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【ドラゴンボール】かめはめ波の伝承-何をもって本場とするの?-

バッキャローッ!!こっちは本場のかめはめ波だ!!

DRAGON BALL 42巻 其之五百十「ベジータとカカロット」

魔人ブウ(純粋)戦で飛び出した孫悟空のこの台詞、よくよく考えると疑問符がつくものである。

とりあえず状況から説明すると、これは純粋ブウのかめはめ波に対して悟空もかめはめ波で反撃した際の台詞である。
魔人ブウは無邪気なデブの頃から、悟空のかめはめ波を受けて間もなく瞬時に真似て、そのまま体得してしまう格闘センスを持つ。純粋ブウはデブのブウが分離しているのでその時の経験に基づいたものではないが、戦闘力やセンスはより優れているので、やはり戦闘開始後に悟空にかめはめ波を撃たれた際に体得して撃ったワケだ。

つまりブウが撃ったかめはめ波は「悟空のかめはめ波のコピー」ということになる。なるほど、少なくともブウに対しては悟空のかめはめ波は本家と言って差し支えないだろう。

しかし、悟空の主張は本場である。本場というのは「本式に行われる場所」という意味だ。
そりゃあ魔人ブウは魔導師ビビディによって封印されたまま地球に持ち込まれた出自を持つので、まぁかめはめ波のない文化圏から来たのは間違いないだろう。なので場所としては本場じゃないと言えなくもない。インド系のスパイスカレーを日本で編み出しても「本場インドの~」と言わないようなものである。

だが、問題はもう一つある。本式とはおよそ正式と同義である。
そして実際のところ、孫悟空のかめはめ波は正式かどうか怪しいのである。

正式と公認

ドラゴンボールのオフィシャルサイトに、かめはめ波を撃ったコマのリストが用意されている。便利な時代になったものである。せっかくなのでこちらも参考にしながら話を進める。

本場主張から遡ること400話以上、其之十四「亀仙人のかめはめ波!!」でかめはめ波は初登場した。タイトル通りに撃ったのは亀仙人であり、かめはめ波を編み出した当人なので間違いなく正式のかめはめ波である。
「体内の潜在エネルギーを凝縮して一気に放出させる大技」であることに加え、亀仙人の筋肉量を増大させるほどの気の凝縮による賜物か、山を吹き飛ばす破壊力を発揮している。

そしてその光景を見たまだ少年期の孫悟空は、亀仙人のかめはめ波を見様見真似でコピーして体得した。……アレ、これってブウがかめはめ波を体得したのと同じじゃない?
たしかに外見については亀仙人のかめはめ波と相違ないし、亀仙人も悟空が撃ったものをかめはめ波と認めている。だが外見の見真似で撃っている以上、一連の動作の細部や、気の凝縮や効率の良い放出などの内部的な技術が伴っているかは怪しい。なので本家公認ではあるのだが、正式であるかはわからない

もっとも、亀仙人自身があまり正式の継承にこだわっていないのもこの問題には影響がある。なにせ悟空以降に弟子入りした者も誰一人正式に学んではいないのだ。ヤムチャは亀仙人にナイショで独学で体得してとっておきにしており、クリリンに至っては「やってみたらできた」というにわか仕込みレベルの習得だったのだが、どちらも亀仙人はかめはめ波と認めている。こうなると、亀仙流の一番弟子だった孫悟飯(じいちゃんの方)すらどれだけ正式らしいのか怪しいものである。

亀仙人の認識からすれば細かい部分は抜きにして体内の潜在エネルギー、つまり気の凝縮と放出ができるきっかけになれば体得完了・公認OKという認識なのかもしれない。
なにせ亀仙流の修業は基礎能力を日常の中で鍛えるだけで、拳法の技術すら弟子の基本スタイルに沿わせるくらいなのだから。

ブウが本場じゃない理由

亀仙流の中ですらこうなのだから、他流でかめはめ波を使っている人物はさぞいい加減……かと思ったら、それぞれなんらかのルーツはきちんとある。亀仙人の目による本家公認でこそないが、少なくとも適当に撃ってかめはめ波と言い張った奴はいない
実際に他流でかめはめ波を使った人物と、その習得経緯を並べてみよう。

