2021年統合指針・ガイダンスの改正点概要に関する解説《講師:松井健志》 ICRを受講した備忘録メモ

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今回観た2021年統合指針・ガイダンスの改正点概要に関する解説《講師:松井健志》の動画はこちら。

新たに導入された内容

REC:倫理審査委員会(IRBじゃないのね)、IC:説明したうえでの同意を得ること

1)「研究協力機関」(ガイダンスp.14):研究機関に協力して、軽微な侵襲の範囲内で新たに試料・情報を収集し、それらを研究機関に「提供のみ」する機関のこと。この機関で動く人は「研究機関」には非該当で「提供のみ」を実行する者は「研究者等」には非該当で研究倫理及び臨床研究に関する教育・研修受講義務は免除される。なので、当該研究についての説明及びIC取得は出来ない。「研究者等」がICを適切に取得する。当該研究への「研究者等」(論文共著者への参画を含む。)としての関与は出来ない。=学会発表や論文で名前を入れる場合は、「研究者」として参加する。「研究協力機関」で動いてくれた人は、論文謝辞で入れる程度。

2)多機関共同研究における「1研究1審査」の原則導入

3)電磁的方法によるIC、いわゆるe-consentの導入:旧指針では、本人確認が担保できないとして導入見送りされていた内容だが、今回で導入された。電磁的説明=「電磁的に記録された文章等により説明」。 直接対面もしくはテレビ電話等でのバーチャル対面にて、PC画面上に説明文書等を映し、研究対象者に閲覧させる。 説明内容を電子メールで送付し、又は研究機関HPに掲載し、もしくはDVD/USBメモリ等を本人に渡し、研究対象者に閲覧させる。
➢電磁的同意=「書面に代えて電気通信回線を通じた同意」
• PC等の画面上の説明事項チェックボックスへの☑+同意ボタン押し
• PC等の画面上の署名欄へのサイン
• 電子メールによる同意表明

説明及びIC取得が可能な者は、「研究者等(IC履行補助者を含
む。)」又は「既存試料・情報の提供のみを行う者」のみ!

・特に電磁的同意を取得する際、研究協力機関側は、「研究対
象者等が確実に説明を受け、説明内容を理解したことを確認しなけ
れば」ならない!

本人確認も重要!

4)REC審査における「報告義務」

REC審査での「報告事項」取扱い可能事項(ガp.142)「研究計画書の軽微な変更」については、旧指針では、迅速審査での取扱いが許容されていたが、あくまで“審査”対象としての扱いであった。今回から、「研究計画書の軽微な変更」のうち、RECが事前に“確認のみで良い”と認めたものについては、REC運営規程にてあらかじめ「具体的にその内容と運用等を定め」られたうえで、RECによる確認のみで済む「報告事項」として取扱うことが可能になった。
• 例)研究責任者の職名変更
• 例)研究者の氏名変更⇦ 改姓・改名のことであり、人が変わる場合は、相変わらず審査が必要、報告ではだめ。

事後的に「これは報告でいい、審査不要」とかいうことはできない。


大きな変更①

リスク・ベネフィット比較考量時の考慮要素の概念変更
倫理指針における基本方針では「研究対象者への負担並びに予測されるリスク及び利益の総合的評価」となっていたが、新では「研究により得られる利益及び研究対象者への負担その他の不利益を比較考量する」ということで、社会へのメリットも考慮していいことになり、メリットデメリットの議論は個人レベルではなく、社会のメリットも考慮してよくなり、国際標準化した。 これはいいね


大きな変更②
「ヒトゲノム・遺伝子」解析研究の概念拡大(ガp.4)。旧ゲノム指針が対象とする「ヒトゲノム・遺伝子」解析研究には、がん等の体細胞変異、並びに遺伝子発現に関する研究及びタンパク質構造・機能に関する研究は含まれなかったが、今回の統合指針における、「ヒトゲノム・遺伝子」解析研究には、体細胞変異をはじめ、エピゲノムやオミックス解析までをも含めた「人由来の試料・情報を用いて、ヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能並びに遺伝子の変異又は発現に関する知識を得ること」全般が含まれることになった。 ←私にはほぼ無関係


