『ライとシーナの雷の約束』#1

空に浮かぶ大きな大きな入道雲。その中には、大きな町があり、その中心には大きなお城がそびえたっている。

天空の城、ボルティナ城だ。

雷獣の王族、ボルティナ家が治めてきたこのボルティナ国では、
下界の悪さを目の当たりにすると、強い雨風と共に、雷を落として懲らしめていた。

昔、下界のあまりの明るさに怒った一族は、
しばらくの間、悪天候でお日様を隠して懲らしめたこともある。

そんなボルティナ国の、雷獣の王族の ライ は、
幼い頃から王族で唯一雷の力を使えない子どもだった。

そのことで、家族や国の民からは、憐れみの目で見られることも少なくなかった。

ライ は雷の力は使えなかったが、ずっと下の世界をみていた ライ だけが、下の世界の言葉を知っていた。

最近の ライの関心ごとは、砂の国サンドラの シーナというネコの女の子。

サンドラのみんなは、雨が嫌だ嫌だと口ばかりの中、シーナ は、これで雨雲を遠ざけることができるんだと、風を操る精霊の力の習得を頑張っていた。

ライ にとって、みんながどうしてあそこまで雨を嫌うのかも不思議だったけど、みんなが口ばかりの中、シーナ はどうしてあそこまで1人で頑張っているのか気になっていた。

ある日、ライ はこっそりボルティナを抜け出し、サンドラに向かった。
どうしても、シーナ と話してみたかったのだ。

ライ は、下の世界をずっと覗いていたとはいえ、ボルティナから外に出るのは初めてのことで、とても緊張していた。

砂の感触、町から漂ってくる美味しそうな匂い、そして、ボルティナと大きく異なる、至る所から聞こえてくるみんなの会話。

初めてのことだらけで胸が高鳴る中、ライ は上からいつも覗いていた シーナ の作業場へと向かった。

到着したものの、ライ は シーナ の作業場の入り口まできて、彼女になんて話しかければいいのかを迷っていた。

シーナ は作業に夢中だ。
そうこう悩んでいると、ライ の目の前には シーナ が立っていた。

シーナ 「あなた、誰? サンドラの住民ではないわね」

ライ は慌てて言葉を探した。

ライ 「僕はライ!旅の途中でこの国に立ち寄っているんだ
   君がすごい夢中になって作業しているもんだから、
   つい気になってしまって」

ライの目は右上を向いている。

シーナ「わたしはシーナ  生まれも育ちもずっとこのサンドラで、
               外の世界には出たことがないわ」

            「今練習しているのは、風を操る力
               これを習得できれば、雨雲を遠ざけることができるから」

ライは、聞きたかったことを聞けると、ここぞとばかりに質問した。

ライ 「どうして、雨雲を遠ざける必要があるんだい?雨だって時には必要でしょ?」

シーナは、曇った表情で ライ の質問に応えた。

シーナ「私たちの種族は、少しの雨でも水分が体の熱を奪ってしまい、
    冷え切ってしまうの 雨に濡れてしまうということは、
    体力がないものにとっては命の危険を伴うことなの」

             「私は、みんなに雨に負けずに頑張ろうって、
                いつも言ってるんだけど、言葉だけじゃ、何も変わらないから、
                私でもできることを、少しでもと思って」

ライは シーナ が話す内容を聞きながら、心がざわざわするのを感じていた。

シーナ「でもね、こうやってみんなの為にやっていても、
   たくさん否定的な言葉を言われて、私だって辛い気持ちにもなるのよ」

  「言葉って、使い方によっては相手を嬉しくさせたり感動させたり出来るけど、使い方を間違えると凶器にもなる、なんだか凄い力を持ったもの」

シーナ は初対面にも関わらず、自分ばかりが話してしまったことに気がつき、とっさに話題を変えようとした。

シーナ「あなたは どこから来たの? あなたの国はどういうところ?」

ライ は答え方を考えながら話はじめた。

ライ 「ずっと上の方にある国で、みんなあまり会話をしないんだ
           そして、自分たちの価値観で物事を判断して、
           相手を懲らしめようとしている」

        「 僕だけが、みんなが出来ることを出来ないんだ
   でも、みんなは力や自分たちの考えを過信しすぎていると思う」

ライ は話しながら、自分がボルティナのことをどう思っているのか、
改めて自分の気持ちが分かった。    

シーナ 「あなたにも色々あるのね いつまでサンドラにいるの?」

ライ 「まだ、しばらくはいるつもりだよ!」

その答えを聞くと、シーナは嬉しそうに言った。

シーナ 「じゃあ、ぜひまた来てちょうだい!
    外の世界について、色々話を聞きたいわ」

ライ は、その言葉を聞いて、とっても嬉しい気持ちになった。

言葉というのは、本当に不思議な力を持っている。

ライ がそう思った矢先、ボルティナが、シーナ達を困らせていること。
そして、シーナ が風を操る力を習得してしまうと、離れ離れになってしまうことを考えると、とても寂しい気持ちも芽生えていた。


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