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◇高嶋イチコ自選集◇

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自己紹介がわりに、これまでの投稿で特にお気にいりの物を集めました!
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2019年7月の記事一覧

恋の痛みも、煙のように消えていく。【エッセイ】

はじめて付き合った男は、エコーの匂いを纏っていた。 オレンジ色のパッケージに包まれたその煙草は、当時180円。コンビニに並ぶ銘柄のなかでも格段に安い。 「音楽家だからさ。いいでしょ、エコー」 そう言って彼は、大きな手でジャズベースを弾いていた。 わたしが初めて吸ったのも、同じ煙草。 朝になっても帰らない彼を待ちながら、なかばやけくそで、灰皿に溜まったシケモクをひとつ手にとり、火をつけた。 肺が苦しくて、ぶざまに咳きこんだ。涙目になりながら、彼に似合う女になりたいと思った

ボストンバッグに寂しさを。【ショートストーリー】

「ナイアガラの滝は、ひとりで見るものじゃない。寂しいじゃないか」 一人旅のわたしに、ツアーバスの運転手はそう言った。 その言葉になんて答えればいいのかわからないまま曖昧な笑顔をかえして、わたしは目的地への道を急いだ。 分厚い水の壁が、地響きのような音を立てて壊れ続ける。 ナイアガラの滝は美しく、恐ろしい場所だった。 足元に広がる地球の裂け目に、自分もすい込まれそうになる。 周囲の笑い声が遠のいて、「寂しいじゃないか」という言葉が、ぽつんと胸に波紋を広げた。 帰りのバス

書きつづけるって(今のところ)楽しいよ。

「 #挫折しないコツ 」Googleフォームで長文回答しようとしてブラウザが落ちるというのを3回やって、もうええわ!と思ったので、記事にする。 noteの毎日更新をはじめて7カ月が経過した。 誰に頼まれて書いてるわけでもないし、仕事につなげたいわけでもない。 文豪の作品を図書館や青空文庫でいくらでも読める時代、わたしの文章はたぶんこの世に必要ない。 (だからいつも、読んでくれる方にちょっとだけ申し訳ない気持ちがある。この記事に書いた。) でも。 『頼まれてない』『仕事を