大きな変更③
「地域住民等の固有の特質を明らかにする可能性がある研究」における配慮の必要性について追記(ガp.41) (⇦ ゲ指第5(7)): 旧・ゲノム指針では、「遺伝的」特質のみに言及⇒遺伝的特質に限ることなく、特定の集団に“固有の特質”(価値観を含む。)に影響を及ぼし得るような研究では、特別な配慮が必要になった。これは 遺伝的特質はもちろん、 環境的要因による特質や 社会的要因による特質なども包括する。社会学的な調査も配慮が必要。
例) 先住民を対象とする研究;ある宗教・信条を信奉する集団を対象と
する研究;ある神話世界を共有する集団を対象とする研究;発掘人骨・
遺骨を用いた人類遺伝学的研究。なお、発掘人骨等の、現存血縁者が推測不可能であるような人類遺伝学的試料は、「匿名化されているもの(特定の個人を識別できないものに限る。)」に該当することが明確にされた(ガp.76) ★これは私にもかなり関係ある。IRBのスタンスによっては公衆衛生的なっ研究が止められてしまうのではないか。

大きな変更④
「未成年者」の概念変更(ガp.111):旧指針では、「満20歳未満であって婚姻したことがない者」との定めがあったが、民法の平成30年改正(H30年6月13日成立;R4年4月1日施行予定)に伴う変更で、今回の統合指針では、民法施行日以降は「満18歳未満であって婚姻したことがない者」に変更される。

大きな変更⑤
「RECへの付議」とそれに関連する管理責任が、研究機関の長から「研究責任者/代表者(PI)」へ(ガp.50-51)RECは、研究機関の長の諮問機関からPIの諮問機関へ。臨床研究法に基づく特定臨床研究と同じ構図に。 研究機関の長の責任は、REC設置とPI監督責任、適切な臨床研究環境の整備責任、研究実施許可付与のみに縮小され、当該研究に関する最終責任はすべてPIが負うことになる。←まぁ当たり前だよね
• 委受託の契約締結や受託者の監督責任も(ガp.47-49)
• 公衆衛生上のリスク回避のための研究の緊急実施の判断責任も
• 当該研究の相談・カウンセリング体制の整備責任も(変更⑥に関連)(ガp.118)
• 多機関共同研究での他機関RECに対する必要な情報提供責任も(ガ
p.51, p.120, p.132)(REC審査結果、審査過程の記録、REC委員出欠状況の提供等)
• 一括審査RECが外部にある場合でも、有害事象の発生状況報告を当該
RECに対して行う責任も(ガp.120-121)
• 侵襲(+)介入研究での重篤有害事象発生・対応状況の大臣報告責任も
(ガp.131)

大きな変更⑥
「jRCT登録対象」となる研究の拡大(ガp.54)。旧指針では、研究に関する公開データベース登録が義務付けられていたのは「介入を行う研究」のみだったのが、今回の統合指針では、介入を行う研究以外の研究についても、「当該研究の概要をその研究の実施に先立って登録し、研究計画書の変更及び研究の進捗に応じ更新」及び「当該研究の結果の登録に努めなければならない」ことに(いまのところは“努力義務”規定に留まる) ←これは公衆衛生研究にも大きな影響あり。規制(仕事)がまた1つ増えた。意義を明確にしてほしい。役所っぽい発想に基づく変更だな。

大きな変更⑦
「研究により得られた結果等の取扱い」(第5章第10)に含まれる内容の拡大と説明規定の旧ゲノム指針からの移設ベースとなる規定は、旧ゲノム指針にあったものであった。 旧ゲノム指針での“結果等の説明”対象は遺伝情報に関する内容(遺伝学的な偶発的所見IFを含む。)のみであったが、今回の統合指針では、すべての研究において、「当該研究により得られる結果等」の説明方針を研究計画書において定めなければならないことになった。(ガp.115-117) かつ、結果等の説明方針についてIC取得時には「説明し、理解を得なければならない」ことに(・・・旧指針ではあくまで“努力義務”だったが)なった。 遺伝情報に限ることなく、研究対象者の血縁者等から個別に研究結果等の説明を求められた場合の方針も含めて。結果等を踏まえた相談・カウンセリング体制の整備も必要に。(ガp.118)なった。 ←これは私には正直関係ないが、見て見ぬふりをする研究者が増えるのではないと邪推。


