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心配の種

実家の母が、梨を送ってきてくれた。

大ぶりの梨、12個。
私は二人暮らしである。



私が一人暮らしをしている頃から、
母はあれこれと食材を与えてくれた。
その量は、小さな冷蔵庫が溢れかえるほどだった。

缶詰やフリーズドライよりも
大盛りのお寿司を数種、大きな大きな卵焼き、
立派なケーキ数種、旬の果物もたくさん……など
保存のきかないようなものも多く

私は一人暮らしなんだけどな、と
よく苦笑したものである。


恥ずかしながら私は料理を全くしないもので
冷蔵庫には常に、水かお酒か
ネイルポリッシュしか入っていなかった。

(ネイルポリッシュは、なんとなく冷やしていたかった)


一人暮らしを始めた時に、母が買い与えてくれた冷蔵庫。

がらんと空間をあけてしまうことに
申し訳なさを感じつつも
時々そのあいた空間を埋めてくれる
母の大きな愛情に、ありがたく甘えていた。



母は、よく私の食事の心配をしているように思う。
私が過去に、食事を全くとれなくなった時期があって
そのことも母の心配の種に
なってしまっているのだろう。


私が植え付けてしまった心配の種。

これまでの人生で、私は
食事について以外にも、多くの種を
母の心に撒いてしまったと思う。

母の心を掘り返すことはできないので、
せめて顔を出した心配の芽は
私の手でひとつひとつ摘んでいきたい。




梨は好きだが、二人だけでは食べきれないので
職場に持って行き、お裾分けした。

苦手な包丁を精一杯使って切り分けた梨は
歪な形をしながらも
季節の甘さを口いっぱいに広げてくれた。

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