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夏日記① 挫折とディズニーランド

5月2日

継続ができない。
書店で「十年メモ」なる辞典のように分厚いノートを見かけた。
十年というけして短くはない歳月。それがつぶさに記録されたら、自分のこととはいえ、読み応えがあるはずだ。
食べたものや見たもの、おとずれた場所を箇条書きでメモしていくだけでも、自分の歴史が形づくられてゆくようである。
単調に思える毎日でも継続すればそれは立派な人生だし、それがオンリーワンの作品になるなんて、すてきなことだと思う。

続けばの話だが。

私は今までさまざまなものに挑んできたが、小説を書くこと以外はほぼすべて挫折している。
朝活、料理教室やヨガ、スポーツジムなど比較的挫折しやすそうなラインナップに加え、アクセサリー作りや健康のためのサプリメント、エスカレーターではなく階段を使う心がけ、読書ノートやライフログ、気を抜くと歯医者の定期検診すら挫折しそうになる。
(先日、母の歯が根元からぶっこ抜けて震え上がり、しぶしぶ私も予約をした。身近な人に不幸があると再開できる)
続いているのは酒を飲むことくらいで、色々と終わっている。

なぜ小説だけいまだに続いているのか自分でも謎なのだが(かれこれ十年以上書いている)、なんのかんのと面倒を見てくれる編集さんや、刊行につき関わってくださったみなさまの頑張りに報いたい一心で、なんとか校了までこぎつけている。

完成後は気がぬけてしまい、また挫折の種が生活のあちこちに撒かれるのだが、応援してくれる読者さまのおかげで、芽が育つまえに書いて良かったと思えている。
購入のご報告やご感想をいただけると天にものぼる気持ちになるし、デビュー当時から変わらずお手紙を送ってくれる方もいる。
中には差し入れをくださる方も居て、世の中捨てたものじゃないんだな、と感じ入る日々である。
なので、これだけは続けられている。

スタートから熱い気持ちで継続できないことを語り、タイトルにも「夏日記」とつけているあたり、すでにみずから余命宣告をしてしまったが、少しの間日記をつけることにした。日記と言いつつ、更新は不定期である。五月スタートで、まだ春だけれど、そこは大目に見ていただきたい。関東の気候はすでに真夏のそれだし。

文庫のあとがきを書くのも苦手で、できたら書かないですませたいと思っている私がなぜこんなことを始めたのかというと、漫画原作についてあらためて宣伝したいと思ったからだ。
ずいぶん遅くなったが、本題はここなのである。
現在デジタルマーガレットで連載中、
「出オチキャラだったはずなのに、今やすっかり聖女です」

神武ひろよし先生の華麗なイラストバナーが目印

作品URLは下記↓
出オチキャラだったはずなのに、今やすっかり聖女です | デジタルマーガレット (digitalmargaret.jp)

簡単なあらすじを書くと、自分が監修していた乙女ゲームの世界に死後転生した主人公・みことがゲーム内のバグを次々と修復していくという物語だ。
私は本作の原作を担当している。

漫画は、話数も重ねて今盛り上がっているところなのである。
神武先生のバトルシーンは迫力満点。しかも、回を増すごとにキャラクターが魅力的になる。テオもかっこよくなるし、ジェラルドの緊張感も伝わる。
原作では、乙女ゲーム世界観であることを楽しんでもらうため、特定キャラとの恋愛要素は薄めにしていた。誰とくっつくかドキドキするのもありかなと思ってもらいたかったのだ。
(担当さんにヒロインのくっつく相手を完全に間違えられており、すりあわせに時を要したレベルである)
漫画版では、みことの相手は決まっているため、それを前提に進行している。これも原作と漫画の違いを楽しんでもらえる要素になっていると思う。

