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つあおとまいこのゆるふわアート記

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みなさん、こんにちは! 浮世離れマスターズのつあお&まいこです。ゆるゆるふわふわのアートツアーに参加しませんか。
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つあおとまいこのゆるふわアート記とは?

浮世離れマスターズのつあおとまいこがアート作品を実際に見ながら語るゆるゆるふわふわのトーク記です。読者の皆様と一緒に浮世離れできれば本望です。「和樂web」(小学館)にもたくさんのトーク記事を掲載しています。 ※つあお/小川敦生と「アートでハッピー」こと菊池麻衣子、それぞれの記事も時折こちらで配信しております。 えっ? つあおとまいこって誰だって? 年間美術展訪問数は、2人合わせて年間300件以上。 アートを前に、スーパー浮世離れな会話を繰り広げては、ハッピーワールドに

秋田で踊る画家の「日常」を描いた木炭画がVOCA賞@上野の森美術館

VOCA展2024(上野の森美術館、3月30日まで)でVOCA賞を受賞した大東忍(だいとう・しのぶ)さんの《風景の拍子》は、4m近い横幅の画面に木炭のみで描いた作品だ。 木炭はデッサンで使う画材というイメージがある。あえて木炭のみで描いた絵画の魅力はどのように創出されたのか。プレス内覧会で大東さんに話を聞く中で、考えを巡らせてみた。 秋田の日常の夜を描いたという。大東さんが日々暮らしている近くの風景だ。ただし、実景のある瞬間を捉えたわけではなく、たくさんのスケッチや写真を組

「今蕭白」が描いた龍に注目〜静嘉堂@丸の内「ハッピー龍イヤー!」

静嘉堂@丸の内(東京・丸の内)の企画展「ハッピー龍(リュウ)イヤー! 〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜」のプレス内覧会に参加した(2023年12月25日)。タイトルからもわかるように、本展は、2024年の干支にちなんで「龍」をモチーフにした作品を集めた企画展だ。出品作品は、静嘉堂文庫美術館の館蔵品のみで構成されている。本記事では、美術品を通して龍と向き合うことの楽しさ・面白さを少しでも伝えられればと思う。 インド・中国・日本の神が融合 そもそも「龍」は古い時代から中国や日本の美

土偶を読むを読むを読む〜「土偶=植物」という新説を巡る攻防

2023年に出版された書籍を回顧する中で、ぜひ挙げておきたい1冊がある。望月昭秀編著『土偶を読むを読む』(文学通信、2023年4月、以下「望月本」とする)だ。 単刀直入に言えば、2021年4月に晶文社から刊行された竹倉史人著『土偶を読む』(以下「竹倉本」とする)で書かれた新説の内容を丁寧に吟味し、誤謬を解き明かした書籍である。 新説は実証的な検証のもとで概ね否定 「竹倉本」では、土偶は人間、特に女性をかたどったものであるという通説を覆す内容が話題を呼んだ。たとえば中空土

葛飾応為の肉筆浮世絵に見る女性画家の革新@太田記念美術館

葛飾北斎の娘で、江戸末期の女性画家として知られている葛飾応為(かつしか・おうい、生没年不詳)の肉筆画《吉原格子先之図》が、所蔵元の太田記念美術館(東京・原宿)で開かれている『葛飾応為「吉原格子先之図」 ―肉筆画の魅力』展(11月26日まで)に出品されている。同館によると、コロナ禍を挟んで3年半ぶりの公開という。 シルエットの男たちは「闇」の象徴か この作品には実に様々な魅力がある。列挙してみた。 ・現代の目で見ても、明暗の描き分けが斬新。 ・吉原を題材にしつつ、遊女をクロ

その虎はやはり猫だった! 特別展「長沢芦雪」@大阪中之島美術館レビュー

江戸時代中期の画家、長沢芦雪(1754〜99年)が描いた虎は、実に魅力的である。大阪中之島美術館で開かれている「特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー」を訪れて、芦雪が数多描いた「奇想」を見た。そのレビューを記しておきたい。 応挙ゆずりの動物愛 和歌山・無量寺蔵の《虎図襖》が、11月5日までの前期展示で出品されている(※)。襖の上下いっぱいを使って大きく描かれた虎の、画面から飛び出さんばかりの躍動的な表現が特徴的な作品だ。 ※本記事に写真を掲載した

卵と身体で生を確かめる ソー・ソウエンのパフォーマンス@√K Contemporary

美術家ソー・ソウエン(Soh Souen)のパフォーマンスがクールだ。 ソーは普段、身体と壁や樹木などの間に生卵をはさむパフォーマンスを一人で演じている。ただはさむだけではない。あるときには4時間、あるときには10時間はさみ続けているという。「常軌を逸している」との思いが胸の内と外を去来する。一方で、「それは何のためにやっているのか?」とも思う。東京・神楽坂のギャラリー、√K Contemporaryで個展が開かれると知り、確認に出かけた。 9月15日に同ギャラリーで開か

