『はじまりの物語』#13

目を開けると、そこには想像も出来なかった世界が広がっていた。

まさに別世界。
まるで、違う星の空中を飛んでいるかのような光景だ。
生まれて初めてみる色とりどりの生き物が、それぞれの暮らしを営んでいる。

歴史好きな ひろ は、データなどで魚やクジラなど、海の生物は見たことはあったが、実際に自分の目の前に広がる海の中の壮大な世界観に、ただただ圧倒されていた。

ひろ「これが海の中 まるで別の星みたい」

ウェズ と ウェジー もその光景に言葉を失っている。

どんどんと下に潜っていくにつれ、光がどんどん届かなくなってきた。

ウェジー はライトを点灯し、周囲をレーダーで確かめながら潜水を続ける。

ひろ「海の底は、ずっと夜なのね」

暗闇を照らす光の先に、徐々に、複数の建物のようなものが視界に入ってきた。

かつては多くの人々が、それぞれの人生を謳歌したであろうこの場所で、
それぞれの建物、そこに残されている全てから、当時の人たちの記憶や魂の気配を感じる。

ウェジー「見えてきたわ あの施設ね」

ボロボロになった廃墟にも関わらず、ウェズ は一目見て、記憶が戻ったわけではないが、心の底から感情が溢れていた。

ウェズ「ここに、僕の記憶を取り戻す何かがある」

ウェジー は施設の近くまで来ると、潜水を停止し、
機体が流されないよう安定させた。

ひろ「ウェズ、まずは様子を見てきて!
   何があっても、ヒロアキ との約束を忘れないでね!」

ウェズ「わかってる!ひろ もね!」

そういうと、ウェズ は施設に向かっていった。

ウェジー は、ウェズ が動揺していることを察して、
ひろ には聞こえないように回線で会話をした。

ウェズ、大丈夫 
何があっても、今のあなたの意志、Willが消えるわけではないわ

ウェズ は ウェジー にお礼のサインを送り、施設に向かった。

記憶はまだ戻らないが、初めてではないということを体が覚えている。
地下の研究室に向かう途中、施設内のあちこちから色々な人の想い、記憶が
ウェズ に語りかけてくる。

ここだ

ウェズ「ひろ 今研究室の前に辿り着いたよ 
    これから中に入って状況を確認するね」

ひろ「わかった! 気をつけて!!」

研究室までは一切迷わずに辿り着いた。
ウェジー がくれた言葉を胸に、ウェズ はゆっくりと中に進んだ。

大丈夫 何があっても、今の僕も僕自身なんだ

ウェズ が中に入ると、今まで以上に強い何かが ウェズ に訴えてくる。

?「キミは ウェズ だ! 
  キミには沢山の希望を詰め込んだんだ
  明日が、未来が、ワクワクする素敵な日になるようにって」

そうだ、僕は、ここで生まれたんだ

ブーべ で見た、記憶が再び蘇る。
それでも、どうしても、語りかけてくる男性の顔にはモヤがかかったままだった。

ひろ「ウェズ? 大丈夫?? 中の様子は?」

ひろ からの通信で ウェズ は我に返った。

ウェズ「室内は、真空状態になっているみたいだ
    おかげで、多少は劣化が遅れているみたい
    というよりも、まるでこの室内自体が
    保管庫として設計されていたみたいだ
    時の流れが止まっているみたいだ」

ひろ「完全な真空はこの世界では不可能だとしても、
   限りなく保存状態がいい状況だったってことね」

  「まるで、その部屋自体が
   誰かに見つけてもらうのを待っていたようね」

  「どのあたりに潜水艇を付ければ良さそう?」

ウェズ「今計算しているから、ちょっと待ってね」

ウェズ が計算をしている際、ふと視界に入った棚に、
多くの本らしきものがあった。

あそこに、ひろ が探している絵本があるかもしれない

近づいて本棚を見渡すと、ウェズ の視線を釘づけにするものがそこにはあった。

『ウェズとの思い出』

そう背表紙に書かれた、アナログ写真が収められているであろうアルバムがそこにあった。

ウェズ は手を伸ばすも、実体がないから触れることすら出来ない。

その時だった。とてつもない大きな音が聞こえたかと思うと、
施設が大きく揺れはじめた。


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