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クレイジーケンバンド横山剣さんが読み解く「トヨタの強さ」(後編)|『トヨタ物語』続編執筆にあたって 第11回

 大のクルマ好きで知られるクレイジーケンバンドの横山剣さんは『トヨタ物語』をどのように読んだのか。トヨタとの意外な縁、溢れる自動車愛とともに、縦横無尽に語っていただきました。その後編。

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■ちょっとうれしいカローラ

横山:そう、トヨタのCMだったら浜口庫之助さんの「わたしのカローラ」って曲が大好きで。

野地:えっ、浜口さんがそんなCMソングを?

横山:ソノシートで当時、販促で配ってたんです。僕はそれ子供のときにもらいました。その次のはジェリー藤尾夫妻が、もう別れてしまいましたけど、カローラの宣伝をやってて、「ちょっとうれしいカローラ」という曲で。

野地:思い出しました、わたしのカローラ、ちょっと外国語が入ってる。

横山:そうです、ボサノバのおしゃれな。

野地:おしゃれでしたよね。僕も小学校の時、口ずさんでたな。あれ、浜口さんなんですか。もともと外国の歌なのかと思ってました。

 いや、横山さんのインタビューは面白い。赤塚不二夫といい、浜口庫之助といい。そうだ、あの歌、コンサートで歌ったらどうですか。

横山:わたしのカローラ、弾き語りでやったことがあります。

野地:今も原曲は聴けるのかな。

横山:ユーチューブで聴けますね。そう、最初はカローラだけだったんですけど、カローラスプリンターが出てから、スプリンターというのが入って。2種類。たぶんオケは一緒だと思うんですけど。

 トヨタはCMがスタイリッシュですね。特にセリカのCMがすごくスタイリッシュで、「食べてしまいたいクルマ」というのがありました。コピーがすごくよくて、「ちょっとうれしいカローラ」とか、「わたしのカローラ」とか、刺さるコピーが今も記憶に残ってます。

野地:そうした横山さんの心をつかむようなCMを作る裏では、トヨタ生産方式でひたすら地味に…。

横山:一生懸命、クルマを作っていたんですね。この本を読んでから、改めて当時のCMを見ると、また違った感慨がありますね。

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横山剣(よこやま・けん)
1960年生まれ、神奈川県横浜市出身の「東洋一のサウンドクリエーター」。78年にクールス・ロカビリークラブのローディーとなり、1981年にヴォーカリストとしてデビュー。97年、クレイジーケンバンド(CKB)を発足し、多くのヒット曲を発表し続けている。2020年10月21日にニューアルバム「NOW」をリリース。同30日に「CRAZY KEN BAND *NOW at 日本武道館」が開催された。詳しくはCKB公式サイトにて。(写真:尾関祐治、以下同)

■安心感が半端なくありますね

野地:トヨタの車に乗ってみて、特徴ってありますか。

横山:そうですね、安心感が半端なくありますね。で、僕はカローラの何でもない、あえてスポーティなやつじゃなくて、デラックスという最もオーソドックスなやつに乗ったんですけど。KE70というカローラです。

 もう加速が素晴らしくて、ほかのクルマに乗れないぐらいイイ感じなんですよ。そのプレーンな感じが逆に色っぽくて好きだったんですけど、とにかく安心感があって。走る、曲がる、止まる、すべてにちょうどいいというか、コンフォタブルというか。で、けっこう速いんです、びっくりしちゃうぐらい。マニュアルだったんですけど。

野地:KE70っていつ頃ですか。

横山:昭和56年頃ですかね。

野地:いわゆるカローラ、みんなが覚えてる。

横山:ええ。このKE70というのはマニアの間でファンが多くて、それをカスタムしてレースに出てる人とかけっこういるんですね。やっぱりハチロクは断然人気ですけども、僕はKE70がすごい好きで。あとKE30というのもすごくよくて。

 外車と交互に乗ってたんですけど、やはり雑なんですね、外車って(笑)。特にイタ車とか、ほんと雑、アメ車とかも。なんかギシギシいったり、どっかしら壊れるというか。それがトヨタの車は、どんな無茶しても、あ、オイル交換するの忘れた!とかあっても、まあ大概、元気よく走るし、ほんとタフですよね。

■いつかはクラウン、丁寧に慈しむように

横山:それと、クラウン。「いつかはクラウン」というコピーがありましたね。僕はクラウンはけっこう長く2種類乗ったんですけど、もうベッドというか、おふとんというか、すごい包容力があって、ほんとにストレスのない車なんですよね。今、うちのメンバーでは洞口信也ってベースの彼がクラウンのすっごいオーソドックスなセダンに乗ってるんですけど、もうほかのクルマには乗れないって。すごい広いし。

野地:センチュリーは乗ったことないですか。

横山:あります(笑)。

野地:いや、そういう気がしたんです(笑)。センチュリーは今なかなか中古がないらしいんですよ。

横山:ないですね。

野地:出さないようにしてるらしく。変な人に流れちゃうと…。

横山:そうですよね、やからみたいなやつが乗ったら、ねえ。

野地:昔はあれ、サーファーがけっこう乗ってましたよね。横山さんは今も?

