なぜその男は前世、ローマ人であったのか?
わたしの夫は前世ローマ人であった。
テレビで「テルマエ・ロマエ」が放送される度に、そう思わずにいられない。
見た目は、テルマエ・ロマエで主役のテルマエ技師を演じた阿部寛と、ケイオニウスを演じた北村一輝を足して二で割ったような顔をしている。
「テルマエ・ロマエ」の続編があればきっと出演オファーがくるに違いない超「特濃ソース」顔である。
しかし、濃い~見た目に反して、性格はいたって温厚。普段は声を荒らげることもない。
目玉焼きの焼き加減も、休日に着る洋服にも、まったくこだわりがない楽な男である。
そんな夫にもひとつだけ、強いこだわりがある。
以前、夫がインフルエンザにかかってしまったことがあった。
熱はどんどん上がり続け、体温計は38℃。
真っ赤な顔で、食事もほぼ喉を通らず布団の中で苦しそうにしている。
汗もかいているようだった。
「気持ち悪いでしょ、タオルで体ふこうか」
お風呂は無理だろうから、せめて着替えだけでもと思った。
「風呂にはいるから、だいじょうぶ」
聞こえました? 高熱で息も絶え絶えな夫の言葉。
念のためもう一度聞き返す。
「ごめん、なんて?」
夫はさっきよりも大きな声で答えた。
「風呂に、はいる!」
ダメに決まってんだろ!
心の声をなんとかしまい、夫を説得しようと試みる。
高熱のとき、風呂に入るのは危ない。
着替えを持ってくるし、体もふくから今日はあきらめて大人しく寝よう。
そう提案するも夫は、頑として聞き入れない。
晩ごはんのおかずが丼しかなくても、私がねこさん柄の変なパンツを買ってきても、文句の一つも言わないあの夫が、である。
「ぜったい、ふろに、はいってから、ねる!!」
結局夫を止められず、風呂で怪我をしないようにひやひやしながら見守るハメになってしまった。
夫の風呂に対する執念はすごい。
古代ローマ人のテルマエに対する執念に通じるものを感じる。
そんなわけで「テルマエ・ロマエ」を観るといつも思う。
あぁ、夫はきっと前世ローマ人だったのだな、と。
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