一生勉強の仕事
💬通訳者のつぶやき・・・通訳の仕事はその場でアウトプットするだけではありません。正しいアウトプットのためには、まず正しい知識のインプットが必要です。
特に調査目的の使節団などに随行して通訳するときは、事前に資料を戴いてて入念に下調べします。自分以外はすべて専門家の先生ですから、恥ずかしくないように必死で勉強します。往々にして直前にならないと資料は出てこないので、準備は時間との勝負。いかに効率よく、かつ確実な下調べを行うかに知恵を絞ります。
以下に私なりのコツをまとめてみました。
✔️ ソースとターゲットの両方から攻める
日本語の資料から独語(あるいは英語)を調べるだけではなく、関連の事情を説明した独語(あるいは英語)資料を自分で見つけて、そこから日本語の対訳表を作成する方が熟れた訳語が出てきます。
✔️ MTでフルイに掛ける
(自分の)翻訳業務では使わない機械翻訳ですが、通訳の下調べにはある程度役立ちます。たとえば膨大な独語論文(公開資料)を読み込む必要があるとします。それをざっと機械翻訳(有償エンジン)し、どこが重要であるかを見極めます。
その時いつも感じるのは「漢字」の偉大さ。象形文字が交じると、やはり情報処理のスピードがぐっとアップすると感じます。これは、単純に私が日本語ネイティブだからでしょうか。表音文字だけの平たいアルファベットとは違って、斜め読みができます。
✔️ コンパクトな対訳表
そうやって調査のテーマに関わる「キモ」の部分を特定したら、あとは自分で詳読して、改めて訳語を丁寧に調べ直します。そして、最終的にはコンパクトな対訳表に仕上げて、現場のアンチョコにします。
✔️ 急がば回れ(手書きの効用)
しかし、実際には調べた通りに単語が出てくるわけではないので、その対訳表も気休めくらいにしかなりません。究極的にはキーワードはパソコンだけではなく、頭にインプットしなければなりません。
そこで役立つと思うのが手を動かす作業です。準備の時間が許せば、印刷した資料にマーキングし、そこに訳語を書き込むという作業をすると、覚えやすいです。
直前の資料開示で時間がなければ、直接、キーボードで入力するしかないのですが、効率がよければよいほど、つまり単純作業になればなるほど、頭に残らないというのが実感です。電子辞書からショートカットキーで訳語を引っ張ってくるのは一瞬ですから。
ある単語を後から思い出すには、手がかりが必要です。脳の引き出しから単語を探し出すのには、その単語が使われている文脈がヒントになります。イメージとしては、その意味について考えをめぐらせる「頭の体操」により、脳のマッスルメモリに刻み込む感じ。文脈を削いでコピータイプするだけだと、忘れがちです。
仕事が終わった後に、「通訳さん、この分野に詳しいですね」と言われるのが私にとっての最大の褒め言葉です。もちろん、これまで経験を積み重ねてきた十八番のこともありますが、馴染みの薄い分野のこともあります。そんなときは、受験勉強の山が当たったような気持ちになります。
この稼業は一生勉強です。そして、だからこそやり甲斐があると感じています。
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