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◇高嶋イチコ自選集◇

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自己紹介がわりに、これまでの投稿で特にお気にいりの物を集めました!
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#夫婦

105日目:たいおん【体温】→掌編小説

たいおん【体温】 動物体のもっている温度。 ◆◆◆ 彼の妻から電話が掛かってきたとき、わたしは初めて耳にするその名前を、新鮮な気持ちで聞いた。 「トクラの妻です」いつもの番号からスマホに掛かってきた電話をとると、女の声がそう言った。 “トクラ”は頭のなかでうまく変換できなかったけれど、女が“妻”の部分を強調したことはわかった。 通いなれたコンビニの雑誌コーナーの前。わたしはなぜか、目の前にあった読みもしない女性週刊誌をカゴに入れ、我にかえってラックに戻した。 「トクラ

32日目:ねごと【寝言】→エッセイ

ねごと【寝言】 眠っている間に無意識に言う言葉。 ***************** 夫の寝言がひどい。 ある日、寝ている夫の横で本を読んでいたところ。隣でむにゃむにゃいう彼の声をよく聞いてみると、、、 「じす いず ごりら…」 !? ちなみに夫は英語が苦手だから、ゴリラの前につけるべき冠詞の“a”が抜けている。 寝言に答えると、寝ている人が黄泉に連れていかれると聞くけれど、どうしても知りたい。今、どういう状況? バンバンと肩をたたいて起こすと、夫も寝言に気づいたようで

手放せない葛藤があってもいい。

「俺って、どうしてこうなんだろう」 夫と出会って10数年。彼がそういって自分自身を責める姿を、なんども、なんども、見てきた。 夫は、世間から見れば不器用とされる自分の生き方を、完全には肯定しきれず葛藤を抱えながら生きている。 その様子を見る度に、「彼を好きなわたし」まで否定されているみたいで、悲しかった。 深いところまで沈みこんだ夫には、わたしの声は届かない。 でもね。先日、落ちこんで丸まった夫の背中を見ながら、ふっと思った。 10年以上も、葛藤を手放さず抗いつづけ