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人生における後悔の1つ…スコアブックを捨てたこと

54年間生きてきた中で、たくさんの後悔をしてきた。その1つが、スコアブックを捨てたことである。

若手時代は高校野球、1997年(平成9年)からはプロ野球担当となって、数多くの試合を取材し、スコアブックをつけてきた。

1998年には、38年ぶりの日本一に輝いた横浜ベイスターズを担当記者として密着した。2000年は巨人担当としてONシリーズを取材。 2003年は大リーグのニューヨーク・ヤンキースに移籍した松井秀喜選手を、開幕からワールドシリーズまで追いかけた。

2004年はアテネ五輪の銅メダル、2006年には第1回WBCの世界一…すべてスコアブックをつけてきたので、もし保管しておけば、現在の取材活動において大きなプラスになっただろう。

試合結果や展開などは当時の新聞を読み返せば、明確に分かる。選手のコメントも残っている。しかし、スコアブックには試合展開だけでなく、メモも残っている。自分が何を考え、どのポイントに注目して試合を見ていたのか。とても記憶だけでは埋められない。

10年ほど前までは段ボールにつめてクローゼットの中に押し込んでいたのだが、何度か断捨離を繰り返すうちに、必要ないと判断してしまったのだろう。メモ帳はすべて保管しているのだが、スコアブックをなぜ捨ててしまったのか…何とも惜しまれる。

残っていた大谷翔平のホームラン

本棚の隅に数冊残っていたスコアブックをめくると、最古のもので2012年(平成24年)3月21日の甲子園、大阪桐蔭―花巻東が残っている(付け方はかなり我流である)。

大阪桐蔭の1番捕手が森友哉(現オリックス)、9番投手が藤浪晋太郎。そして花巻東の4番投手が大谷翔平。

2回先頭の大谷は、ライトへホームランを放っている。スコアブックに残るメモには「外から真ん中M16スラ」と書いてある。

要するに「外から真ん中に入ってきた、高さも真ん中の116キロのスライダー」である。「M」は高さを表す私流の記号で、高ければ「H」、低ければ「L」と記す。これは簡略系で、メーンライターとして取材する場合は別紙に9分割の配球表も書く。

同年の巨人―ヤクルト、オリックス―西武などのスコアとともに、当時コーチをしていた少年野球チームのスコアも残っている。この子たちも、もう成人している。彼らに見せたら、懐かしいと思ってくれるのではないだろうか。

そんなことを考えると、捨ててしまった何十冊ものスコアブックが、なおさら惜しくなってきた。

ベーブ・ルースの予告ホームラン

さて、私の本棚には「光芒の1920年代」(朝日ジャーナル編集部=朝日新聞社)という本がある。1983年(昭和58年)に発刊されたもので、定価3800円。私は古本で買ったので値段は忘れてしまったが、それなりに高かった記憶がある。

求めた理由は、ベーブ・ルースが「コールド・ショット(予告ホームラン)」を決めたとされる試合のスコアブックが掲載されていると聞いたからだ。

同書の503ページから清水俊二氏が書いた「英雄伝説を生んだ七一四本のホームラン」という原稿が載っている。

1932年(昭和7年)10月1日、土曜日。ニューヨーク・ヤンキースとシカゴ・カブスのワールドシリーズ第3戦が、シカゴのリグレーフィールドで行われた。

ニューヨークに住んでいた清水氏は、ラジオを聞きながらスコアブックをつけていた。同書から一部を抜粋する。

私はラジオを聞きながらスコアをつけていたので、そのときのスコアブックをひっぱり出してみると、五回表のヤンキースの攻撃は二番スーウェルから始まっている。スーウェルが三塁ゴロに倒れ、三番はルースである。五回までルースとゲーリックが一本ずつのホームランを放っていて、スコアは4-4のタイだった。私のスコアブックによると、ルースはこのとき、2-2のカウントからセンター越えのホームランを打っている。これが問題のホームランで、ルースはこのホームランを打つ前にセンター後方の旗をかかげるボールを指で示して、そこにホームランを打つぞと予告して、そのとおりのホームランを打ったというのである。

「光芒の1920年代」より

同氏が聞いていたラジオでは「ラジオ放送のアナウンサーも、センターを指でさし示したとはいわなかった」と書いており、実際にはどうだったのか? さまざまな報道を元に伝説を検証している。記事の内容も興味深いが、やはりスコアブックが印象的である。

ルースの「コールドショット」は有名だが、次打者のルー・ゲーリッグが連続ホームランを打っているとは知らなかった。この試合、2人で2本ずつのホームランを打っているわけだ。こんなところも楽しめる。

               「光芒の1920年代」より

今の若い記者はデジタルで記事やメモを保存しているのだろうか。やり方はさまざまで構わないが、保存だけはしておいた方がいい。月日が経つほど価値が高まっていくだろう。


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