大きな変更⑧
「重篤な有害事象が発生した際の対応」を研究計画書に記載すべき研究範囲の拡大(指第7(1)⑳) 旧指針では、「重篤な有害事象が発生した際の対応」を研究計画書に記載すべき研究の範囲から、“軽微な侵襲”の範囲に収まる研究は除外されていたが、今回の統合指針(の本文)からは、“(軽微な侵襲を除く。)”が削除されていることから、すべからく「侵襲を伴う研究」においては当該記載が必要になる、としか理解できない内容に変更(ガp.63) ←これは個人的には結構大きな変更。「軽微な侵襲を除く。」の軽微ってなんだよ、調査票は軽微なのか?内容によるのか?など議論したのが懐かしい。

マイナーな改正点など


• 旧ゲノム指針規定:「個人情報管理者及び分担管理者は、その提供
する試料・情報を用いてヒトゲノム・遺伝子解析研究…を実施する研
究責任者又は研究担当者を兼ねることはできない。」は廃止(ガp.149)
(=> 個人情報管理責任者を設置する場合は、選定・運用方針を手順書にて定めること。(ガp.45)) ←合理的だなと思った。

• 説明文書・同意文書は、「一研究計画一様式」とすることに。多機関共同研究では、各機関固有事項以外の共通事項を記載(ガp.48)
• 多機関共同研究での試料・情報の収集・提供業務は、個々の研究は多機関共同研究としてまとめず、別の研究計画書作成が必要に(ガp.48⇒但し、その意味が不明瞭) この2点は相反する??

• 委受託契約においては、委託範囲を超えた利用の禁止、委託を受けた者以外への提供の禁止、契約終了後の廃棄・返却等を含めた遵守事項を定める必要あり(ガp.48):業務委託内容をあらかじめ明確化しろと。
• 研究登録DBリストから、日本医療情報センターと日医JMACCTを削除:この2つ知らないので関係なし。

• 「研究者等」の「等」には、「ICを受けるのに必要な業務の一部を行わせる(、)研究機関に属する者以外の者」(「(IC)履行補助者」:法令/契約において守秘義務が課されている者である必要あり。)も含まれる(ガp.17 ⇦ゲ指)だからこそ、「研究協力機関」の属員として協力する者は、ICを受けること(そのための説明を含む。)ができない。

• 研究計画書に「研究対象者の選定方針」の詳細な記載(配慮した研究方法等を含む。)が必要に(ガp.60 ⇦ゲ指)

• 研究の一部を外部機関に委託する可能性が有る場合には、その旨をICを受ける際に説明する必要あり(ガp.98):←大学が自分でやるなら関係ないが、コンサルなどに委託する場合には、事前にそれを明示する必要があるということね。

・「ICの手続等の簡略化」を用いることのできる研究は、「手続きの簡略化を行わないことで、研究実施が困難又は研究の価値を著しく損なうような研
究のみを想定している」ことを明記(=> 乱用の禁止)(ガp.105)
• 代諾に関する「親権者又は未成年後見人等」の「等」の追加:「等」には、児童福祉施設長、児童養護施設長、里親等が含まれ得ることに。(ガp.110)

・研究の進捗状況報告での報告事項として試料・情報の「保管方法」
と外部への「提供状況」を追加(ガp.121)
• REC審査にてテレビ会議等が許容されることに(音声のみは不可)
(ガp.135)
• REC審査結果の類型の変更:「条件付承認」、「保留」を削除。また、
「修正の上、承認」等の審査結果が不明確なものは不適当に(ガp.137)
• 研究責任者/研究代表者は、当該研究に関するREC審査過程がわかる記録、当日のREC委員の出欠状況を示す書類を受け取る必要あり(ガp.138)




全体としての感想:ますます研究者の自由な発想に基づく研究やりにくくなってきたと感じる。研究が、研究者の自由な発想に基づく知的創造行為から、知的定型業務化するなと感じた。研究者は、知的工場労働作業員化(論文作成から提出までも含める)。研究者の待遇が改善するならまだしもそうでないなら、ますます医者の研究離れが進んで、日本の(臨床)研究どんどん沈没するんじゃないのか、これ。

研究者:材料・データ確保・ICできる。論文に名前のる。

IC履行補助者:法律で守秘義務あり。材料確保・ICできる。論文に名前のらない。イメージ的には研究者の管理下で動く。

協力者:材料・データ提供できるが、ICできない。論文に名前のらない。

外部委託するときには、内容をかなり細かく決めて、説明文章にそれを明記して同意をもらう必要がある。=研究開始前に、IRBにそれを明記する必要もある。資金獲得→IRB、並行して外部委託先と契約詰める、→研究開始、か。かなり大変そう。


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