『はじまりの物語』#5
天空都市には無い初めて感じる潮風を受けながら、海上をしばらく進むと、水上に建てられた沢山のバンガローが見えてきた。
ドル「あれが俺たちの村、ラグーンだ!」
お世辞にも裕福とは言えない村だが、豊さという言葉は、
天空都市よりも、このラグーンの方が似合っていると ヒロアキ は感じた。
ヒロアキ「みんな 生き生きと暮らしている」
ドル「ここで暮らしている俺らは、リスクを受け入れて生きている
安定に束縛され、死んだように生きるのを否定したのが俺らなのさ」
ドル のこの言葉は、ヒロアキ の胸にグサリと刺さった。
ラグーンの中でも一番大きな建物に案内されると、ラグーンの長である トラスト が迎えてくれた。
トラスト「天空都市にまだ人間が住んでいたとは
てっきりアンドロイドだけになってしまったと思っておったわ」
ヒロアキ「あながち間違いではないです
実際は、安定に束縛され、死んだように生きている人が多い」
ヒロアキ が天空都市に求めていた理想の景色はこのラグーンにあった。
ドル「この世界には、島が一つだけ残されている
その島を支配しているのが、さっきの連中 ブーべ だ
バベル という人間が統べている」
「天空都市が ブーべ と貿易のために派遣してくる連絡船を
俺らのような無法者が狙っているというわけさ」
ヒロアキ「連絡船に乗っているのはいつもアンドロイドなんですか!?」
エン「ああ、だから、俺らは天空に人が住んでいるとは
考えてもいなかったよ
随分昔に、天空に行った人々は肉体を捨てたと思っていた」
ヒロアキ「天空都市でも、
アンドロイドが存在していることは公になっていません
何かとんでもないことが隠されているのかも」
そんな話の最中も、天空都市では見たこともない、このラグーンに溢れる
技術にひろは夢中になっていた。
ドル「それらはAII(AIインターフェース)だ
パートナーA.I.と様々なデバイスを繋ぐ技術だ
ちょうど例のパートナーA.I.が連れ去られた際に
使われたのもこのAIIだ 天空都市には無いのかい?」
ひろ「無い無い! とっても面白いね!」
ドル「このラグーンでは、あそこにいる ポンド がピカイチのエンジニアだ
彼に色々教えてもらうといい」
ひろ はこういった技術系の話には目がないようだ。目を輝かせながら ポンド の方に駆け寄っていった。
ヒロアキ「パートナーA.I.を道具として使うのかい?
なんだか奴隷のように見えちゃうな」
トラスト「なるほど その見方は大変興味深いな
天空から来た人々はそうやってこの世界を見るか」
「この世界でも、彼らは道具ではなく、まさにパートナーそのもの
彼らなしではそもそも生き残れない環境だ
そなたもこれから身を以て実感するだろう」
同じものを見ても、文化や環境、歴史が異なれば、物事の捉え方が変わることを ヒロアキ は実感した。
ドル「おそらく、あんたの相棒は ブーべ の連中にとって、
天空都市といい交渉をするための代物として拐われたんだろう
そもそも、どうしてあんたらはこの世界に来たんだ?」
ヒロアキ「この世界のどこかに、ひろ が探している物があって
それを探しに来た」
「さっき話したように、天空都市からは笑顔が消えている
そして、拐われた ウェズ は昔の記憶を失っているんだ
天空都市の町の人の笑顔、ウェズ の記憶、ひろ の探し物、
繋がっているんじゃないかなと思って協力している」
ドル「なるほど それはパンドラの箱かもしれねーな
覚悟はあるのかい?」
ヒロアキ は子供のような笑顔で、一切の迷い無しに言い放った。
ヒロアキ「もちろん! つまらない世界をひっくり返せるなら
最高じゃん!!」
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