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イーサン

アメリカの小学校は6月最初の週が学年度末です

州や地域によって差はありますが
大体5月下旬から6月中旬までで
長い長い夏休みに入ります

私は小学校の自閉症児のクラスで
職員をしています

幼稚園から2年生の担当で
早いもので5年目が終わります

去年入学してきたイーサン
今年はガッツリ担当になりました

去年はご両親の希望で
普通クラスに半分以上在籍していたんです

自閉症というのは
ものすごく範囲が広くて
普通に生活していても
「ちょっとあわてんぼうだけど」
程度の子たちもいれば
言葉を話せなかったり
全く意思疎通が成り立たない子たちまで
いるんですよね

イーサンは
学力はすごく高いんです
けれどもじっとしていられない
言われたことを始めるまでに
とても時間がかかる
急がせると逃げ出して
物陰に隠れてしまう
「こうしなさい」は
「逃げろ!」の合図になって
出てこなくなってしまう

そんな去年だったので
専門のテストや検査を受けて
診断が降りて
正式に私たちの仲間になったのでした

だから去年は私たち教師と職員にとって
彼の個性を見極めることに
とてもチャレンジの多い時間となりました

夏が終わって新学期が始まって
私が担当になったときは
正直に言うと
「えー、私で大丈夫かな…」と
不安だったんです

案の定、最初の1ヶ月は
私が一言発するだけで
走って逃げて机の下や色んな隙間を見つけては
潜って出てこない

苦手意識持っちゃいます
どうしたもんか…
悩みそうにもなりました

彼の目が、とても怯えていることは
気づいていたので
何かが彼にとって怖いのかな
とか
何を言うと逃げるのかな
とか
観察して試して観察して試して
そうやって彼の個性を知る事を続けました

私は今神戸メンタルサービスで
初級講座で学んでもいるのですが

平先生がよく「北風と太陽」のお話をされるんですね
私はこのお話の例えが好きで
自分の身の回りで起こる事象に
このお話の中の「太陽さんになる」
イメージをして行動しているんです

イーサンにも「太陽」に徹してみよう
そう決めて
毎朝教室に来たら
両手を広げて彼の背丈まで腰をかがめて
思い切りハグをすることから
始めたんですね

「イーサン、書き取りノート始めるよ」
そう言うと
足をバタバタさせて玩具箱の影に潜ります

私は何も言いません
出てきなさいも
覗きに行くこともしません

ただ待ちます

「イーサンと書き取り練習したいなぁ」
「出来そうになったら出ておいでねー」
私だけ先に椅子に座って
彼の机の前で待ちます

こっそりのっそり
陰から私を片目だけ覗かせて
観察しているのはわかってます

しばらくすると
ようやく出てきて
ちょこんと机まできて椅子に座ると
そこからは静かに書き取りを始めます

何事もなかったように私は見守り
書き終えたら
思い切りたくさん褒めます

どれくらい時間がかかったでしょうか
20分も15分も出てこなかったイーサン
少しずつ隠れる時間が短くなり
ある朝とうとう
「イーサン、書き取りノート始めようか」
と声をかけると
握っていたおもちゃをスッと置いて
くるっと振り向いて
スタスタスタと
真っ直ぐ机に来るようになりました

私よりも
一緒に辛抱強く見守ってくれていた
担任の先生が
思わずガッツポーズ決めました

学びました

彼の中には時間のルールがあって
彼のペースがあって
それを邪魔されるのがとても嫌い

これまでは家でもどこでも
言われてこない時は
無理やり引っ張り出されて
怒られて
厳しく言われて
連れ出された

彼の中ではペースがあるのに
それを無視されて
怖かったし不安だったし
誰も信じられなくなっていた

ずっと北風さんに吹かれ続けてた感じかな

太陽さんが現れて
いつまでたっても
北風さんに変身しない

しかも
太陽さんが増えてきたらしい
隠れた箱の奥から片目だけを出して

イーサンもずーっと観察してた

いよいよ
これは大丈夫なのか
信頼してもいいのか
彼の中でオッケーが出せた

信じて出てみたら
太陽さんは変わらず待っていてくれる

イーサンはその日から
早くしなさい!
と言われる世界から抜け出せました

時々イーサンルールを知らない先生が来ると
あっという間に隠れてしまって
また一からになってしまうけれど

この1年で
体操やアートのクラスに移動の時は
私の手を握り
彼のイマジナリーフレンドと
おしゃべりをしながら
彼のペースで上手に授業を受けられています

太陽の力すごい

舌足らずな話し方をする
クリクリ頭のイーサン

心が繋がらない時は
難しくて苦手だったけれど

心を閉じていたのは私だった
太陽さんになることを教わって
待つことを学びました
急がない事を学びました
一人一人にペースがあって
それでいいんだよ
気長で行こうよ
そんな自分になれたのも

全てイーサンが教えてくれました

来年は2年生
一緒に過ごせる最後の一年かな

信頼してくれてありがとう
甘えてくれてありがとう
イーサンでいてくれてありがとう

☆あなたがあなたらしく 笑顔で過ごせますように☆

皆さんの心の平安をお祈りしています

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