそうではなくX医療法人に業務委託をします。Xは病院や診療所を運営し、A町民の健診・検診・外来診療・リハビリ・訪問看護・在宅医療などを行います。別予算で介護事業もやってもいいと思います。XはそのためにAから年間一人当たり30万円の予算を受け取ります。Aは人口規模1万人と大きくないので、Xですべての治療を対応できることは求めません。Aは、住民の高次医療(心臓の手術、がんの手術など)の委託先として、Aに隣接する中核都市Bにある大学病院Yにもお金を支払います。この金額は年間いくらとかではなく、DPCで規定される請求額となります。

 例えばこんな感じです。このスキームでXはどのように経営するでしょう。できるだけたくさんの医者をそろえようとするでしょうか。そうではなく、医者は最小限にしますよね。最小限の常勤医+非常勤で回すでしょう。そして、できるだけ医者じゃなくてもできる仕事を、ナースや薬剤師や診療アシスタント・事務職に委託することで、より少ないコストで、住民サービスを満たそうとするでしょう。その「より少ないコストで、住民サービスを満たそうとする」の手段として上で書いたものは多職種連携とか、タスクシフトと言われます。国としても進めようとしています。

が、そんな国として進めることにわたしは違和感を覚えます。というのも、まともな経営者がそこにいれば、多職種連携やタスクシフトは、国が推進するまでもなく、組織内部として積極的に進めるからです。事実、日本では、民間病院や田舎の病院のほうが既に多職種連携やタスクシフトが進んでいる傾向にあります。最も進んでいないのが大学病院や地域の基幹病院です。医者がたくさんいるようなところ、特に若い医者がたくさんいるようなところは、その若い・給料の安い・どうせ長くいない医者に、全部やらせておけばいいじゃん、という背景もあります。それを放置している経営者にも問題があると思うし、それを甘んじて受け入れている医者にも問題があると感じます。どちらも現状を維持している原因です。

 そして「より少ないコストで、住民サービスを満たそうとする」の上記とは別の手段として、オンライン診療・AI問診、があるべきだと思います。これらによりより効率的に診療ができる可能性はあります。ベストなシナリオとしては、最小限の医者の数に加えて、ナースや薬剤師やアシスタントも減らすことができるでしょう。つまり、第1トリアージはAI問診、第2トリアージはオンライン診療、それでも解決できない・直接の診療が必要、と判断された人だけが、直接、医療機関へ来る予約をとり直接医者に会う、そんな未来です。

 もっといえば、上にあげた2つのミックスが理想でしょう。つまり、

 第1トリアージはAI問診対応(医療者は介在しない)、第2トリアージは薬局にいる薬剤師・ナースによりオンライン診療、それでも解決できない場合は、その薬剤師・ナースがオンラインで医者に相談(いわゆるD to P with N/pharmacist)、その上で医者による直接の診療が必要、と判断された人だけが、直接、医療機関へ来る予約をとり直接医者に会う、というような流れです。このプロセスの中で、薬局で採血やレントゲンや処方も行うことができるようになるでしょう。採血については既に薬局で行うことができているところも増えてきています。


 https://www.welcia-yakkyoku.co.jp/information/selfblood.html

 ドラッグストア業界の方が、資金力もあるので、法律が許す限り、医療を侵食してきている印象があります。すでにあるのかもしれませんが、ドラッグストア業界が実質医療を運営しているところも出てきても不思議ではありません。日本では法律で株式会社が新規に医療を運営することはできないですが、間接的には可能でしょうし、直接経営も時間の問題な気がします。

 医療に侵食してきそうなのはドラッグストアだけではありません。CRO業界も規制緩和さえあれば、外来フォローなど既に行うスキームを持っているように感じます(つまりドラッグストア業界よりも実行可能性高そう)。例えばCRO業界国内最大手のIQVIAが開始するPSP事業は、まさに高血圧・糖尿病などのいわゆる慢性疾患の外来フォローモデルと言えるのではないでしょうか。

IQVIAジャパングループは、看護師免許を持つクリニカルエデュケーター(CE)が薬物治療を受ける患者の治療支援などを行う新事業「ペイシェント・サポート・プログラム」(PSP)について、国内で本格展開を開始する。

IQVIAのこのような事業はなにも突然無理なことをやっているのではなく長年CRO業務を行っており、その中で治験業務などでは、治験参加者に定期的にフォローアップを行い患者の状態確認を行います。

これを一般内科外来に挿入すればいいだけなのです。このようなことを行うのは医療機関よりもCROの方がスムーズにできるのではないでしょうか。米国などでは、以前よりNPといったナースの上位職種が、安定した慢性疾患の管理を行っています。

 

医者からナースへのタスクシフトは、以下のような標準手順書(SOP, Standard of procedure)を、処置の手技や疾病管理すべてに導入することで、タスクシフトだけではなく、医療の標準化・研修マニュアルに・透明化・説明責任、になると思います。



つまり、将来の医療は、

・安定している慢性疾患の管理はCROのスキームで、オンラインも組み合わせながら、ナースや薬剤師がメインで、フォローアップと処方を行う、手順はSOPで標準化。

・必要に応じて採血やレントゲン検査を行うがそれも薬局で行う。

・体調が悪くなった時は、まずはオンラインで相談する。

・いわゆる診療所は不要になり医療機関は病院だけが残る。

さらに加えれば、

・血圧や血糖や睡眠状態の管理は、アップルウォッチなどでモニタリングし、薬局・医療機関がみることができる。アラートを本人や医療機関に飛ばすことができる。

・すべての医療情報(健診や検診、ワクチン情報含める)は電子カルテEMR/EHRでクラウド一元管理。IDはマイナンバーで行う。個人のスマホで自分の情報はいつでも見ることができる=PHR

 などにより管理を標準化し、効果を見える化し、評価もしやすい形にできるでしょう。またこの標準化により、引っ越しをしても診療の継続がしやすくなります。データはクラウドで分散保存することで、震災・津波洪水で医療情報が失われることもなくなります。

 医療情報を電子化することができれば、診療報酬請求業務も一体化できます。月末のレセプト〆もなくなります。地域により異なるレセプト返戻の不合理性(一種の既得権益)も排除できます。電子化により政府はタイムリーに何が流行っているかもわかります。例えばインフルエンザの検査のレセプトが急増すれば、インフルエンザが増えてきていることがわかります。また、政府統計の一部も不要になるでしょう。患者数などを調査している患者調査は不要でしょう。

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