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小説 それぞれのリセット、そして事件

作 白川透

殺人事件×恋心
———————犯人は誰か。只者には解けない新感覚ミステリー。

人の心を探り、物語の裏を読んで、ありえない線を消せ!
答えは、直感が知っている。

注意事項:
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。また、法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
本文にAIは使用しておりません。また、本文をAIに取り込むことはできません。
画像の一部に生成AIを使用しています。

プロローグ



ある地方都市から少し外れた町の国道沿い。
 
荷物を括り付けた流線型のバイクが低いエンジン音を立て信号待ちをしている。
運転しているのは黒のジャケットに身を包んだ細身の女だ。
 
———あの人も事件に関係あるっていうんですか? 先輩。
その女を見て、僕は心の中でつぶやいた。
 
警察官である僕は、担当した事件に行き詰まると、僕を指導したある先輩の言葉を思い出す。
 
———事件を必ず解決に導く方法? そんなもの、あるわけない。
 
でも、少しだけ教えてやる。
まずは人の話を信じろ。真実は一つなんだ。
ぴったりはまる答えが、必ずあるはずさ。
 
全ての事実が、事件の答えを示してくれる——————
 
あの言葉は、今回の事件にも役に立つのだろうか…。


      

第一.事件編


 
      社殿にて
 
二人で鳥居を潜ったことを覚えている。
境内にある一番大きな本殿に、二人で忍び込んだのだ。
 
檜の香りがする。
部屋には窓がなく、戸は締め切られている。
たいそう暗い。
隙間から微かに差す外光も、今の時刻を知らせてはくれない。
 
部屋には、私とあの人がいる。
前を歩く私は、背中を叩かれ、硬い木の床に正座して、膝をついた。
 
ヒュン。
 
何かの一振りが空を切る。
小さい声が漏れ、私の視界は一面の床に変わった。
 
肩まで伸びていた私の髪が、はらりと散った。
 
そして、血の匂いが残った。
 
これが私の最期の記憶。
 
 
      2022年、夏
 
 
僕たち4人は、1年前にあるSNSで知り合った。すぐに意気投合し、今では同じ趣味である写真撮影のSNSグループ「フォーライト」を立ち上げ、ほぼ毎日メッセージを交換する仲だ。
 
4人の紹介をしよう。
1人目「トヨ」本名、豊辻(とよつじ)三郎(さぶろう)。35歳。男。脱サラし人生リセット中。カメラが趣味。
2人目「ハムラミサキ」本名、羽村(はむら)岬(みさき)。22歳。女。無職ゲーマー。負けん気が強い。「全てを忘れて旅に出たい」が口癖。
3人目「エイミー」38歳、女。本名、楠(くすのき)英美(えいみ)。自称、社会革命家。「働かない奴に飯を喰わせない」がモットー。
4人目、僕「ケータ」本名は佐藤(さとう)圭太(けいた)。23歳、男。平凡なサラリーマン2年目。
そして、全員が独身。
 
今日も僕たち4人は、フォーライトのオンラインミーティングをしていた。
 
・・・
 
「ミサキ。二人で会おう!」「やだ!」
「おいおい、これで断られるの何回目だ。かわいそうに」そう言うのはトヨだ。
「ケータ、覚えてないでしょう。記憶力ゼロだもんね」ため息混じりのミサキが続ける。
「お前が言う? ミサキ、今日は言わせてもらう。お前さ、俺の誕生日、お前に贈ったプレゼント、お前がゲーム機盗まれた事件、その他俺とのエピソード、全部忘れたって、どういうことだよ」
「ケータの印象薄いから。記憶もリセットしたの」
「ぐはあ。」
 
トヨが割って入った。
「二人は仲がいいな」
エイミーが続ける。
「ほらほら。お熱いのは二人だけの時にしなさいよ。緑はそれが理由でフォーライト抜けて、SNSまで辞めちゃったんだから」
緑というのは半年前にフォーライトを抜けた女の子だ。
 
「緑のこと、覚えてる?」
「俺は緑に告白すればよかったのかな?」
「へえー、緑も好きだったんだ。ふーん。」
「なんだよ。」
「君は節操がない。」
 
4人の関係は、ずっとこんな感じである。
しかしそんなある日、ケータが4人でオフ会をしようと言い出したのだった。
 
実は、この4人がオンラインミーティングで顔出しOKになったのはつい3ヶ月前。トヨが顔や声を出すことにずっと難色を示していたからだ。それでも、すでに画面で顔を合わせた4人に抵抗は少なく、すんなりとオフ会を開催することが決まった。
 
オフ会の場所は、ミサキの住むアパートに近い『復生(ふぶ)神社』に決まった。健康のご利益があると有名で、境内はかなりの広さがあり、社殿の数は本殿を含めて12、鳥居の数は108だという。本殿には『復活刀(ふっかつとう)』という刀が祀られており、その刀で切られた人間を数日後に復活させるという奇妙な言い伝えがあった。
 
