takashi shindo
『ピョンキチの好奇心』#1

『ピョンキチの好奇心』#1

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波の音が遠くで聞こえる。今宵はとっても静かで時がゆっくりと流れている。
まんまるの星からの明かりがいつもよりも長く部屋を照らしている。
まんまるの星 ルーナ だ。

朝が来なくなったら、先程のこぐまのように混乱するのが普通だろう。
でも、博識の ピョンキチ には少し嬉しい気持ちがあったのだ。

ピョンキチ は部屋の望遠鏡から ルーナ を覗き込み、昔のことを思い出していた。



薄い紫のような神秘的な色の空には、大きな青い惑星がとても大きな存在感でいつもそこにあった。

好奇心がとても強かった ピョンキチ は、空の向こうの惑星に興味津々だった。

あの惑星には、どんな生き物が暮らしているのだろう?

みんな、どんなものを食べているのかな?

どうしてあの星は青いのだろう?

どうしてあの星は回っているのだろう?

幼かった ピョンキチ は、周囲にたくさんの質問をして困らせていた。

この惑星では昔、好奇心が大きな災いをもたらし、食料問題を引き起こしていた。そのため、好奇心を抱くことは悪いこととして、自ずと語り継がれていった。

好奇心旺盛な ピョンキチ はひとりぼっちになりがちだった。
そして、その状況がより ピョンキチ の好奇心を膨らませていったのだった。

そんなある日、ピョンキチ は惑星から光る道のようなものが ルーナ に向かってきているのを目撃した。

ピョンキチ は光が伸びる先を目指して、夢中で光を追いかけた。
あまりに夢中で追いかけるあまり、ピョンキチ は 目の前の崖に気づかなかった。そして、深ーい暗闇に向かって転げ落ちて行く中で、ピョンキチ は意識を失ってしまった。


目が覚めると、目の前にはいつも見ていた薄い紫の空と青い惑星ではなく、
とても眩しく輝く星と、澄み切った青空が広がっていた。

「おやおや、見ない顔だな。 流されてきたのか? 大丈夫かい?」

ピョンキチ は声に気付き、声がした方に顔を向けた。しかし、何を言われたのか全く分からなかった。

ピョンキチ「ピョピョピョン、ピョピョーピョン」

初めてみる耳が長い生き物に驚いた やーぎ先生 は、これまた初めて聞く言語に戸惑った。

やーぎ「困ったのう 意思疎通が難しそうだ  とりあえず、怪我をしているようだし、私の家に来なさい」

言葉では伝わらないと、やーぎ先生 は、身振り手振りで一生懸命伝えた。

ピョンキチ は、言葉こそ分からなかったが、何を伝えてくれているかは、
しっかり伝わっていた。

やーぎ先生 は、この島のお医者さんだ。
そして、医学だけではなく、天体や歴史など様々なことを学んでいた。

手当を受けながらも、ピョンキチ は、目の前に広がる沢山の書物に心を奪われていた。

やーぎ「まずはお互い、会話ができるようにならないとな」

そう言うと、やーぎ先生 は、ピョンキチ に言葉の本を渡した。

新しいこと、知らないことを学ぶことは、ピョンキチ にとって、とっても楽しいことだった。
ピョンキチ は、持ち前の好奇心で、どんどん言葉を覚えていった。

やーぎ「君の名前は?」

ピョンキチ「ピョンキチ!」

ピョンキチ「ワタシハ、シルコトガダイスキ!」

やーぎ先生の家は、ピョンキチ が来て一気に賑やかになった。

青年になった ピョンキチ はある程度言葉を覚えた後、やーぎ先生の家にある沢山の書物を読み漁った。

そして、ピョンキチ はどういうわけか、いつも自分が眺めていた惑星に辿り着いてしまったことに気がついた。

この星に来て、しばらくは青空しか無かったが、ある時から空が暗くなるようになったのだ。そして、空が暗くなると、クリーム色に輝く大きな星が空にあった。書物によると、あの星こそが、故郷の ルーナ だ。
夜が来るようになると、ピョンキチ は、夜が来るのを楽しみにしていた。

それから、ピョンキチ は色々なことを学ぶ毎日を過ごした。

医学に、天文、数学に歴史。書物からの知識はもちろんのこと、ピョンキチ は沢山の質問を やーぎ先生にぶつけた。

嫌な顔一つせず答えてくれる やーぎ先生 は、ピョンキチ にとって、掛け替えのない存在だった。それは、知的好奇心を満たしてくれるからという理由ではなく、別の感情、理由があった。しかし、この感情を表す言葉が ピョンキチ には中々見つからなかった。

ある日、ピョンキチ が歴史の書物を読んでいることに気がついた やーぎ先生 は、ピョンキチ に語りかけた。

やーぎ「今 ピョンキチ が読んでいるのは カラクリ の歴史だね
はじめは好奇心が中心だっただろうに、好奇心を無くして怠惰で効率化を求め始めた 体を機械にして、食べること、眠ることは不要だけど楽しみとして残したらしい」

やーぎ「大切なのは好奇心だ 好奇心や意志がなくなると、心は死んでしまう」


そんな昔を思い出しながら、ピョンキチ は、望遠鏡で故郷の ルーナ を覗いていた。

そう、朝が来ないということは、故郷の ルーナ を少しでも長く見ていられる。ピョンキチ にとっては、大切な時間が増えることだった。


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