『はじまりの物語』#3

「なぜ、逃げたんだ?」

予想通り、翌日呼び出しをくらった。

ウェズ「まあ、想定よりは早く終わった方じゃない?
    カメラやドローンがあれだけ監視していればね、
    見つからない訳ないよ」

ヒロアキ「何かを守るためには、
     ルールを破らなければならない時だってある


ウェズ「スピード違反をそんなに格好つけて正当化しないでよね
    だいたい、警察官なんだから逃げる必要なかったんだよ」

ヒロアキ「なあウェズ、ひろ 達が話していたこと気にならないか?」

ウェズ は敢えてその話を避けていた。ヒロアキ が危険なことに足を突っ込もうとしていることを心配しているからだ。

ウェズ「探しものは自分で探せるでしょ パートナーA.I.もいるんだし」

ヒロアキ「俺は、人を笑顔にするのが好きなんだ
     だから、昔は芸人を目指していた」

ウェズ は ヒロアキ と一緒に過ごしてきたが、ヒロアキ の本音を初めて聞いた気がした。

ヒロアキ「全く売れる気配がなくてね 向いてなかったなと思うよ
     でも、人を助けることはできた お節介なこの性格でね」

    「身近な人を助けて、俺でも人を笑顔にできる 
     そう思ってこの仕事に就いたんだ」

    「あいつらは 町の人が笑顔になっていないって言ったんだ
     その通りだと思う だから俺はこの仕事をしている」

ヒロアキ が時折見せる、パトロールしている時の悲しそうな表情や、
人を助けることにこだわる理由が ウェズ にもやっと分かった。

ヒロアキ「町の人の笑顔、君の記憶、あいつらの探し物、
     繋がっているんじゃないかなと思って」

ウェズ は ヒロアキ の本気を受け止め、しっかりと向き合った。

ウェズ「確かに、それらは繋がっているのかもしれない
    でも、危険な香りしかしない それでも踏み込んでみる?」

ヒロアキ は子供のような笑顔で応えた。

ヒロアキ「最高じゃん!!

待ち合わせに向かう ヒロアキ は布を纏った。
ウェズ も着せ替えをして変装している。

ひろ 「待ち合わせの場所には、身元がバレないように変装してきて
   ちょうど、てるてる坊主くんのように布を全身に纏うといいかもね」

待ち合わせの時間から10分過ぎたあたりで、
ひろ がエアスクーターで現れた。笑いを堪えているのがマスク越しでも分かった。

ひろ 「ちょっと、本当にその格好で来たの?」

ひろ の笑顔はとっても素敵だった。

ひろ「まあ、ちょうどハロウィンだしいいんじゃないかな」

ヒロアキ「バカにしてるだろ...... で、ここからどこに向かう?」

ひろ「下界」

ヒロアキ はワクワクが止まらなくなった。

ウェズ「下界って、禁止エリアのその先だよね!?」

天空都市の周りは広い雲海で囲まれている。
雲海の外にも、他の天空都市が存在しており、貿易などが行われている。

しかし、貿易目的以外での都市を跨いだ移動は禁止されており、都市から雲海の一定距離を行くと禁止エリアとなっていた。雲海の下は熱線で覆われており、誰も雲海を突破できないようになっている。

下界とは地上のことで、地上には通行許可を持っている町の役員や調査団のみが行くことを許されていた。

下界はかつて人類が捨てた場所であり、天空都市の多くの人にとっては、下界があること自体を忘れている人も珍しくない。

ヒロアキ「雲海の奥の検閲所を突破していくんだな!
       あ、ウェズ は下界にいっても大丈夫なのか?」

ひろ「大丈夫 調べたんだけど、サーバーとの接続は保たれることが
   分かっているわ ただ、こちらからの情報が漏れないためにも
   プロテクトをかける必要があるわね 
   出発は警備が一番緩くなる夜明け前の時間帯を狙うわ
   ウェジー てるてる坊主君の設定を見てあげて!」

ウェズ「これはいよいよ僕らもお尋ね者だね」

ひろ「さ、覚悟はいい?」

ヒロアキ は、かつてないほどの胸の高鳴りを感じていた。
ずっとこの瞬間を待っていた。そんな風に、その表情からは読み取れる。

安心や安全で満たされているけれど、
驚きや感動が消えてしまったこの町での日常。

死んだように生きるな 好奇心を忘れるな 
 決してこの日常に飼い慣らされるな
 いつか、この平凡な日常が変わる日がきっと来る


遠い昔に父親から聞いたこの言葉を、ヒロアキ は思い出していた。

1台のエアスクーターが、猛スピードで闇夜の雲海を駆けていく。

それはまるで、誰かの願いを載せた流れ星のようだった。


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