とにかく、こうして4人は、来週22日、水曜日の朝10時、神社の最寄り駅『復生(ふぶ)神社参道』に集合することになった。
 
 
      フォーライトのオフ会
 
 
当日、待ち合わせした復生(ふぶ)神社参道駅に一番に到着したのはミサキだった。
ショートカットのミサキの額には汗がにじむ。
 
程なくして4人は揃い、挨拶を交わした後、割り勘でタクシーを使って神社に向かうことにした。神社までは寂れた商店街の他、ほとんど何もない。本当に人気のスポットなのだろうか。神社は平日の午前中ということも重なり、4人の他には誰も見当たらなかった。
 
その日は曇りで、ずっと太陽は隠れていた。
 
境内の木陰でエイミーとミサキが話をしている。
残りの二人は、スマートフォン片手に写真を撮ったりしているようだ。
 
「さあ、このオフ会で恋は進展しますかね」
「あなたはケータ君と頑張りなさい。私は豊辻(とよつじ)さんと仲良くしてるから」
「ミサキのこと好かれてもな…」ミサキが小さな声で独り言のように言った。
「は? 自分のことミサキとか言う? その歳で。」
 
蝉の声が曇り空に強さを増した。
 
「そういえば、あれ、どうなった?」
「あれって?」
「フォーライトの年会費。緑と圭太(けいた)の分。会計処理できるの?」
「あー、えーと、どんな話でしたっけ?」
「また忘れた…。 本当に大丈夫?」
「すいません…。えへへ。 とにかく今日はエイミーさんも楽しんで下さいよ!」
「私、正直、神社には興味ないのよね。」
 
ミサキは逃げるように消えた。
 
 
      ケータとミサキ
 
 
復生(ふぶ)神社の本殿。ミサキは奉納してある刀を祭壇の裏から取り出し、両手で大事そうに抱えた。
 
「おいおい、勝手にいいのか」ケータが心配そうに言う。
「大丈夫。大丈夫」そう言って、ミサキはタオルで巻いた刀を大事そうにケータに渡し、そのままタオルで額を拭った。
刀を抜いたケータが驚いている。
「うわ。本当に真剣だ。持ってたら捕まるぞ。」
「一緒に返してこよっか」
ケータが刀を片手に握り、二人は本殿の中へと足を踏み入れた。
 
 
      トヨとエイミー
 
 
トヨはミサキとともに本殿で動画を撮影した後、日陰にある縁石に一人で座って、動画のチェックや編集をしていた。
後ろからエイミーが寄ってきて、トヨの隣に座った。
トヨはミサキと撮った写真に夢中で、スマートフォンに向かったまま。
エイミーには目もくれない。
 
 
こうして、その日4人は、写真を撮ったり神社の中を見たりして、その観光を楽しんだのだった。
 
しかし、解散は予期せぬものになった。
 
途中、ミサキが見当たらなくなったのである。
3人が心配になってミサキを探す。
 
ケータにメッセージが入った。
「ごめん。先に帰った」
ミサキからだった。
 
3人は少しほっとしながらも、少し怪訝な表情のまま帰路についた。
 
 
      殺人事件
 
 
翌日、ニュースがあり、復生(ふぶ)神社で死体が見つかったという。
 
被害者の名前は、羽村(はむら)岬(みさき)。
 
フォーライトの誰もミサキとは連絡が取れていなかった。
名前は漢字まで一緒だ…。まさか、あのミサキが…。
 
しかしその日の夜、ミサキはフォーライトにログインした。
早速オンラインミーティングに切り替え、4人で集まる。顔を見ると、確かにいつものミサキだが、顔色は悪い。
 
「よかった。ニュースに出ていた羽村(はむら)岬(みさき)は別人ね」
エイミーがそう言うと、ミサキは抑揚のない言葉で答えた。
 
「いいえ。あの神社で死んだのは私。復活刀の力で私はここに生き返った」
「悪い冗談はよして」
 
「冗談ではない」
「脅かさないで!」
 
「犯人はフォーライトの中にいる。私はそれを伝えるために戻って来た」
 
そこでミサキとの接続は途切れた。
 
 
      捜査
 
 
25日、金曜日。警察による捜査が始まった。
警察署の会議室で何人かの刑事が集まる中で、一人の若い男が説明を始めた。
 
「被害者、羽村(はむら)岬(みさき)の死因は、首の大きな切り傷からの失血。刀のようなもので後ろから切られた形跡があります。死亡推定時刻は22日の朝から昼にかけて。神社の管理人とタクシーの運転手の証言から容疑者は3人に絞られています。3人は当日SNSグループ「フォーライト」のオフ会と称して羽村(はむら)岬(みさき)———アカウント名「ハムラミサキ」——とともに神社に集まっています。」
 
「絶対に、犯人はこの3人の誰かですよ」
プロジェクターには、「佐藤(さとう)圭太(けいた)」「豊辻(とよつじ)三郎(さぶろう)」「楠(くすのき)英美(えいみ)」の3名の名前、そして被害者となった「羽村(はむら)岬(みさき)」の名前と生前の顔写真が映し出されていた。
 
