ジャッジングシートの審査項目を定める時の注意点
「ジャッジングシートはM.E.C.E.でなければならない」
英語弁論大会の審査は、judging sheetを用いて行われます。これは大会運営者によって各大会ごとに用意されています。
現在学生の英語弁論大会で使われる審査用紙は概ねCDE型と呼ばれる形式に準拠しています。これはスピーチを主にContent (内容)、English (英語)、Delivery (実演) の3カテゴリ面に分け、各カテゴリごとで更に細かく評価項目を設定し、分析的に評価する審査方法です。
この手法は要素還元主義の手法に基づいています。要素還元主義は近代科学の発展において誕生した手法で、物理的現象や化学的現象を要素現象に分析、還元し、これらの作用を解明することによってその現象全体を理解しようとするアプローチです。
英語弁論の審査、特に上記に挙げたCDE型審査においても、発表者のスピーチと言う総体を、スピーチを構成すると考えられる各要素に分割し、それぞれの要素に対し評価を与え、それらの評価を総合して得点を算出しています。簡単に述べますと「個の集積が全体を構成する」という理念に基づいて評価を行っている、と言えるでしょう。
以上を前提にすると、CDE型評価で英語弁論を審査する際は、審査項目がM.E.C.E.になっている必要があります。M.E.C.E.とは"Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive"の略で、日本語に訳しますと「相互に排他的な項目による完全な全体集合」となります。より簡単に述べますと「もれなく・ダブりがない」状態を言います。
では、なぜ英語弁論審査の評価項目はM.E.C.E.になっていなければならないのでしょうか。それは、審査項目で見るべき要素が重複していると、複数の異なる基準で同一の要素を評価することになるからです。言い換えますと、同じ評価要素をダブルスタンダードで採点・評価することになるからです。
これは例えて言えば、あなたが人体を解剖し、それぞれの臓器に分けていった結果を記すとき、「脳が2つあった」「心臓が2つあった」と述べるのと同じです。例外はありましょうが、通例人体に脳は1つしかありませんし、心臓も1つしかありません。そして脳と心臓とは別の器官です。
審査基準における分かりやすい例を挙げます。例えばContentsカテゴリに Organization (構成) という小項目が設けられていたとします。次に同じくContentsに Flow (文章の流れ) という小項目が設けられていたとします。これらは特別に主催者側からの注記が与えられない場合、一般には「文章全体の構成を評価するものだ」と理解されます。これが重複の一例です。
同一の評価要素をダブルスタンダードで評価しなければならない状態は適切とは言えません。弊害が生じます。まず出場者は複数の審査基準で同一の評価項目に点数を付けられるので、どちらの評価を信じるべきか疑問が生じます。それは得点の正当性に疑念を生む結果につながります。また採点する審査員も、どちらの審査基準で評価すれば良いか分かりません。いずれにせよ、大会の審査結果の正当性に疑念が生じる得ることであり、大会権威の低下につながる可能性があり、避けられるべきと言えます。
こうした審査基準の衝突は、特にCDE各カテゴリ内の小項目と、別途に設けられたConcept (大会コンセプトに基づく評価基準) との間で生じやすい傾向があります。Conceptに独自評価基準を設けるなら、それが他のCDEの評価基準と重義重複しないものか慎重に考慮して定めるのが望ましいでしょう。
大会運営に当たってjudging sheetを策定する際は、その審査基準がM.E.C.E.となっているかを慎重に精査する必要があります。また加えて、各審査項目の配点が適切であるかも十分に議論されることが望ましいでしょう。