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集合体恐怖症(トライポフォビア)になったワタシ

インターネットを見ていて、不意に広告が目に入った。同じ模様が多数並んでいるもので、冷静に見れば何でもないのだが、一瞬「ウッ」と感じた。

それ以来、同じ模様が並ぶ絵柄を見ると、体が「ゾゾ~」とするようになってしまった。それまで何でもなかった風景で寒気が走るようになった。

スターバックスの店内に提示してあった、つぶつぶしたコーヒー豆の写真、電車内の広告に写っていたティファニーの小さな宝石がつぶつぶと集まったブレスレット、つぶつぶと無数の球体が袋詰めされた芳香剤… しまいにはiPhone14プロに付いた三つ目のレンズまで気持ち悪くなってきた。

いくら丼はめったに食べないが、好物の納豆はひきわりに変えた。正直に言うと、脳裏に「つぶつぶ」をイメージしながら記事を書いているだけで、気が遠くなりそうだ。

検索サイトに「同じ模様」「気持ち悪い」と打ち込むと、「集合体恐怖症」「蓮コラ恐怖症」「トライポフォビア(Trypophobia)」などと出てきた。

要するに、小さな穴の集まりやブツブツしたものに強い嫌悪感を抱く症状だという。

気になり出すと、もう止まらない。ネットを見ていると、きっかけになった広告が再び出てくるのではないかと思い、画面をスクロールする指が止まってしまう。

TikTokで動画を見ていたら、体にフジツボが寄生した映像が出てきて…これはもう気絶寸前だった。今は小さな文字が並んだ書類を見ても具合が悪くなる。

私は自分で思う以上に繊細で、神経質な人間なのだろう。

以前に「電車イップス」で出社できなくなった経験もある。

プロ野球担当記者をしていると、深夜や朝方まで仕事をしてつらいことはあっても、朝の通勤ラッシュ帯に電車に乗る機会は少ない。

だが、数年前、営業部門に在籍した際にそうはいかなくなった。毎朝、同じ時間に満員の電車で通勤する。

いや、満員はいい。ただ、乗客同士がけんかになるトラブルをたびたび目撃すると、次第に電車に乗るのが憂鬱(ゆううつ)になった。

肘が当たったとか、足を踏んだとか…互いに「すみません」と言い合えば、それで済むことなのに、争いと無縁そうな、実直そうな中年男性が「てめえ」「覚悟しろよ」などと、すごむ姿を見るうちに、通勤そのものが恐怖になってきた。

あるとき、電車内で意識が遠のき、立っていられなくなって途中下車した。

駅のベンチに座り、「次の電車に乗ろう」「この次こそ」と思いながら、何本もの電車を見送った。

「この次の電車に乗らなければ始業に間に合わない」

意を決したつもりが、やはり乗れなかった。

そこで出社をあきらめ、上司にLINEで休暇を申請した。その駅で降りて、タリーズでしばらく時間をつぶし、タクシーで帰宅した。

私はスポーツにおける「イップス」をテーマに取材し、日刊スポーツで連載した後、書籍にもまとめている。「イップスは治る!」である。

このとき、「イップスは恥ずかしくない」と書いている。もし、うまくいかない、思うようにいかない時でも、周囲に隠したり、ごまかす必要はないと。だから、「電車イップス」も「集合体恐怖症」も気軽に打ち明ける。

私は自分を強い人間だと思っていた。困難なできごとがあっても全力で乗り越えようとしてきたし、失敗があっても弱音をはかずに生きてきたと思う。

だけど、そんなに力む必要はない。

人間は誰でも失敗ぐらいするし、疲れたら休めばいい。頑張っている自分に「よくやってるね」と声をかけるぐらいの余裕があっていい。

かつて私は、座右の銘に「自分に厳しく、人に優しく」と書いていた。

今は「自分に優しく、人にも優しく」と思う。

つぶつぶとした無数の集合体も、そのうち笑って流せる日がくるだろう。

くるかな?