「そう結論を急ぐな。まだ捜査も途中だろう。先に3人に話を聞くんだ。」
 
ボスらしき人物が今後の捜査について各々の分担を決め、その日の会議は終了した。
 
 
      豊辻(とよつじ)の証言
 
呼び出しに応じて最初に出頭したれたのはトヨ——豊辻(とよつじ)三郎(さぶろう)だった。
 
「豊辻(とよつじ)君。君さ、神社にいた時、何してた?」
渋い表情をした刑事が頬杖をつきながら言った。
「ビデオ撮影したのがある。私はずっと撮影していたんだ。殺せるわけがない。」
 
豊辻(とよつじ)はスマートフォンを取り出してビデオを再生した。
 
「女の子の後ろ姿ばかりだね。この女の子、誰?」
「ハムラミサキ」
「これ、君が撮ったの?」
「はい」
 
ビデオの再生が続く。
 
トヨのところにミサキが寄ってきた。
「豊辻(とよつじ)さん、私を撮ってよ。本殿のガイドツアーするから」
「いいよ」
ミサキが本殿をバックに立ち、トヨがミサキの正面に立った。
「えー、こちらが本殿です。本殿にはあの天照大神が祀られているんですねー。では早速、中を覗いてみましょう!」
「おい、入っちゃダメだろ」
「いいから着いてきて」
 
二人が本殿に入ったところで映像は暗くなって見えなくなった。
 
そこで刑事が映像を止めた。
 
「で、この娘は誰なの?」刑事が顔を曇らせた。
「え? だから、羽村(はむら)岬(みさき)…」
 
「羽村(はむら)…岬(みさき)…?」
「何か?」
「いや、ビデオは証拠として提出して」
「あとさ、当日持っていた鞄、包丁くらい入るよね?」
 
「いや誤解しないで下さい。羽村(はむら)岬(みさき)は生きているんです。オンラインミーティングで顔も見ました」
「幽霊が出たなんて、いまどき子供でも信じないよ。」
 
豊辻(とよつじ)は追い返されるようにして部屋を後にした。
 
 
      英美(えいみ)の証言
 
 
次に警察署に現れたのはエイミー——楠(くすのき)英美(えいみ)である。
英美(えいみ)を取り調べしたのは英美(えいみ)より少し年上の女性警察官だった。
 
「羽村(はむら)岬(みさき)は生きています。私、オンラインで顔も見ました」
「はあ?」
「それで、あの…。私はもう死んでいるとか」
「本当? あなた…、自分でおかしなこと言ってるの、分かってる?」
「ですけど、本当に…」
「いいわ、それは後で聞くから」
 
「それよりあなた、自分は社会革命家だとか言って、働かない人に厳しいこと言ってるみたいね。」
「はあ、まあ。」
「そして羽村(はむら)岬(みさき)も無職…」
「私、殺すなんて絶対にしません!」
 
「本当に? まあいいわ。ところで、当日、豊辻(とよつじ)さんは何してた?」
「あまり見てないし、覚えてません。その辺でビデオを撮ってたんじゃないですか。…ミサキと。」
「あなたもいいお歳だよねえ。豊辻(とよつじ)が若い子に現を抜かすから、羽村(はむら)が邪魔になって…、とか…」
「やめてください!」
 
しばらくの沈黙の後、楠(くすのき)英美(えいみ)は解放された。
 
 
      圭太(けいた)の証言
 
 
最後に出頭したのは、佐藤(さとう)圭太(けいた)である。
圭太(けいた)は真っ先に指紋を取られ、暫く小部屋で待たされた後、年配風の白髪の刑事が現れた。
 
「あの刀を持っていたのは君だろ? 指紋が出てるよ。」
「僕が人なんか切るわけない! 刀に、血は付いていませんでしたよね!」
「そりゃあ、君が使う前は付いていなかったかもねえ。それに、使った後も拭き取れる」
 
刑事は立て続けに尋問する。
「刀はどうしたの?」
「二人で本殿に置きました。ミサキと。」
「そこで二人きり…。そうなると殺せちゃうねえ。」
「殺してません! 二人で刀を返しただけです。」
「その後は?」
「ミサキに頼まれて、本殿の裏手で写真を撮ってました。綺麗な海が見えるから撮っておいてくれって。」
「そこで彼女の写真、撮ったのとかある?」
「いいえ…。すぐにいなくなっちゃって…。」
 
白髪の刑事はそこで席を外し部屋を退出すると、5分くらいしてから戻ってきた。
「また、来てもらうから。」
 
圭太(けいた)は解放され、自宅までの帰り道を歩きながら、心の中で呟いた。
 
僕らが復生神社で一緒にいた「ハムラミサキ」は、本当に殺されたのか…。
もしそうなら———————
 
犯人は一体誰だっていうんだ!
 

 第二.解決編

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