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『ブラツキの友達』#1

見えないんじゃない。見ようとしていないんだ。
誰も。

今日も、誰とも話さずに1日が終わっていく。
カート は、学校が終わるといつも通り、しょんぼり帰り道を歩いていた。

カート は皆が疑わない常識やルールに、いちいち疑問を持つタイプで、
どうして?と聞くのをやめられなかった。

そして気がつくと、カート はひとりぼっちになっていた。

たまには寄り道して帰ろうと、いつもは行かない路地裏に足を進めてみる。

いつもそこにあるのに、誰も見ようとしない路地裏。

いつから置いてあるのだろうか。そこには、たくさんの植木鉢と、そこで育っている大きな観葉植物がたくさん生い茂っていた。

「こんなとこに来るなんて変なやつ」

カート「誰!?」

よく見ると、灰がかった緑色のキツネのような生き物が カート をじっと見つめていた。

「へー、オイラが見えるのかい?」

カート「君が喋ったのか 名前は?」

「オイラは ブラツキ  オイラが見えて、話しても驚かないんだ」

カート「世の中 何があったっておかしくないよ
    僕は カート よろしくね!」

ブラツキ「今の時代には珍しい坊やだ」

二人の出逢いはこんなはじまりだった。
それから、二人はどんな時も一緒に時を刻んだ。

カート は、今まで誰も聞いてくれなかった疑問について、
ブラツキ と話すのが楽しくてたまらなかった。

どうして、ジャンプしてもまた地面にくっつくんだろう?
どうして、空気はタダなんだろう?
どうして、忘れてしまうことがあるんだろう?

どうして、みんなには ブラツキ が見えないんだろう?

ブラツキ「見えないんじゃない 見ようとしていないんだ
     そもそも、問題や、自分の可能性すら見ようとして
ない」

二人は、たくさんの本を同じ机で読み、次から次へと湧いてくる カート の疑問への答えを、夢中になって探し続けた。

そんなある日、
いつも本を借りる丘の上の図書館で カート は本を探していた。

ブラツキ「そういえば、最近質問が少なくなったんじゃないか?」

たくさんの知識を得た カート は、湧き上がってくる疑問の数が自然と減ってきていた。

ブラツキ「新しいことを色々やらないと、
     疑問も好奇心もなくなっちまうぜ」

カート「うーん...... 自分は何がやりたいんだろう」

ブラツキ「やりたいことは 見つけるもんじゃないさ 見つかるもんだ

カート「ブラツキは、何か夢とか、やりたいことってあるの?」

ブラツキ「映画館だね 映画館を作りたい
     たくさんの人をワクワクさせて、あり得ないことを、
     信じることが当たり前になる そんな映画館を作りたいんだ」

カート「それ、すごく素敵だね!
    そしたら、みんなに ブラツキ が見えるようになるね!」

ブラツキ の夢は、ただ、友達が欲しかっただけだった。
でも、カート と過ごすうちに、カート のような人間がもっと増えたらいいなと夢が膨らんでいた。

二人はさっそく、どんな映画館にするか話し合った。

入り口や建物の周辺にはたくさんの植物で自然豊かに
内部は植物園のように、建物内にも様々な植物が生い茂っている
水槽も沢山あって色んな魚が泳いでいる
売店はロッジのような作りで、暖かい光で包まれている

各スクリーンへの入り口には、物語の入り口として、
それぞれの大木に扉がついていて、その扉の奥に入っていくイメージ

スクリーンは、空に飛び立つような形で客席が上がり、
物語の世界へ観客を誘う

カート「ブラツキ は自然が本当に好きだねー 
    素敵な映画館になりそうだ」

ブラツキ「今も昔も、世界は自然を手段として『文明の世界』を
     繁栄させてきたんだ 手段ではなく、調和が大事なんだよ」
      

二人の会話は、湧き上がる疑問への探求から、
二人の夢の実現に向けた話になっていった。

そんなある日の夜、
いきなり、目をキラキラさせた人たちが カート の家におしかけてきた。

「ひとりごとが多い坊やがこの家に居ると聞いたんだが その坊やに会わせてほしい」

カート は机で映画館のスケッチを夢中になって描いていた。

カート「ブラツキ?どうしたの」

ブラツキ「やっかいなことになった 面倒な連中が来たようだ
     窓から外に出よう」

カート「ここは3階だよ? 玄関から出よう」

ブラツキ「いつから 常識の枠に囚われるようになったんだい?
     窓から外に出るぞ! 
     飛べないと思っているから飛べないんだ」

窓を思いっきり開けて、二人は外へ飛び出た。
外は満月で 美しい夜空が広がっていた。

カート は、飛ぶというよりも、別の重力に吸い寄せられるように
宙に浮かんでいた。

カート「うわ 飛べたよ 凄い!!」

ブラツキ「このまま 丘の上の図書館まで行こう 
     そこで説明する」

「ねえ、見て! あの男の子 飛んでる!!」
「何を言ってるの それよりこの荷物持つの手伝って」

カート は夜行飛行を楽しんでいるが、ブラツキ の表情は
なぜか険しかった。

illustrations by しまざきジョゼさん

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