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秋色フェルマータ

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保健室登校の少女に恋する少年の物語。全22話の長編小説です。完結しました。
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「秋色フェルマータ」第1話

 何かが変わるのはいつもギリギリのタイミングだ。それは夏休み最後の日の出来事だった。  …

國枝志帆
11か月前
22

「秋色フェルマータ」最終話

 電話したら、志摩はすぐに出た。「今、お庭で椿のお世話してるんです。よかったらいらっしゃ…

國枝志帆
10か月前
8

「秋色フェルマータ」第21話

 翌日、俺はリビングのソファに転がり、食い入るようにスマホを見つめていた。本気の調べもの…

國枝志帆
10か月前
12

「秋色フェルマータ」第20話

 十一月の帰り道、陽が傾くのが早くなった。雲一つない青空に金色の太陽が輝いている。あと少…

國枝志帆
10か月前
6

「秋色フェルマータ」第19話

 驚いて志摩を見た。柔らかな表情だが、心の内が読み取れない。整った顔がいつもより一段と人…

國枝志帆
10か月前
7

「秋色フェルマータ」第18話

 男子更衣室で質問攻めにあった。俺と志摩が話しているのを遠巻きに見ていたやつらだ。物珍し…

國枝志帆
10か月前
6

「秋色フェルマータ」第17話

 翌日のことだ。二年生の廊下でいるはずのない背中を見つけた。 「志摩?」 「おはようございます。秋くん」  志摩は当たり前の顔で振り返った。廊下は教室に向かう生徒たちでごった返していた。みな声こそかけないが、見慣れない女子生徒を盗み見ている。 「な、なんで……大丈夫なの? こんな時間にここにいて」 「早朝の誰もいない廊下を選んでいたのは失敗して恥をかきたくないからです。ならば逆に、人目のある時間帯なら失敗はできません。背水の陣です」  呆然とする俺を残して、志摩は

「秋色フェルマータ」第16話

 修学旅行を終え、保健室に足を運んだ。放課後の廊下は赤かった。鮮烈な夕映えだ。目に映るも…

國枝志帆
10か月前
4

「秋色フェルマータ」第15話

「お風呂から出るの早すぎない?」  俺はきょとんとした。 「そりゃあお前に比べたらな」 …

國枝志帆
10か月前
4

「秋色フェルマータ」第14話

 これが金曜日の夜の出来事だ。次の月曜日から修学旅行だった。修学旅行は楽しかった。高校生…

國枝志帆
11か月前
3

「秋色フェルマータ」第13話

「キリュウさん? えーっと、いらっしゃったかしら……うちの生徒さん、たいてい名前でお呼び…

國枝志帆
11か月前
3

「秋色フェルマータ」第12話

 土曜日の夕方、聡の家で遊んでから外に出ると、もう暗くなっていた。さらりとした夜風がパー…

國枝志帆
11か月前
3

「秋色フェルマータ」第11話

 ドーナツ六つを平らげた葵は機嫌を直して帰っていった。あいつが単純でよかった。  そして…

國枝志帆
11か月前
4

「秋色フェルマータ」第10話

「なんだか浮かない顔ね、秋」  休日の午後、我が家のリビングのソファで私服の葵が転がっていた。今日はひらひらしたワンピース姿ではない。上下とも黒いスウェット姿だ。 化粧っけのない顔に黒ぶちの眼鏡をかけ、長い黒髪はヘアゴムでざっくりと一つ結びにしている。 「……休みの日は別人だよな、お前」 「家でどんな格好しようと勝手でしょ」 「ここ俺の家だよ」  せめて自分の家で転がれよ。葵は「このRPG、もうすぐクリアできるの」とゲームのスイッチを入れた。ゲーム機もソフトも俺の