横山:もう乗ってないです。30代のときに乗ってました。

野地:ちょうど今、代替わりする前のやつ。

横山:初代はすごい希少というか、市場に出回っていなくて、1980年代後半のやつですね。

野地:何色ですか。

横山:白です。

野地:皇室みたいですね。

横山:アイボリー。

野地:要するに白いロールスロイスみたいな。

横山:そうです。これがとてもコンフォタブルで。ちょっと車体が大きすぎるので、停めるところには困りましたけど。すごく気持ちいいクルマです。

野地:でも、あれ後ろに乗る車ですよね。

横山:そうですね。黒だと特にそうなんですけど、白だと乗り方次第で運転手さんに見えない(笑)。

野地:センチュリーはどのくらい乗りましたか。

横山:2年ぐらいです。

野地:ガソリン代、大変ですよね。

横山:大変だったんですけど、それ以上に大変なアメ車に乗ってたから、それほど気にならなかったですね。その頃は5700㏄とかでっかいのばっかり乗っていたんで。でも、そういう意味ではクラウンがちょうどいいですかね。

 そして、そういう快適なクルマ作りを支えているのが、トヨタ生産方式なんですよね。この本を読んでいると、すごく丁寧に、慈しむように現場の人たちが仕事をされている感じが伝わってきます。

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■「走り屋」経営幹部、サイコーです

野地:電気自動車とか自動運転になって、横山さんのクルマへの愛は変わるんですか。

横山:手を離しても走れるとか、別の乗り物として見る分には、それはそれで面白いと思うんですけど、やはりブオン!と響くエンジンの音とか、そういう官能の世界がなくなるのはちょっとさみしいというか。

野地:電気自動車は空吹かしもないし。

横山:そうなんですよね。まあ、これからの世代の人はそれが当たり前になっていくわけですよね。僕はいまだにガラケーなんですけども、あ、スマホが嫌いとかじゃなくて移行できないだけなんですけど、そんな感じの断絶は起きるのかなあというのは思いますけどね。

 フォーミュラEという電気自動車のレースを見てても何か面白くないんですよ。無音でシャー、シャー、ヒューッてモーターの音はするんだけど。まあ違う見方で見りゃ面白いのかもしれないけど、ちょっとまた別モノですね。

野地:ガソリンのレースカーがスタートするときは、動物が吠えてるみたいですもんね。

横山:そうなんですよね。まあタイヤは消費するし、ガソリンも消費するし、そんなに吹かさなくてもいいって言われちゃう時代なんでしょうけど。

野地:これまでは排気量で車の大きさってイメージできたけど、EVになったらどうなるんですかね。モーターが大きい、小さいなんですかね。

横山:ねえ。あとどのぐらい充電できるかによってグレードが変わるとか。テスラとかそうですよね。

 でもね、2018年のル・マンのワンツーフィニッシュ、トヨタがやり遂げたじゃないですか。その前にすごいショッキングな、あともうちょっとというところで最後の最後にリタイアしてすっごい悔しかったから、僕も含め、みんな泣きましたよ、あのル・マンは。勝利のエンジン音、やっぱり最高です。

野地:そのガズーレーシングを率いているのが、トヨタのエクゼクティブ・フェローの友山茂樹さん。この本にも登場いただいていますが、この人が1日中でもクルマに乗っていられる人で、この間は動画が送られてきて、「ドリフト走行をし続けて、後ろのタイヤを潰した」って。経営幹部が自ら、タイヤがバーストするまで1日中クルマを乗り回しているという(笑)。

横山:ガソリン車的な、そしてFR車的な発想ですね。そんなことまでやっているのが経営幹部ご本人というのが、僕ら自動車ファンにとってはすごく頼もしいです。

野地:友山さんは「群馬の走り屋」だったというから。

横山:サイコ―、イイネ!(笑)。

 走るクルマというと日産のGT-Rもいいんですけど、ちょっと敷居が高すぎるんですよね。庶民が手が届かないじゃないですか。それがトヨタのハチロクなら、がんばれば買えるお値段で。

 あと、ガズーレーシングでワンメイクレースのシリーズ戦をやってますよね。あそこは予選に落ちた人にも敗者復活戦があったりとか、モータースポーツを身近にしてくれていますよね。で、そうしたレースからフィードバックできるようなクルマが市販されているということだから、また自動車ファンとしてはホッとするというか。

野地:この本ではモータースポーツのことは全然書いてないですけれど。

横山:いえいえ、ここに書いてあること、つまり、もっといいクルマを作ろうという情熱の、その先にモータースポーツがあるんだなという感じは、ちゃんと伝わってきました。

■僕らはムダが財産だったりして

野地:改めて、この本をビジネスパーソンはどういうふうに読めばいいですかね。

横山:標準の作業時間を調べるためにストップウォッチを持った人がそばに立って計る話がありますよね。

 自分がそこの作業者だったらやだなあとか、集中できないなあとか、なんだよ、と思うかもしれないんですけど(笑)、でも、そういうチェックをしっかりするから、ジャスト・イン・タイムが機能するわけですよね。一見、監視されたりしているようだけど、そうして現場が無理をせずに、しかも効率が上がる作業スピードを追求している。そのあたり、管理されるのは嫌だと反射的に突っぱねる前に、今、そこで行われていることの意味をちゃんと考えてみるとか、そういうことは大切だと思いましたね。