天津飯:鶴仙流。ジャッキー・チュンに対して模倣して一度だけ放った。直接の習得元は前の試合で直接撃たれたヤムチャのかめはめ波と思われるが、ライバル流派の代名詞となる技なので事前に情報は仕入れていたかもしれない。

セル:細胞採取元の流派混合。悟空の細胞に加え、スパイロボット経由で得た悟空の戦闘データから学習したものと思われる(同様に魔貫光殺砲もラディッツ戦当時のものを再現)。なので習得元は悟空のかめはめ波。
経緯の特殊性から、習得元の人物と直接対面せずかめはめ波を使うようになっており、セル自身も第一形態の頃はかめはめ波の発射自体で虚を付けると考えていたフシがある。

孫悟飯:魔族流。精神と時の部屋で悟空と修業した後から使用するようになった。そのタイミングから習得元は悟空のかめはめ波でまず確定。
なお、精神と時の部屋入室以前は主力の気功波を魔閃光で固定していた。かめはめ波への主力切り替えはただの習得ではなく、実利・精神両面で価値を認めたためと推測される。

孫悟天:亀仙流の亜流(牛魔王・チチ系統)。見様見真似であり、「かめかめ波」と技名すら一文字間違えていた。
初披露したタイミングから考慮すると、天下一武道会前の鍛練期間に悟飯のかめはめ波を見て習得した可能性が高い。

魔人ブウ:魔人ブウの自己流+吸収した相手の流派混合。前述した通り悟空に撃たれてすぐ習得した。

こう並べると、よくもまぁ見様見真似のさらにコピーが広まっていったものである。今後もドラゴンボール超なりゲーム作品なりでかめはめ波を使っては習得元にされるだろう孫一家に正式版を教えておかないと、いずれ亀仙人が忘れられた創始者扱いになりそうだ。

ただ、亀仙流と他流では一つだけ明確に違う点がある。それは亀仙流の弟子達は習得元が亀仙人のかめはめ波であるということ。
前述の通り、悟空は亀仙人のかめはめ波を元に見様見真似で体得した。そしてまだ弟子入り前のヤムチャもフライパン山を吹き飛ばす正式かめはめ波を見ている。さらに第21回天下一武道会で月を消し飛ばした際にもう一度放った正式かめはめ波は、ヤムチャに加えクリリンも見ている。
孫悟飯(じいちゃん)に限っては推測になってしまうが、師匠の大技となれば一度くらいきちんと見ていて当然だ。二番弟子の牛魔王が事前動作だけでかめはめ波の使用に気付くのだから、一番弟子にその機会をケチったとは思えない。

この点をもって「本場」というなら、一応筋は通るだろう。弟子のかめはめ波はそれぞれの解釈によって自らの技になっているが、それでもその解釈のベースは本家本元・正式のかめはめ波である。
だがその自己解釈版を元に、さらに別の解釈を加えて体得したものは本場を外れた別モノという認識なワケだ。魔人ブウの卓越したセンスでそっくり体得したといっても、そのセンスそのものが個人の才覚である以上はブウによる解釈は必ず入る。
なのでいくら火力が超サイヤ人3悟空並であり、技術的には限りなく同じであっても、「模倣元が孫悟空のかめはめ波である」というその経緯から、魔人ブウのかめはめ波は本場足りえないのである。

二段階の距離感

身も蓋もないことをいえば、亀仙人がきちんとかめはめ波を指導をしてやればこんな考察いらなかったといえばそれまでではある。

あるのだが、亀仙人と同じ「教えはしないが見て盗むのは可」というスタンスだと、見て盗んだものをさらに見て盗んで……という連鎖はどのようなものでも起きるものである。
そしてそれこそ魔人ブウのような卓越した模倣者であったり、セルのようなデータから分析して与り知らぬところで習得する者も現れうる。

そういう意味では、「本家本元をきちんと見ていないヤツは本場とはいえない」と斬って捨てた悟空の認識は意外としっかりしているものである。
自分も解釈を入れているから正式そのものではないという点をきちんと踏まえた上で、正式なものに触れてもいないなら本場ではなく、格は下がるという形で本家を立てることができる。

孫悟空のかめはめ波は正式そのものではない。
しかしだからこそ、正式なかめはめ波を元に体得したという自負から「本場」を主張したのである。

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