『ピョンキチの好奇心』#2

朝が来なくなってからどのくらい経っただろうか。

こぐまの心配をした 心優しい くまと話をしていて、すっかり朝が来なくなった日常に慣れていたことに ピョンキチ は気がついた。

次の日、気分転換に外の空気を吸おうと、ピョンキチ は家を出て海辺に向かった。

海辺に着くと、ひっくり返ってジタバタとしているロボットが目に入った。

ピョンキチ「おやおや、見ない顔だな 流されてきたのか? 大丈夫かい?」

ピョンキチ は ロボットが起き上がるのを手助けした。

ロック「ありがとう!助かった! オイラはロック!
    歴史とロマンが大好きなロボットさ!
    うわー、本当にここはずっと夜なんだね!!」

ロック は目を輝かせながら、ルーナ を見つめて話した。
ピョンキチ も空に目を移すと、夜空の向こうに こぐま を乗せた渡り鳥が飛んでいくのが見えた。

ロック「あの星には、どんな生き物が暮らしているのだろう?

    みんな、どんなものを食べているのかな?

    どうしてあの星は、いつも同じ面を向けているのだろう?」

ピョンキチ は、聞いたことのあるような言葉に反応し、思わず ロック を見つめた。

ピョンキチ 「ロボット なのに、珍しく好奇心を持っているようだね
      まあ、好奇心を持つことは、オススメしないがね」

ロック は ルーナ を見つめながら話した。

ロック「カラクリでは、好奇心は反対されている
    だから抜け出してきたんだ あの星に行ってみたいと思ってね!」

そう話す ロック を、ピョンキチ は 昔の自分を重ねて見ていた。

ピョンキチ「夢があるのは結構だが、この島ではどこで生活を?」

ピョンキチ は、ロック の回答を待たずに続けた。

ピョンキチ 「どうせ勢いでカラクリを出てきたのだろう 
      良かったら、ウチを使いなさい」


こうして、ピョンキチ の家は、ロック が来て一気に賑やかになった。

ロック は、毎日、ピョンキチ でさえ知らないものを作り続けた。

ピョンキチ「いったい毎日、そんなに夢中になって何を作っているんだい?」

ロック は作業を続けながら答えた。

ロック「ロケットを作っているんだ!これが完成すれば、
    あの星にいけるんだよ!」

その言葉を聞いて、ピョンキチ は 何度も何度もあの星に帰ろうと、
あらゆる方法を試した昔の自分を思い出し、少し苦しい気持ちになった。

それから何日も経った後、ロケットはついに完成したようだが、
結果は大失敗。それでも、それからも、毎日、毎日、ロック は実験を繰り返した。

ロック が夢中になってロケットいじりをしている一方で、ピョンキチ は天体観測をしていた。

ある日、ピョンキチ は ロック に諭すように話した。

ピョンキチ「星に行くことに執着せず、星を眺めることも素敵だよ
      それに色々わかる 例えば、この島は移動しているんだ」

ロック はその話を聞いて、朝がこないこの島のことを振り返り、
歴史上の伝説を思い出した。


精霊にまつわる昔話

遥か昔、恋に落ちてはならない、別々の星の天気を司る精霊同士が恋に落ちた。

それによって、お互いの星の天気のバランスは崩れてしまった。
青い惑星の精霊の王は、自分の星の精霊の魂を二つに分断し、
惑星にある二つの島に魂を縛りつけた。

恋に落ちた精霊同士が会えなくなったことで、精霊達は悲しみのあまり、泣いてばかり。お互いの星から晴れの日が無くなってしまった。

それぞれの星の精霊の王は、互いの星の天気のバランスを保つためにも、
繰り返しやってくる僅かな時間だけ、二つの精霊を合わせることに合意した。

青い惑星の精霊は、そのタイミングが来るまでに、善行を行い続け、二つの魂は一つになることを求め、決まった場所を移動し続ける。

一定周期が回ると、二つに別れた魂は一つになり、お互いの星への道が開ける。

そして、二つの星を繋ぐ 光の橋 が現れるのだ。



ピョンキチ はその話を聞き、自らが夢中になって追いかけた光る道のような存在や、自分がこの星に来た直後に、この島に夜が来なくなったことを思い出した。そして、この島には今は朝が来ていない。

ピョンキチ は、自分の知る限りの話を全てロックに打ち明けた。

ピョンキチ の天体の知識と、ロック の歴史の知識が合わさり、
2人は寝ることも忘れて夢中でこの謎解きに取り掛かった。

ピョンキチ「そうか!二つの島は時計の針のように動いていたんだ!」

この島に朝が来なくなってからの過ぎ去った日々を考えると、
数年後には、島と島が重なる。
その時こそが、お互いの星への道が開るタイミングだ。

ロック によると、光る虫 が空いっぱいに群がる伝説がこの島には言い伝えられている。それこそが、光の橋の正体なのだろう。

この仮説を立てたピョンキチ と ロック は、その日に備えて、
出発の支度を整え始めた。

こんなに夢中になったのはいつ以来だろう。
ピョンキチ は、眠りにつく ロック を見つめながら、久しぶりに感じた
生きている という実感を噛み締めていた。

それと同時に、いつの間にか忘れてしまっていた、やーぎ先生 が ピョンキチに教えてくれた大切なことを思い出していた。

どうして、青い惑星は回っているのだろう?
どうして ルーナ は、いつも同じ面を向けているのだろう?

これはきっと、この青い惑星の精霊が、会えない間もなお、相手を惹きつけようとする力と、会うことが許された僅かな時間を待ち続ける ルーナの精霊の気持ちがこうさせていたのだろう。

好奇心は、生きていく毎日に、心の豊かさを与えてくれる。

ロック はきっと、ルーナ のみんなの考え方も変えてくれるに違いない。




そして、その日、その時がやってきた。





それからまた、それぞれの星に沢山の時が流れていった。

いつもとびっきりの笑顔で、不機嫌を知らないお日様の下、毎日、毎日、寄せては返す波の音が心地よく響く島、アウバリ島。

今日もこの島では、プラネタリウムが大人気。島のみんなに、ピョンキチ は天体に関してのお話を披露して、沢山の好奇心を育てていた。

また、ロック に会える日をとっても楽しみにして。




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