野地:ダブルジョイレコーズでもジャスト・イン・タイムを導入しますか。

横山:うちは8人の小所帯ですけど、時間をムダにしないで、ムダな残業はなくすとか、課題を明日に残さないとか、この本を読んで、自分たちでもできること、見直せることはあるなと思いました。

野地:僕も本を書きながら、やっぱりムダは無くしたほうがいいのかなと考えたりするんですけど。

横山:僕らはムダが財産だったりもして、ゴミ箱の中からなんかビビビッとくるものを見つけて拾ったりすることもあるので、必ずしも全部が全部、効率よくというのがいいわけではないんですけど。

野地:いろいろ思いもかけないことが刺激になったり、影響を受けたり。考えてみたら「わたしのカローラ」だって、テレビから勝手に流れていた歌が横山さんにビビビッときて、浜口庫之助さんからも影響を与えられているという。僕も思えばあれが初めてのボサノバだった。

横山:ボサノバ初体験。あの曲のすり込みはでかいですね。子供のときになんておしゃれな曲だと思いました。

野地:横山さんの曲でも、ボサノバっぽいのもいっぱい。

横山:あります。いろんなことが刺激になって、ムダなものも含めていろんな影響を受けながら、曲になっていく。

 というのはありながら、効率化すべきところはしたほうが、結果の数字がよく出たりもするんですよね。効率化というか、ちゃんとというか、丁寧にというか。自分のエゴとは別に、そういうことの大切さもありますね。

野地:コンサートも、本当に何回も練習して、ツアー中も毎回練習してるんですよね。で、ちょっとずつ変わっている。僕もある年、CKBのツアーの最初を見て、真ん中で見て、一番最後を見て、あぁ、ずいぶん変わるもんだなと。曲も変わってますよね。

横山:はい、トヨタで言うところのカイゼンですね。

野地:やっぱりそうしたほうがいいわけですか。

横山:そうですね。もう昨日より今日、今日より明日って感じにしていきたいという志だけは持ってないと、というのがあるんで、練習しては反省ばっかりですけども。

 やっぱりマンネリになるのはイヤだなという気持ちがあるわけですけど、同時に、でも、何かこう通底している一本のラインみたいなものがなきゃいけないとも思っていて。

 それがクルマで言えばエンブレムだったり、フォルムだったりというのだとすれば、CKBの場合は、20年前の「クレイジーケンバンド!」っていう声のジングルを必ずCDに入れて、ロゴマークを変えないとか。そういうので一本、通底していると、冒険していろんなところに飛んでも、また正道に戻れるという感じで、そういうのだけは続けてやっているんですけど。

野地:最後に横山さん、もしトヨタでもう1台欲しいとしたら、なんですかね。

横山:今、うちにはエスティマハイブリッドがあるんですけど、それの新型を。家族で乗る車、自分が乗る車、レースに出る車と分けていて…。

野地:じゃあ今、3台。

横山:レース用とクラシックとキャデラックとエスティマ、4台です。普段乗るのは2台ですね。

野地:それは全部、自宅にあるんですか。

横山:3台は自宅に。レース用のは本牧ガレージといって楽器置場があるんですけど、そこに置いてあります。

野地:高倉健さんに聞いたんですけど、スティーブ・マックイーンはビバリーヒルズにある高級ホテルに自分のクルマを22台置いてたんですって。1人、エンジンかけるための専任の人がいたって。

横山:もうスケールが(笑)。

野地:高倉さんもホテルパシフィックに18台、持ってたんですよ。亡くなってから初めて聞いたんですけど。

横山:品川ですか。

野地:あそこに全部停めてて。三菱の車もあったし、ポルシェもあったし、ベンツも、アメ車も。

横山:見たかった。

野地:高倉さんもクルマが大好きでしたねえ。全部、自分で運転して。高倉健か横山剣かというぐらい。

横山:いやいやいや、足元にも及ばないですよ。

野地:そうそう10年ほど前、高倉さんにCKBのアルバム「グランツーリズモ」をプレゼントしたことがあります。ドライブのときに聴いてくださいと。

横山:うれしいですけど、怒ってなかったですか?

野地:えっ?って戸惑ってました。

横山:やっぱり(笑)。

野地:今日はどうもお忙しいところありがとうございました。すごくいい話で。あ、クレイジーケンバンドをトヨタのコマーシャルにとぜひ推薦したいですね。忘れないようにこの記事にも書いておきます(笑)。

横山:ありがとうございます。ぜひ(笑)。

編集S:レースについてのお話は、横山さんと野地さんがトヨタ自動車の企業サイト(Global Newsroom)で連載した「カーレース入門~Let's go to the Circuit!」を、どうぞ。

※note連載『トヨタ物語 ウーブン・シティへの道』もぜひお読みください。


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