本の感想②「人狼サバイバル①」

前回に引き続き、児童文庫「人狼サバイバル」を読み終わったので感想を残しておきます。

読む前から結構期待値が高かった作品だった。
メディアミックスをしていないのに青い鳥文庫の中でもかなり売れているシリーズで、子供の頃もこういうハラハラ系は好きだった。

作者も言っていたが、既存の人狼ゲームとは異なり、大分簡素化されたルールのゲームを行っている。本来の人狼らしく役職などを取り入れたらそれはそれで複雑な心理戦を楽しめただろうが、いかんせん対象は小学校3,4年生だ。役職が増えれば登場人物も増えるし、理解するのが難しくなる。
そういった読みづらさを無くし、狼は誰なのかを心の中で探り合う緊張感、狼と対峙する恐怖、数秒を争うバトルの切迫感に集中して書かれたものだと感じた。

読み始めの頃はルールを簡素化しすぎて少々退屈に感じたが、後半の狼の正体に迫る場面や、狼に追いかけられながら勝利を目指すあの1秒すら長く感じる限界状態を読んだときは、大人の自分ですら興奮した。
個人的に好きだったのは、狼がどんどん近づいてくる描写を、”十歩。九歩。八歩。~~~”と1歩1歩カウントダウンしたシーンだ。迫りくる巨大な狼を読者の私たちも肌感覚で感じているようだった。
主人公が答えに気づいたシーンもとても読みごたえがあった。どうして推理小説などの種明かしシーンはあれほどまでにわくわくするのだろうか。

さすがに人が死んだりはしなかったが、軽快で重くなり過ぎず、疑惑のまなざしや心理戦のヒリつきを感じることが出来る、かなり読み応えのある児童読み物だと思う。

最後に若干気になった点はキャラクターたちだ。特に主人公のハヤト。
人物紹介で彼の性格を、先を読むことは得意だが何かを決める場面では自ら決断を下すのを避ける子のようだ。
確かに作中でも、そんなの決められないというセリフはいくつか出てきた。このセリフは彼の性格をよく表現されているものだと思う。
しかし彼は人狼ゲームの中でかなりの数を決断していると思うのだ。狼が放たれたときに最多得票者をかばったり、共に戦ったりもした。もし言われた範囲の中で先を読み行動できる子だとしたら、いちはやく狼から効率よく確実に逃げられる方法を考えると思う。しかし彼はその場に残ると決め、狼に襲われる子を助け、一緒に戦うことも決めた。これは大人である伯爵の言われたことに逆らっている行動である。
確かにハヤトが狼と闘わなければ物語は進まないし、薄い物語になってしまうのだが、彼の行動を人物紹介の彼の性格がどうも合わないように感じてしまったのが少し残念だった。

ただ次の巻も買いたいと思わせるほど面白かった。
確かにこれは売れるなぁ。

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