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あなたはすてきな音をしている

この前、いちとせしをりさんとお会いした時のことを書きたい。


しをりさんの声はみずみずしい。

おそらく、しをりさんはものすごく自分の生き方とか、自分そのものを考えているから。
顔や雰囲気と同じで、声も性格や心によって印象が変わるものだと私は思う。

私は音に色と形を感じる超能力( )を持っているので、しをりさんのカラフルな声が全部見えた。
赤にも青にも、白にもグレーにもなった。

こういうことを思い出すたびに、音が大好きな人間でよかったなって思う。


待ち合わせ前、しをりさんが『この辺りにいます』と送ってくれた写真を見ながら近くにいるはずのその姿を探していると、死角から見覚えのある緑色のやさしい球が飛んできた。

しをりさんの音だ!!と思った勢いで何も考えずに「しをりさん!」と声をかけてしまった瞬間、ご友人と話していた彼女の声が黄色のトゲつきボールになった。

耳の中に入り損ねて下に落ちる音を追いながら、あ、「つきのです」って言うべきだっだんだなって思ったのだけれど、それでもとっさに「つきのです」って言葉が出てこなくて、しをりさんをちょっと戸惑わせてしまった。

言い訳をさせてほしい。
私が声をかけるその直前、ぽんっと私の耳に飛び込んできたしをりさんの声は緑のゴムボールのような軽快さと安心感があって、その音のかわいさに私はうれしくなってしまったのだ。
好きなものを見つけるとうれしいでしょう?
私はしをりさんの声が好きな形で、見つけた瞬間にうれしくなっちゃって、だから「つきのです、こんばんは」って言う前に飛びついてしまったのだ。
っていう、言い訳。


そのあと二人になって、しをりさんが決めてくれた喫茶店に向かったのだけれど、顔の両側を抑えたしをりさんがゼリーみたいな音で「寒いと涙がでてくるんです」と言った。
このゼリーがまた私の耳には心地良くて、確かに震えているのだけれど、ぷるぷるつやつやとしていておいしそうな音だな、と思った。
いちごゼリーかな、味は。

道中、青いゼリーになった瞬間のお話が好きだったのだけれど、なんの話だったかは教えてあげない。私だけのひみつ。

しをりさんのゼリーな声が大きくなったり緑になったり青になったりするのをかわいいなぁと思いながら歩いていると、「ここです」と言われて立ち止まった。
よくくる場所だけど飲み屋さんかな?と思って見上げると、モダンですてきな喫茶店があった。

余談ですが、喫茶店までの階段を上りながら、「つきのさんも新宿も喫茶店も好きだって言ってたから、ひょっとしたら知ってるかもしれないんですけど」とかわいい声でしをりさんに言われた時、「ひゃ〜この辺の治安良い喫茶店ってそういえば行ったことないな〜〜治安悪いところばっかり行きすぎだし好きすぎだな〜〜今度からこういうところ行くようにしよう」と心を入れ替えました。
※そんなことを考えた翌日、終電を逃して大好きな夜の新宿で朝まで過ごしました。(語弊のある言い方)(レイトショーを観たあとリンガーハットで始発を待っただけ)(でもこの日の歌舞伎町側の新宿はたしかに治安良くなかった)(良い日もある)


喫茶店の中でしばらく待ってる間、しをりさんの声がそれまでのゼリーとは打って変わって、手のひらサイズの箱になって色も一瞬一瞬変化していた。
ひょっとしたら「何を話して間を繋ごうかな」って考えていたのかもしれない。

違ったら恥ずかしいけれど、すこし張り詰めたプラスチックの触感だったから、そうだったのかなって。


席に通されて、ご飯を食べましょうという話になったので、私はしをりさんがおすすめしてくれたハンバーグを食べた。

頼んだメニューが運ばれてきた時の「わあ」ってしをりさんの声が、私のところまで飛んでこないでそのまま足元にぽとぽとと落ちていったのを見て、しをりさんはこれ全部は食べられないかもしれないと思った。
あんまりうれしそうじゃなかった気がしたから。
この前お会いした時に見ていた、しをりさんのうれしい時の声と全然違う音だったから。
おいしいって言ってたけど、たぶん。

私がハンバーグじゃなくてオムライスにしたらよかったですね、ごめんねしをりさん。


食べながら、食べてからも、たくさん話した。
恋のこと、愛のこと、自分のこと、文章のこと、お仕事のこと。
閉店間際までずっと話してた。

これを言っちゃうとしをりさんは傷ついてしまうかもしれない、と思いながら話す時がたびたびあった。
その間、しをりさんはうなずくだけで声を発さなかったから、私はしをりさんの声が見えなくて、どこまで話していいか迷った。
けれど、しをりさんはずっと私の話を聞いてくれていたし、ずっと正直に話をしてくれていたので、私も最後まで話したいことを思っているままに話した。
その間たまに発してくれる声は全部水みたいだったから、しをりさんは苦しかったのかもしれない。ごめんなさい。

でも、聴いてくれてありがとう。
本当にうれしかった。


しをりさんはとても恋をしている。
私はいまいち恋が分からない。
おまけに、しをりさんと私の3大欲求グラフは真逆だ。

恋や愛の話をする時のしをりさんの声は、私の声の形とは全然違う。
迷いの形も、よろこびの形も。

だけど、私たちは真逆に立っているだけで同じ方を見ていて、同じようなずるいことを考えていた。
ずるいことの手札もやり方も考え方も全部一緒で、おもしろかった。

真逆なのに、同じ「ずる」が成立することが、心底おかしかった。
だから私は、しをりさんと友達になれるなと思った。
(こんなことで友達になれるなんて、うれしくないかもしれないけど。)


しをりさんの声はみずみずしい。
「低い」「高い」「太い」「細い」という話ではなく、しをりさんの声はどんな形の時もみずみずしい。
好きじゃない人の話をした時だって、乾かなかった。

乾かない声というのが、私は好きだ。

乾くというと、心が冷たい時や感情が死んだ時のように想像されるかもしれないけれど、そうではない。
明るくても乾いてる人もいて、嘘ばかりついてる人でもみずみずしい人もいる。
どういう理由で乾いた声になるのかわからないけれど、たまにいる「みずみずしい声」をもった人が好きだ。


しをりさんの声はみずみずしくて、すてきな音だ。


またしをりさんの音を聴きたいからから、また会ってくれたらうれしいです。




たのしく生きます