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◇高嶋イチコ自選集◇

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自己紹介がわりに、これまでの投稿で特にお気にいりの物を集めました!
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#日記

夜に住む子供たち

「おっさんのオナニー見るだけで1万もらえるんだけどさ。一緒にやらない? めっちゃ稼げるよ」 騒がしい教室で、同級生のKは昼食のパンを齧りながら言った。 15歳だった。 「ごめんごめん、イチコはそういうのやらないもんね」 答えに詰まる私に、Kは笑ってそう言った。 ススキノから徒歩圏内の学校で、こういう類の話は日常的に流れてきた。 年齢をごまかしてニュークラブ(他県でいうキャバクラ)で学費を稼ぐ子、援助交際で弟を養う子、イメクラで稼いだお金を年上の彼氏に渡している子…。 彼

恋の痛みも、煙のように消えていく。【エッセイ】

はじめて付き合った男は、エコーの匂いを纏っていた。 オレンジ色のパッケージに包まれたその煙草は、当時180円。コンビニに並ぶ銘柄のなかでも格段に安い。 「音楽家だからさ。いいでしょ、エコー」 そう言って彼は、大きな手でジャズベースを弾いていた。 わたしが初めて吸ったのも、同じ煙草。 朝になっても帰らない彼を待ちながら、なかばやけくそで、灰皿に溜まったシケモクをひとつ手にとり、火をつけた。 肺が苦しくて、ぶざまに咳きこんだ。涙目になりながら、彼に似合う女になりたいと思った

わたしは処女作に向かって成熟できるのか?

今日はわたしが2年前、初めて書いた小説を晒してみる。 本名ばれちゃうけど、最近そこら辺がどうでも良くなってきたので(笑) 下記リンク先の、「鬼の棲む場所」という短編小説がわたしが書いたものです。 http://www.kochi-art.com/pdf/prize-46.pdf 読みなおすと、修正したい部分がいっぱいある。けれど、当時は自分なりに、主人公の気持ちを書き切ろうと必死に原稿用紙に向かったので、愛おしさもある。 「作家は処女作に向かって成熟する」 小説を書い

書きつづけるって(今のところ)楽しいよ。

「 #挫折しないコツ 」Googleフォームで長文回答しようとしてブラウザが落ちるというのを3回やって、もうええわ!と思ったので、記事にする。 noteの毎日更新をはじめて7カ月が経過した。 誰に頼まれて書いてるわけでもないし、仕事につなげたいわけでもない。 文豪の作品を図書館や青空文庫でいくらでも読める時代、わたしの文章はたぶんこの世に必要ない。 (だからいつも、読んでくれる方にちょっとだけ申し訳ない気持ちがある。この記事に書いた。) でも。 『頼まれてない』『仕事を

エッセイは絵画で、小説は立体造形アート。

エッセイを書くこと、小説を書くこと。同じ『書く』でも、わたしにとっては全く別の作業だ。 例えるなら、エッセイはモデルを前にして描く絵画、小説は立体造形アートという感じ。 エッセイを書くとき。 わたしは『実際の出来事』をモデルとして描写し、自分と同じ純度の感情(美しい、悲しい、怒りetc)を、読んでいる方の胸の中に再現したい。 モデル(=出来事)よって描き方は変わって、抽象画のときも、写実画のときもある。 対して、小説はわたしにとって立体造形アートのようなもの。 自分の胸に

32日目:ねごと【寝言】→エッセイ

ねごと【寝言】 眠っている間に無意識に言う言葉。 ***************** 夫の寝言がひどい。 ある日、寝ている夫の横で本を読んでいたところ。隣でむにゃむにゃいう彼の声をよく聞いてみると、、、 「じす いず ごりら…」 !? ちなみに夫は英語が苦手だから、ゴリラの前につけるべき冠詞の“a”が抜けている。 寝言に答えると、寝ている人が黄泉に連れていかれると聞くけれど、どうしても知りたい。今、どういう状況? バンバンと肩をたたいて起こすと、夫も寝言に気づいたようで

手放せない葛藤があってもいい。

「俺って、どうしてこうなんだろう」 夫と出会って10数年。彼がそういって自分自身を責める姿を、なんども、なんども、見てきた。 夫は、世間から見れば不器用とされる自分の生き方を、完全には肯定しきれず葛藤を抱えながら生きている。 その様子を見る度に、「彼を好きなわたし」まで否定されているみたいで、悲しかった。 深いところまで沈みこんだ夫には、わたしの声は届かない。 でもね。先日、落ちこんで丸まった夫の背中を見ながら、ふっと思った。 10年以上も、葛藤を手放さず抗いつづけ