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アーティゾン美術館独自のセンスが光る新収蔵品展✨ポロックらの奥さん達の作品など女性パワーも全開!

アーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)で新収蔵作品が多数展示されると聞いて出かけた「STEPS AHEAD」展。青木繁やルノワールの名品の所蔵で知られるこの美術館のイメージを一新するような作品の数々から、たくさんのエネルギーをもらいました。

つあお カンディンスキーの《3本の菩提樹》という作品、どう思われましたか?

まいこ 一瞬見て好きな絵だなと思いました。この鮮やかな色彩と庭園のような風景が素敵だと思います。

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ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》(1908年、油彩・板)展示風景
Section3「カンディンスキーとクレー」のコーナーで展示されている

つあお 色づかい、本当に素晴らしいですね!

まいこ ヨーロッパの南の方に行くと日差しがとても明るく感じるんですけれども、そんな日差しの中で自然の色彩が輝いている印象です。

つあお なかなか個性的で素晴らしい風景画だと思うんですけれども、カンディンスキーって抽象画家じゃありませんでしたっけ?

まいこ ですよね! これがカンディンスキーとは! イメージと全然違います。

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たとえばこの展覧会でつあおとまいこが、カンディンスキーらしいなと思った作品はこれです!
ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》(1924年、油彩・カンヴァス)展示風景

つあお ですよね! 《3本の菩提樹》はいわゆる「風景画」だし、点で絵の具をポツポツと置いているところもある。ゴーガンやゴッホに近い感じもします。

まいこ そうですね。これは私たちがよく見るカンディンスキーになる前の作品なのかな。

つあお 実はそうなんですよ。描かれたのが1908年。カンディンスキーが抽象画を描いたのは1910年代以降と言われています。

まいこ 本当だ! 同じ会場内にある、カンディンスキーらしいな~と思う《自らが輝く》は、1924年作ですね。つあおさん詳しいですね。

つあお 実は、1910年代以前のカンディンスキーをたくさん所蔵しているミュンヘン市立レンバッハハウス美術館に何度か行ったことがあるんです。

まいこ そうなんですか!! 私も何度かミュンヘンに行きましたが、気づきませんでした(^_^;) 取材でいらしたのですか?

つあお そうです。この頃のカンディンスキーは、ガブリエル・ミュンターという女性と恋愛関係にあって、一緒にミュンヘンの近くの農村地域で過ごすことがあったんです。

まいこ へー! 2人で田舎暮らし! ハッピーだったのでしょうか?

つあお ミュンヘン近郊のムルナウという土地にミュンターは家を購入しちゃうんですよ。ただ、それは1909年のことで、この絵を描いた1908年は、旅行で行ったということのようです。この頃2人が恋愛の真っ只中にあったのは間違いなく、ミュンターはだからこそ、「この美しい土地で2人で絵を描きたい!!!」と思って家を買ったんじゃないかなぁ(妄想中)🌟

まいこ わー! いいなあ。だから一目で素敵な絵だと思ったのかも! 色彩と輝きから、「 ハッピーオーラ」が出てます! それにしても、女性のミュンターのほうが家を買ったのですね。

つあお ところがね、第一次世界大戦が1914年に始まった少し後に、カンディンスキーは故国のロシアに帰り、2人は数年後に別れてしまうんですよ! その後、よりは戻らなかったのです。

まいこ いきなり悲しい結末! でもこの絵を描いた時は、そんなことは知るよしもなかった。この絵はアーティゾン美術館の新収蔵品。「ハッピーオーラ」をコレクションしたんですね。

つあお カンディンスキーとしては最初期にあたるこの時期の作品が入るというのもまた、素晴らしいことだと思います。と言いつつ、すごく幸せ感が感じられる理由は、まいこさんと話していてようやく気づきました。たわくしはやはり鈍感だなぁ。

まいこ 真っ黄色の陽光に、オレンジ色のお家。木にも赤、青、ピンク、オレンジなどフルーツがたくさんなってるような明るい色彩。順風満帆な様子が伝わってきます。なのに数年後の悲劇! 人生、何が起こるかわかりませんね。

つあお このムルナウという土地は本当に美しいところで、私も一度行ったことがあるんですが、ここで絵を描きたくなるという気持ちがすごくよくわかりました。その後、第一次大戦がカンディンスキーとミュンターの仲を引き裂いたわけですが、実はミュンターはカンディンスキーにとって別れた後にもすごく大切な役割を果たすんですよ!

ミュンターハウス

ガブリエル・ミュンターが購入し、カンディンスキーと過ごしていた家。現在は「ミュンターハウス」として公開されている。 Photo by つあお

ムルナウ/教会のある風景2 (小)

ミュンターハウスの庭から見たムルナウの風景。とにかく美しい。 Photo by つあお

まいこ へー! もしかして、彼女もアーティストだったんですか?