原作小説を書いているとはいえ、小説と漫画はまったく見せ方が異なる。
私の場合、設定やキャラクターがずれていなければ、アレンジは基本おまかせするスタイルなので、「こんなキャラクターの魅せ方があるのか!」「なんか原作よりカッコイイ!」「パールもいきいきしている!」と勉強させてもらっている。
ネームから本気度がビシビシと伝わってきて、プロの仕事ぶりに感嘆するばかりなのだ。
ぜひ、読んでいただきたい。

Xの宣伝だけでは、やはりうもれてしまうし、宣伝ツールは多くしたい、なにか読み物もつけたいなと思った。
今まで、自作を宣伝するならショートストーリーを書くことが一番かな、と思っていた。
しかし漫画原作は、クレジットに自分の名前は載っているものの、自分だけの作品というわけではない。
漫画の解釈もあるし、文章を読むのが苦手な方もいるだろう。
日記なら、小説を読むほど気負わずにすむ。
そして紹介するには、素の私のほうが良いのではないかなと感じたのだ。
友達の使っている化粧水が純粋に気になるように、身近な人のお気に入りがあれば、知りたいと思ってもらえるのかな……という感じだ。
出オチは立ち上げ時から紆余曲折あった作品なので、やっぱり私としても思い入れが強い。
なので、私の日常の中のひとつまみのエッセンスとして、作品紹介できればなという狙いだ。

日記を書きつつ、漫画更新のタイミングでちょこちょこ作品のこぼれ話ができたらなと思っている。

なにより、先月のSFカーニバルで辻村七子先生が配っていらした「辻村日記」が本当によかった。その日記を読んでいると、晴れた日のガーデンテラスで辻村先生と差し向かいに座り、冷たい飲み物を片手に直接お話を聞いているような気持ちになって、ほっこりした。
本文は公開してくださっているので、先生の日常をちょっと覗いてみたいと思われた方は、読んでみることをおすすめする。

辻村小説公園 | ​辻村七子公式webサイト (tjmr75.com)
(辻村日記はブログから読めます)

なので私もいっちょ書いてみるか、と単純なことを考えてやってみたのだが、ほっこりするのは辻村先生のお人柄であって、冒頭からつらつら「何やっても続かないんですよねェ~」とかいうしょうもない文章で始められても、読まれる方はほっこりしないんじゃないかなと気づいてしまったが、もう遅い。

日記が続かないことを先にわかってもらえないと、近い将来挫折したときに「死んでるのか……?」と思われるかもしれないので、これは大事なくだりなのだ。

ちなみに、「仲村はよく一巻を出しても二巻が出ないじゃん。これは継続しているうちに入らないんじゃないのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。
これは私が挫折したからではなく、ぶっちゃけ言うと売上的に「仲村さん二巻は大変恐縮ながらご勘弁願いたい」ということで、出ないというだけである。私の中では全作品続きを出したいと思っているので信じていただきたい。

打ち切りは自慢じゃないがよくあるので(本当に自慢ではない)さまざまなパターンはあるが、私は某社の担当さんの伝え方が好きである。きちんと毎回「この度は続きを出せません」的なメールをすっぱりとくれるのだ。一刀両断で気持ちいいほどに首が飛ぶのである。

ストレートに言われるのはショックという人もいるかもしれないけれど、うやむやにされるよりは全然いい。某社の担当さんにいたっては、結果をはっきり教えてもらえるので、発売後一週間後くらいから重版連絡ではなく打ち切り宣告を待っている感じである。
一緒に作品を作ったからには、介錯もしてやるよという、編集者としての覚悟を感じる。

最近は電子配信の動きを待ってくれているので、ひと月後くらいに宣告があるのだが、昔はそんな悠長なことはしていなかった。一週間後くらいに情け容赦なくスコンと首が飛んだ。
半年かけて作ろうが、一年かけて作ろうが、売上が絶望的なら打ち切りは一週間で決まる。

いざ連絡がくると、やっぱり落ち込む。続きが楽しみですと伝えてくれた読者さんにも申し訳ないし、下手をすると打ち切りが決まった直後に「今から読みます」というメッセージをもらったりするのだ。

