恋の痛みも、煙のように消えていく。【エッセイ】
はじめて付き合った男は、エコーの匂いを纏っていた。
オレンジ色のパッケージに包まれたその煙草は、当時180円。コンビニに並ぶ銘柄のなかでも格段に安い。
「音楽家だからさ。いいでしょ、エコー」
そう言って彼は、大きな手でジャズベースを弾いていた。
わたしが初めて吸ったのも、同じ煙草。
朝になっても帰らない彼を待ちながら、なかばやけくそで、灰皿に溜まったシケモクをひとつ手にとり、火をつけた。
肺が苦しくて、ぶざまに咳きこんだ。涙目になりながら、彼に似合う女になりたいと思った