つあお をを、いきなり鋭い! そうなんです。一緒に絵を描いてました。だからカンディンスキーの素晴らしい才能を一番に理解していたんだと思います。そして、ムルナウの家には、この時期に描いたたくさんの絵が大戦後も残っていたんですね。ずっとミュンターが持っていて、その後すべてミュンヘン市に寄贈して市立レンバッハハウス美術館のコレクションの核ができたんです。

まいこ 素敵なアートの歴史ですね! そういえば、今回の展示では、カップルパワーが炸裂しているコーナーが、ほかにもありましたね。

つあお そうそう、今回のアーティゾン美術館の展覧会では、カップルパワーをたくさん見ることができたんじゃないかと思います。ジャクソン・ポロックの妻のリー・クラズナーの絵も素晴らしかった。

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米国抽象表現主義の女性画家、リー・クラズナー、エレイン・デ・クーニング、ヘレン・フランケンサーラーの作品が並んだ展示室(すべて新収蔵作品)。この右にはジョアン・ミッチェルの作品も並んでおり、つあおは女性画家のパワフルな表現に圧倒された。

まいこ 横幅が3m以上ある大作で、黄土色と白と黒の太い線が縦横無尽に走る力強い作品でしたね! 彼女作品もすごいんですけど、ポロックの作品価値を上げたという話もあるんですって?

つあお そうなんですよ。1956年に自動車事故でポロックが亡くなった直後に、彼女は「この値段以上じゃないとこの絵は売らない」と言って、《秋のリズム(ナンバー30)》という作品をすごく高い値段でニューヨークのメトロポリタン美術館に買ってもらったんです。それ以来、ポロックだけではなくて、同時代のアメリカの抽象表現主義の作家の評価が全体的に上がり始めたそうです。

まいこ んー、どこかで聞いたような話。そうだ、それはつあおさんの本に書いてありましたねー! このエピソードには感動しましたよ。ずっと前にショートアニメーションでみた記憶があるのですが、晩年のポロックはアル中でボロボロで、亡くなったのも、若い愛人を乗せて飲酒運転して事故死でしょう? 才能はあったかもしれないけど、超ダメンズ(古いか?!)。それなのに、クラズナーさんは変わらず献身的で、彼の作品、そして周辺の抽象表現主義の作家たちの価値を爆上げさせたなんて。女神ですね♪

つあお 拙著『美術の経済』のことを覚えていてくださってありがとうございます。この話は、池上裕子さんの研究論文を引用した内容で載せたものでした。それにしても、やっぱりパートナーのクラズナー自身も画家だったからこそ、ポロックの作品の素晴らしさをよく理解していたんだろうと思います。この展覧会ではウィレム・デ・クーニングの奥さん、エレイン・デ・クーニングの作品も、クラズナーの作品の近くに並んでましたね!

まいこ エレイン・デ・クーニング? えっ? ひょっとして? という感じでキャプションを見て、初めて聞くけどウィレム・デ・クーニングの奥さんでは! と思ったら、そうでした。しかもこちらは新収蔵作品ということで、なんと図録の表紙に出るほど主役を張ってますね!

エレイン・デ・クーニングの《無題(闘牛)》は、公式サイトで紹介されています。上記のサイトの第5章をご覧ください。

つあお 正直、この《無題(闘牛)》という作品は、すごいパワーだと思います。

まいこ 岡本太郎クラスの「爆発」パワーを感じます。そもそもこのコーナーの展示全体からも女性画家のパワーがよく伝わってきますね〜。対面の壁に掛かっているウィレム・デ・クーニングの作品は、どちらかというとこじんまりしてます。色も淡いピンクなので、彼の方が控えめに見えます。

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この展覧会では、ジャクソン・ポロックウィレム・デ・クーニングの作品が掛かった壁の反対側に、リー・クラズナーエレイン・デ・クーニングの作品が展示されている。

つあお やはり対面に飾ってあるポロックの作品も、何となくちっちゃめだし、ひょっとすると夫婦関係なんかを表していたりして…。

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ジャクソン・ポロック《ナンバー2、1951》(1951年、油彩・カンヴァス)展示風景

まいこ つあおさんは妄想力が豊かですね 笑

つあお ハハハ。でも正直言ってやっぱり、女性画家にはパワーがあったんだなと思います。そのことをわからしめるこの部屋の展示は素晴らしい。

まいこ ちょっと現代に照らし合わせてもしっくりくるような 笑
担当の学芸員さんのこだわりも感じます。

つあお 私は、常日頃から女性を尊敬しています。まいこパワーにもいつもあやからせていただいております。

まいこ まいこパワーは結構危険ですよ 笑。 暴走してたらコントロールしてくださいね(;^_^A

※掲載した写真は、プレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

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【今日のラクガキ】

爆発したダメンズ

Gyoemon作《爆発したダメンズ》
やはりダメンズは爆発するしかないのではないでしょうか。Gyoemonはつあおの雅号。
※お断り:本作品は、「STEPS AHEAD」展には出品されておりませんが、ご了承ください。

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[以下、同館ウェブサイトより引用]
アーティゾン美術館の新収蔵作品を一堂に展示
石橋財団の近年の収集は、印象派や日本近代洋画など従来の中心となるコレクションを充実させる一方で、抽象表現を中心とする20世紀初頭から現代までの美術、日本の近世美術など、コレクションの幅を広げています。それら新しいコレクションの一部は、開館以来徐々にご紹介してきました。しかし、まだまだお見せしていない作品があります。キュビスム、マティスの素描、デュシャン、抽象表現主義の女性画家たち、瀧口修造と実験工房、オーストラリアの現代絵画など。未公開の新収蔵作品92点を中心に201点、さらに芸術家の肖像写真コレクションから87点で構成する本展で、さらに前進を続けるアーティゾン美術館の今をお見せします。




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