しかし、どんな連絡でももらえる方がいい。あ、もう続きが出せないんだ。そうか。ショックだけど、明日もなんとかやっていくしかないからな、と「ショックだが仕方ない」方向にいく。スパンと切れているのでくっつくのも早いのだ。
「もしかしたら続きを書いていいって言ってもらえるかも。でもだめかも……」という宙ぶらりん状態が長く、結果を察するしかない方が精神を摩耗する。

もちろんショックはショックなので、酒を飲んで愚痴ることもある。
たいてい被害に遭うのは同業の鳥村さんである。鳥村さんも十年間私の「びええーん」を聞き続けているので、あしらいも堂に入っている。
「びええーん」を言えるということは、作品を出せたということじゃないか、誇っていこうよそのことを……と思いたいのだが、打ち切りは毎度心にとっては新鮮な傷なので、毎度新鮮に吐血するのである。

初回から打ち切りの話をながながとするのも景気が悪いので、このあたりにしておく。

口直しに楽しみにしていることを書く。
実は今度、縁あって十数年ぶりにディズニーランドに行くのだ。
最後にディズニーに行ったのは、とても若いときだった。浦島太郎なので、やはりドキドキする。
友人のさやか氏に「チケットホルダーがないんだけど、会社の社員証を入れるようなやつを持っていった方がいいのかな」とLINEしたら、すでに紙のパスポートはないと言われた。そしてアプリを入れろと言われた。私のスマホの容量は崩壊スターレイルですでに瀕死である。
しかも、ファストパスだったものが、有料になったとかいう。
本当に私の知っているディズニーランドなのだろうか。
もしかして私が今までTDLだと思っていたものは、TDK(東武動物公園)だったのか……?

不安で仕方がない。きっとポップコーンも売ってないのかもしれない。ポップコーンバケツというものにポップコーンを入れてくれるサービスが、記憶によるとあったはずなのだが。
チュロスとかも……みんな食べていた……よね?

テーマパークに行くこと自体が久しぶりである。
今まで「疲れる」「遠い」「疲れる」「明日は仕事が」「疲れる」と言い、距離を置いてきた場所である。
誘ってくれる友人もいたが、やはり遠方なのでおっくうであった。ディズニーで歩き回った翌日に、自分を保てる自信がなかった。
通勤の際、地下鉄の階段をのぼるだけでも息切れしてるっていうのに、ディズニーランドなんて冗談ではないと思っていたのだ。

でも、ディズニー好きの友人たちはいつもキラキラしていて、イベントがあるたびに、いそいそと出かけていく。むしろ元気になるためにディズニーへ行く。チケットが値上がりしてもなんのそのだ。
丸一日いられるわけでなくとも、パレードを観に行くだけでも、舞浜にかけつけるのである。
コスプレOKなシーズンはコスプレをして、たっぷり写真を撮る。
やはりすごいパワーがそこにあるのだ、ディズニーランド。

お世話になったF氏にお誘いを受けたとき、素直に行ってみようと思った。これから体力は目減りしていく一方なのだから、今行っておこうと。
富士山に一緒に登ろうと言われたら断固お断りだし、高尾山すらギリギリNGであるが、ディズニーだったらきっと、疲れたら休めるベンチくらいは設置してあるはずである。ある……よね?不安になってきた。
とりあえず地べたに座ってもいいような格好をしていこう。
休日出勤した代休を、その日にあてた。
待ってろよ、ディズニーランド。
たぶんディズニーに行ったら、夢の世界のパワーをいっぱい浴びて、いいプロットが書けそうな気がするんだよな。
と、仕事のことも忘れてませんよとアピールして、初回の日記を終えたいと思う。

今冒頭から読み直したが、かえすがえすもくだらない日記であった。
しかも長い。
お付き合いくださった方、どうもありがとうございました。