見出し画像

小笠原旅行記 その3

父島に到着したところから書いていくわけだが、もうこの時点で10日経ってしまっている。今回、初の試みとして、旅をしながら旅行記をリアルタイムで執筆していくということにチャレンジしていたのだが。

ちなみになぜそんなチャレンジをしていたかというと、別にリアルタイムの方が面白く書けるのではとか、早く読んでくれる奇特な方にお届けせねばとか立派なことを考えていたわけでは全くなく、溜め込まなければ後々楽になるんじゃないか、という仕事根性丸出しの考え方からなのであった。そしてそれは全く達成できず仕事の時と同じ絶望を味わうのであった。こうやってやることを溜め込むからよくないのよね。

なので今は家の近くのカフェで泣きながら旅行記を書いているのであった。泣いているのは、5日分という膨大な量を書かなきゃいけないから、というのが一つと、楽し過ぎた母島が1000kmも遠いところにあって、もはや辿り着けない場所になってしまっている悲しみからだ。ああ、戻りたい。

またまたちなみに、これを書いているのは小笠原から帰ってきて1週間くらい経ってからなのだが、この1週間の旅行の代償は大きく、正直仕事をしているとき抜け殻みたいになっていてミスも頻発し周囲にも迷惑をかけてしまった。ゴメンネ。

さて、父島到着から話を始めよう。

父島到着

4月10日11時50分、ほぼ定時で二見港到着。揺れもなく快適なおがさわら丸の旅であった。港には大勢の人が迎えにきている。都心から1000kmも離れた太平洋のど真ん中にこれだけ大規模な港があり、大勢の人がいるというのはなんか不思議な感じだ。なんだか遠くにきた感じがあまりしない。伊豆諸島の島々の方が都心からはよっぽど近いはずなのにある意味で離島感というか遠いところに来た感じがする。
そう感じること自体、24時間の船旅とか一面海という環境に時間感覚・距離感覚が麻痺してしまっているのかもしれない。

というわけでめちゃくちゃ整備されたでかい港、二見港に到着、下船する。ここに来るのは大学の卒業旅行以来だから14年ぶりだ。そんな経ったのか。しかし、なんとなく港や近くの道には見覚えがあるぞ。うんうん。

なんて感傷に浸っている間はなく、私はこの先船を乗り換え母島に向かわねばならないのだ。出発まではあと30分ほど。その間に昼飯を調達して船のきっぷもどうにかしないといけないと思うと思ったほど時間はない。事前の下調べによると、母島に行く人用に港で弁当やが出ているらしいがそれはどこだ。あと母島に向かう船「ははじま丸」ののりばはどこだ。

弁当やが見つからなかったので、とりあえずははじま丸乗り場に向かう。するとこっちに弁当やがあった。まあそうか、ニーズのあるところに店も当然あるよね、なんて理屈っぽく分析して、店のある場所の見当を間違えたことを棚にあげ強がって見せる。

弁当屋には長蛇の列ができていたので先に乗船券を買う列に並ぶ。そしたらその間に弁当が売り切れた。船が売り切れることはないのだから弁当を先にゲットすべきだったのだ。なんてまた自分の意思決定を分析してみたが、なんだか小笠原についてから判断をミスってばかりだ。この先大丈夫か。

と、この先についてちょっと不安になるが、それよりも昼飯だ。飯の充実度はそのまま旅の満足度に直結することを私は知っているから、ここを非常食のカロリーメイトで済ますわけにはいかないし、ましてや昼時の2時間の船旅を飯なしで過ごすわけにもいかない。
それを知っていたのに弁当屋でのこの選択ミス。これは痛い。少し焦りが生まれるが、売り切れた弁当はもうどうしようもない。弁当を買った人では得られない価値を何か、何か手に入れなければ。

それは酒だ。

港には酒が売っていなかったので弁当を買っていたら、船の上で酒を飲むことができない。俺はそれをするぞ。
そう思って港を出て市街の商店を目指して走った(実際時間がなかったので本当に小走りだった)。上手くすれば弁当も売っているかもしれない。こんな昼時に数百人の客が下船するのだから、昼飯を売っている店があったっておかしくない。そう考えながら走ったが、弁当を売っている店は見つからなかった。残念。程なくして生協は見つかる。ここなら何かあるかも。何もない。弁当・おにぎり類も含めてかなり品揃えが薄い。多分今乗ってきたおがさわら丸で諸々届くはずで、今が一番品薄なタイミングなのだ。

参った、参ったぞ。と思いながら、これで成果が無しなのも悔しいので、腹いせのように、ビールを予定より多く2本買って、あとスナック菓子を買う。どちらも他の乗船客は持っていまい。せめてこいつらを美味しそうに飲んで食べて羨ましがらせてやる。俺は一体誰と戦っているんだ。

なんだかんだあったがこれでひとまず船で2時間を過ごす準備は整ったので、ははじま丸乗船口へ向かい、乗船。ここからは全て初めての経験だ。一層気持ちが盛り上がってくる。

ははじま丸

ははじま丸は父島〜母島間を2時間で結ぶ航路を担当する約500tの船だ。2016年に、3代目おがさわら丸の就航に合わせてこちらも新しく3代目のははじま丸が就航した。
おがさわら丸に比べると20分の1くらいのトン数なので、両者が並んでいるのを見るとだいぶ小さい船に乗っている感じがする。

この航路は、クジラや海鳥などをよく見ることができるということで、ホエールライナーという相性がついているし、船にも双眼鏡が設置されていたり甲板が広めに取られていたりとそれ用の仕様になっている。

乗船後、カーペット席の一角をさっと確保し甲板にも場所を確保しにいく。この辺はどの船でも共通の基本動作だ(個人的な)。
そして出航に合わせて甲板でビール(1缶目)を開け、スナック菓子も開ける。いい天気で波も穏やか、いいじゃないの。

いかんせん私はじっとしているのが苦手なので、ビールを開けたというのに海を見たり写真を撮ったりとあたりをうろうろしていた。すると、出航してまだ数分しか経っていないが船の左舷側にブローを見つけた。クジラだ。こんなすぐに見つかるものなのね。しばらく見ていたが、尾びれを海面に叩きつけたりと結構活発な動きをしている。
別にクジラに思い入れがあるわけではないが、見つけると見惚れてしまう。しばらく眺めていた。
一応、わかるかわからないがブローの写真。

その後南島を遠目に見やり、船は太平洋を進んでいく。父島の姿が小さくなり母島はまだ見えない。海の上にぽつんと船だけが航跡を伸ばしながら進んでいく。そして私はビール2缶目も開け気持ちよくなってきたところで船室で一眠り。贅沢だねえ。気がついたら母島が見えるようになってきていた。

これが母島ですかあ。船から見える母島は海食崖が発達し、青ヶ島がみよーんと伸びたような姿をしている。どこから上陸すればいいのか、どこに住めばいいのか全くとっかかりがないような姿をしている。父島よりもより人の手が入っていないし人を拒んでいるような自然そのままの姿をしている。

しばらくその絶望的な崖を眺めていると少し傾斜が穏やかになり、湾が見えてきた。母島の唯一の集落、沖港が近づいてきたのだ。いよいよ。いよいよだ。

続く。相変わらずだけど、まだ今回の目的地にたどり着いていない。

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは創作環境の充実のために使わせていただきます。