『ガルと思い出の魔法』#2

季節の変わり目を感じると、ガル は半年後の季節のことを考えることが習慣になった。

ポップなもの、カラフルなもので溢れるデザインスタジオだが、今の時期は少しばかりピリピリした空気が建物内に溢れている。

新しいコレクション発表前のシーズンだ。

次の春夏は、どんなコレクションで世界をワクワクさせようか。

ジャクー はこれを長い期間、独りで向き合ってきたのだから頭が上がらないと、 ガル はコレクション発表の時期が来るたびに感じていた。

そんなある日、転機は突然訪れた。

ジャクー と ガルは、必要な素材の調達に買い出しに出ていた。

行く先々で、期待の声をたくさん掛けられた。

「次のコレクションもとても楽しみにしています!」

「今から発表日のことを毎日考えています!」

ガル には、沢山の嬉しい言葉に聞こえたが、ジャクー の表情はとても曇っていた。

ガル 「どうかしましたか? みんな、楽しみにしていますよ?」

ジャクー は、思い詰めたような声で答えた。

ジャクー「私達が今創っているものは、
       来年には不要になるものなのだろうか?」

ガル は考えたことも無かったことを唐突に言われ、思わず沈黙してしまった。

ジャクー「誰ひとり、私達が昨年魂を込めて創った服を着ていない。
     私が目指すのは、長い間、日々の生活に寄り添い、
     日々に彩を添える服だ」

ジャクー はその日以来、すっかり塞ぎ込んでしまった。

作業は急遽ストップしてしまったが、コレクションの発表日は待ってはくれない。

ガル は、途方に暮れながらも、ルーラ母さん から貰ったハンカチを見て、
あの日、自らの夢に向かって踏み出した1日を思い出した。 

目の前にあるハンカチを見て、ガル は独り、コレクションの発表日に向けて動き出した。

そう、あの日自分が憧れていた魔法は、確かに存在していたのだ。


発表日当日、塞ぎ込んだ ジャクーの部屋に、ドアの隙間から招待状を差し込んだ。

ガル 「ジャクーさん ガルです!今日、あなたが今まで創ってきた魔法、
   そして、二人で創ってきた魔法に、新たな魔法をかけてきます! 」

  「新たな魔法への挑戦、ぜひ、見に来てください!」

ガル の元気な声は、かつて最初にこの扉を叩いた時とは異なる、自信を纏った素敵な声だった。


会場には、多くのファンや関係者が押し寄せていた。
ジャクー が塞ぎ込んでしまったことは既に広く知られており、今回は、
弟子の ガル による初めてのコレクションになると噂が飛び交っていた。

期待と不安が入り混じり、会場の熱気は例年以上だ。

ガル は、ジャクー がまだ会場に来ていないことを心配していた。

どうしても、ジャクー にこそ、この魔法を届けたいと強く願っていた。

ショーが開始する合図が会場に鳴り響く。

合図とともに、ガル がセレクトした懐かしい音楽が鳴り響く。
そう、ジャクー が一番最初にショーを開催した時に使った音楽だ。

ガル は会場の雰囲気をチェックしようと、舞台袖からチラリと会場を覗き込んだ。

そこには、とてつもない熱気と、何よりも、最前列で涙を流している ジャクー が視界に飛び込んできて、 ガル の頬にも、涙がすっと流れ落ちた。

ジャクー をはじめ、みんなの前で披露されたのは、歴代のコレクションの生地を再利用し、新たに生命を吹き込まれたコレクションだ。

ガル はまさに、今までの魔法に、新たに魔法をかけて、とっても素敵な魔法を届けたのだった。

ガル のコレクションになるのでは?という噂は吹き飛び、
ショーの素晴らしさは、このように報道された。

まさに、師弟二人で創り上げた新たな魔法のコレクション
この魔法は、時を超え、期待を遥かに超えるもの


それから、ジャクー のデザインスタジオでは新たな事業も始まった。

着れなくなったり、着なくなった思い出が詰まった大切な服をお預かりし、
新たなモノとして「再生」する事業だ。

特に人気が高いのは、コレクションの目玉になった蝶ネクタイだ。

世代も、性別も、種族も気にせず、いつでも思い出を新たな形で纏うことができるのが人気の秘密。

今では、渡り鳥のおかげで、評判はあちこちに拡がり、今まで以上に沢山の依頼が来るようになった。


もちろん、この活躍は ルーラ母さん の耳にも届いていた。
ガル の活躍は、 ルーラ母さんはもちろんのこと、町のみんな全員で喜んでいた。

ルーラ母さん は、とっても嬉しかったが、たまには顔を見せに帰ってきて欲しいなとそっと心の底で思っていた。

季節はまた巡り、ある日、ルーラ母さん の元に届け物が届いた。

中には手紙と、見覚えのある柄で作られた蝶ネクタイが入っていた。

手紙には、懐かしい文字でこう書かれていた。

「ボクは いつだってお母さんと一緒だよ!」



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