壺の上に壺の絵を描いたピカソの遊び心@ヨックモックミュージアム

東京・青山のヨックモックミュージアムで開かれている『ピカソのセラミック-モダンに触れる』展、会期は9/24まで。 ピカソ独特の作風の絵を陶芸という立体作品の中で表現しているわけですが、器の形を生かした描写、とても気が効いているのです。立体を解体して再構成することで前代未聞の独自の画風としたキュビスムの作家が、その絵を立体に施す、つまり立体に戻すこと自体にも、なんとも言えない面白みがあります。 壺の上に壺の絵を描くとか、くびれのある花瓶に裸婦の絵を描くとか、なんだかとっても

フランスにこんなに暗い絵があったとは! ブルターニュ展@国立西洋美術館で「黒の一団」の絵を見る

国立西洋美術館で開かれている企画展「憧憬の地 ブルターニュ モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」は、フランスのブルターニュ地方という地域をテーマにした企画だ。フランスはモネ、ルノワール、ゴッホらをはじめとする多くの偉才を生んだり育てたりしてきたが、特に19世紀以降は鉄道網が整備されたことなどから、移動が盛んになった。 ブルターニュ地方はフランス北西部にあり、半島を成して海に面している。19〜20世紀前半にはモネ、シニャック、ゴーガン、さらには黒田清輝など、多くの画家がこの

大雨で倒れた樹齢1300年の御神木から生まれた佐藤壮馬のアート作品@資生堂ギャラリー

東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催中の第16回 shiseido art egg展で、佐藤壮馬のインスタレーション作品《おもかげのうつろひ》が展示されている。会場でこの作品を初めて見た人は、おそらく何をどう表現しているのかがまったくわからないのではないだろうか。 しかし、感じられる何かがあるはずだ。曲面を成した白い物体が、見えない何かを円柱状に囲んでいる。つまり、その円柱部分には、何かが存在していることをほのめかす。 それは、2020年7月11日に豪雨によって倒れた、岐阜

あまりにも美しい西洋中世の彩飾写本類がずらりと並んだ「本と絵画の800年」展@練馬区立美術館

東京・中村橋の練馬区立美術館で開かれている「本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション」という企画展の内容は、極めて貴重である。石膏ボードメーカー最大手企業である吉野石膏のモネやピカソらの絵画をはじめとする約200点にもおよぶ所蔵品が出品された中で、日本ではほとんど見る機会がない西洋中世の彩飾写本などの多くの貴重書が展示されているからだ。本記事では、その貴重書の一部について紹介する。 ヨーロッパで活版印刷が発明されたのは、15世紀とされる。しかし、それ以前か

大竹伸朗と「別海」の酪農生活

NHK「クローズアップ現代」をたまたま見ていたら、テーマが「朝一杯の牛乳が消える!? 酪農危機の知られざる実態」。興味を引かれ、見続けていると、ほんの少しだけだったが、北海道・別海の酪農家が映った。 現代美術に親しんでいる者の中には、「別海と言えば大竹伸朗!」と思う人も結構いるのではないだろうか。大竹さん独自の書体による「別海」の文字を施したTシャツなどもミュージアムグッズとしてかなり以前から販売されており、「別海=大竹伸朗」というつながりは、瀬戸内国際芸術祭などを中心に、

死を通して生を伝える藤原新也の祈り@世田谷美術館

写真家として知られる藤原新也さんの半世紀間にわたる活動の中で生まれ出てきたものを目一杯受け止めることのできる「祈り・藤原新也」展が、世田谷美術館で開かれている。 まず心を捉えたのは、まだ20代の頃にインドに渡って撮影した写真の数々だ。 とても半世紀も前の風景とは思えず、今も生きているインドの姿が写っていることを感じた。仮に同じ場所の今の風景が近代的な姿に変わっていたとしても、あまり重要なことではないだろう。藤原さんの写真は過去の記録というわけではなく、インドのそこここにある

若い写真家たちが現代の諸問題を考えさせてくれる「プリピクテジャパンアワード」@東京都写真美術館

東京都写真美術館で開かれている「プリピクテジャパンアワード」という展覧会は、まだ3回目という若いアワードなのですが、筆者の雑感としては、すこぶるすぐれた内容でした。8人の作品が展示されているのですが、この記事では、そのうちの5人について書いておきます。 アワードの今回のテーマは「火と水」。審査員は、森美術館特別顧問の南條史生さんら4人です。写真とサステナビリティに関する国際写真賞プリピクテが日本を拠点とする写真家を対象にしたのが、このアワードとのこと。日本には森山大道や荒木