見出し画像

仁左衛門の「一世一代」の知盛に圧倒された、歌舞伎座二月大歌舞伎

2月は、第1部、第2部、第3部のすべての回を観たくて、チケットを確保しました。結果は、「行って良かった!」です。


「一世一代」とは?

個人的に一番観たかったのは、第2部の『義経千本桜』「渡海屋とかいや大物浦だいもつのうら」。この演目には

片岡仁左衛門 
  一世一代にて相勤め申し候

と書かれていることがわかります。
「一世一代」とは、『新版歌舞伎事典』(平凡社)によると、
「老齢に達した能や歌舞伎の役者が、引退を覚悟して勤める最後の舞台、またはその演技をいう。舞台納め。」
とあります。
つまり、片岡仁左衛門が渡海屋銀平実は新中納言知盛を勤めるのは、今回が最後ということ。本人もインタビューで、
「まだできるかもしれないが、みっともないものになる可能性があるため、自分で終止符を打つことにした」
と話しています。

歌舞伎役者は、一生役者。自分自身で「この役を勤めるのは、今回が最後」と線引きををして「一世一代」として役を勤めることがあります。
片岡仁左衛門は、2009年6月の「歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎」の昼の部で『女殺油地獄おんなごろしあぶらのじごく』の主人公・河内屋与兵衛を一世一代で勤めています。


仁左衛門の知盛が素晴らしかった『渡海屋・大物浦』

渡海屋銀平として花道から登場した姿は、若々しくてさわやか。世話でくだけた感じもほどほどで、良かったです。
知盛に戻って、幽霊に姿を変えて義経一行を追っていくところから、きっぱりとした、時代に変わるところに、知盛の覚悟が見えました。銀色の衣裳で登場した時は、平家の武将としての大きさもありました。なお、知盛の銀色の衣裳は、亡霊に化けていることを表します。

見どころは、大物浦の手負いになってから。
知盛は、亡霊に化けて海上で義経一行を襲う計略でしたが、義経はすべてお見通し。知盛たちは劣勢となり、知盛は血に染まり、矢の突き刺さった姿で現れます。

一族を滅ぼした義経への復讐心によって何とか生き延びていた知盛ですが、幼い安徳天皇の
「我を供奉ぐぶなし永々の介抱はそちが情、今また我を助けしは義経が情、仇に思うな、コレ知盛」
呼びかけによって、崩れ落ち、敗北を悟ります。
それに追い打ちをかけたのが、典侍すけの局の自害。
生きながら怨霊と化していた知盛は、恨みを捨て、碇を巻きつけて、海に沈みます。

仁左衛門の知盛は、観ていて、気持ちが変化していく様子がわかり、最後の入水の場面まで丁寧に演じていたと思います。
まさに、「一世一代」の素晴らしい知盛でした。

そんな仁左衛門の気持ちに応えるように、周りの役者さんも良かったと思います。

典侍の局の片岡孝太郎。銀平女房お柳から、十二単姿の典侍の局に変わった時は、天皇の乳母であるというくらいの高い女性であるということがわかり、良かったと思います。

源義経の中村時蔵は、気品と、源氏の大将という大きさを兼ね備えていました。

安徳帝を勤めていた小川大晴君(=中村梅枝の長男)、セリフもしっかりしていて、良かったですね。


真山青果劇『元禄忠臣蔵』での、セリフの応酬

第1部は、真山青果作『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』が良かったです。

徳川綱豊卿の中村梅玉。何度か手がけていますが、今回も品があるだけではなく、次期将軍(=6代目徳川家宣)となる大きさもあり、セリフもはっきり聞かせます。

対する富森助右衛門の尾上松緑。時々、セリフに変な癖があるので心配していましたが、今回は全く気にならず、綱豊卿とのセリフの応酬も素晴らしかったと思います。

個人的には、御右筆江島の中村魁春の帆船模様の打掛に見入ってしまいました。中臈お喜世の中村莟玉は、ちょっと幼い感じがしました。


『鼠小僧次郎吉』での、97年ぶりの親子共演

河竹黙阿弥作『鼠小僧次郎吉』は、主人公の鼠小僧を尾上菊之助、しじみ売り三吉を菊之助の長男・丑之助が勤めるという、97年ぶり(!)の親子による配役での上演が話題になりました。
私は『鼠小僧次郎吉』は初めて観たのですが、いかにも黙阿弥らしいというか、
「何でこうなる?」
「実は、親子??」
とういう展開の連続でした。登場人物も、鼠小僧こと、稲葉幸蔵をはじめ、一癖も二癖もあるような人たちばかりですし。

中では、蜆売り三吉を丑之助君がしっかり演じていて、将来が楽しみです。


公演の中止について

2月の歌舞伎座第3部は、途中、14日から19日の公演が中止になりました。私は観ることができたのですが、
「せっかく予定を調整して、チケットをとったのに……。」
という方もいたのではないかと思います。
私も、歌舞伎座1月公演の第1部は、公演中止で観劇できませんでした。

歌舞伎座に行くたびに、しっかり感染対策をしていると思うのですが、仕方ないですね。
早く安心して観劇できる日が来ますように。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?