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【手紙みたいな小説】バレンタインデーにチョコは受け取ってくれたクラスメートの男子へ


もう40年以上前なんだけど。
今はどこでどうしているか、まったくわからない男子の君に。

ひとこと、お礼がいいたくて。
中学1年のバレンタインデーに、チョコは受け取ってくれてありがとう。

あの日のことを思い出すね。
バレンタインデーは、女子ならだれでも一度はチョコを渡して告白する
って思うものだったのよ。
わたしも
たぶん買ったチョコにメッセージカードを添えて
その日、学校に持って行った。

女子は、目当ての男の子に渡すの。
渡すのが目的で
告白するとかつきあうとか
そんなのはどうでもよかったかも。
つきあうって、どんなことなのか当時のわたしも
よくわかってなかったかも。

クラスの女子たちが
男子を探して渡して、
渡せてよかったね~
っていうのを聞いてて、それでいいやって思ってた。

その間に、君は帰っちゃってて。
帰っちゃったんならもうしょうがない
今日は渡せなかった。
って、がっかりしてたら
クラスメートの女子が、
それでいいの? 渡しに行こう
って、いってくれて、いっしょに君の住んでいる団地まで
追いかけていったのよ。

団地の階段の踊り場で
やっと君をつかまえて
泣きそうになりながらチョコを渡した。

次の瞬間
俺、おまえのこと好きじゃないから
って見事につきはなしてくれた。
で、すたすた自分の家に帰っちゃった。

悲しくてショックを受けてるわたしに
いっしょについてきてくれたクラスメートの女の子は
その子が、もう誰だったかなんて全く覚えてないんだけど、
チョコを渡せてよかったね
告白できてよかったね
ってことを言ってくれた気がする。
女の子同士は、こういうところ、わかってくれてるのよね。

実は、
君がはっきり好きじゃないって言ってくれたこと
とってもありがとう。
あれから40年以上経った今だから
ありがとうっていえる。

あいまいな言葉でごまかさないで
ごまかしてわたしに変な期待を持たせないで
好きじゃないから
あきらめろ、って言ってくれたんだよね。
ありがとう。

それでもわたしは、やっぱり悲しくて。
現実で恋をしても
報われることはないのかなって、思った。
だから、バレンタインの後に
わたしは小説を書き始めることができた。

わたしと理想の男の子が出会って
恋人同士になった話。
目が覚めたら、リアルな夢だったなあって幸せな気持ちになって。
そしてある日、現実でも理想の男の子と出会う。
ああ夢の中で出会った恋人だって
おたがいにひとめでわかる。
さてこれから二人はどうなるのかな。
ってところで終わり。

大学ノートに2ページか3ページの短い小説は
もう手元にはないけれど
覚えている。

あれから40年以上経つ。
わたしは、今でも小説を書いている。
実は、小説を書き始めることができたのは
君のおかげだったのよ。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ほんとにありがとう。
ほんとにほんとにほんとうに、ありがとうね。




※この小説のモデルになった事実はありますが
 記憶の中でしっかり脚色されてます※

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