『こぐまおのMorning』#1
朝は来なかった。
時計の針は、朝の8時を指している。
天気が悪いわけでもなく、時計が壊れたわけでもない。
朝が来なかったのだ。
こぐまお は、急いで隣で寝ている くまお を起こした。
こぐまお「大変だよ!お日様が来ていないんだ!」
くまお は、また こぐまお のイタズラだと思い、相手にせず、眠りを満喫している。
こぐまお は、お日様を探しに出かけた。
暗い中を歩き進めると、フクロー がバテているのを見つけた。
フクロー「朝がいつまでも来なくて、仕事が終わらないんだ......今何時?」
こぐまお「もう午前9時過ぎだよ お日様が来ないんだ」
フクロー「なんだって! じゃあ、もういつもは仕事が終わっている時間じゃないか......『朝まで働く』という決まりごとは、どうすればいいのか......」
こぐまお「ボクが、お日様を探してくる!」
こぐまお は列車に乗って、このアウバリ島で一番物知りの ピョンキチさん に会いに行こうと考えた。
しかし、いくら待っても列車は来ない。
そうか......お日様が来ないからみんな働かないんだ
こぐまお は暗い道を一生懸命、小さな歩幅で歩いた。
このままお日様が来なくなったらどうなっちゃうんだろう
大好きな波乗りが出来なくなっちゃう
こぐまお は急に悲しくなった。
こぐまお「ピョンキチさん、お日様が来ないんです!」
ピョンキチ「朝が来るのはあたりまえじゃ無い
朝が来なくなることも、またあり得ることだ」
「そもそも、昔は夜が来なかったのだから」
こぐまお「お日様は、朝は、どうやったら来るんですか?」
ピョンキチ「誰にも分からない
朝が来ないことを受け入れて我々が変わるしかない」
朝が来ることは、あたりまえじゃ無かった。
お日様が、朝が来ないなんて、こぐまお は、考えたことも無かった。
もちろん、こぐまお 以外のみんなも、考えたことも無かった。
あたりまえは無いのか 新しいあたりまえを受け入れないと
こぐまお はうちに戻り、くまお を改めて起こした。
くまお「朝が来ないなんて......大変なことになった」
こぐまお「お日様が来なくても、1日は始まったんだよ
いつも通り、活動をしないと」
くまお「いつまでも暗いと目が覚めないな
こぐまお はやけに切り替えが早いね」
こぐまお「どうにもならないことを心配するより、今を受け入れて、
今を楽しみたいんだ
もちろん、寂しい気持ちもあるけれどさ」
それから くまお と こぐまお は、このアウバリ島が明るくなるようにと、Cafe Morningを開店することにした。
Cafe Morningは、みんなの毎日を明るくした。
看板商品は、お日様プレート。
くまお が焼く ふわふわのパンケーキと、
こぐまお が小さな手で焼くお日様の形の目玉焼き、
そして、セットでついてくる Morning coffee が人気の秘密。
フクロー「いやーやっぱりこれを飲むと、1日が終わったと思うね!」
その他の客「いやいや、これから1日が始まるんだろう」
こぐまお「それぞれに、それぞれのあたりまえがあるんだよね
はい、今日は特別に目玉焼きは二つでーす!」
Cafe Morningは、みんなの毎日に寄り添っていた。
いつのまにか、こぐまお は、みんなの毎日に寄り添うことが楽しみになっていた。
ただ、こぐまお は大好きな波乗りのことを忘れたことは、1日も無かった。
朝が来なくなった世界では、暗い海での波乗りはとっても危険。
今では、波乗りをするものは誰もいない。
くまお は こぐまお に、どうしても波乗りができる日常をプレゼントしたかった。
くまお はお店を閉めると、仲間と飲み会があると嘘をつき、
物知りピョンキチさん に会いに向かった。
くまお「ピョンキチさん、どうやったら海を明るく出来ますか?」
ピョンキチ「ライトアップでも限界があるから、難しいな......
そういえば、こないだこの島にやってきた コモリーさん が、
前にいた島で夜が来なくなったといっとったわ
フクローの店にいると思うから、一度話を聞いてみるといい」
くまお は早速、コモリーさん に話を聞きにいった。
コモリー「突然、夜が来なくなったんだよ
だから、朝が来なくなった島があると聞いて、
はるばる引っ越してきたんだ」
くまお 「夜が来なくなった島があるんですね 場所はどこですか?」
コモリー「この島のずっと南の方 キプルータという島さ
もの凄く遠いよ」
くまお は こぐまお と一緒にいる時間がとても大切だった。
それでも、くまお は こぐまお に、また波乗りをさせてあげたいと心から願った。
次の日
くまお は こぐまお よりも早起きして、 一人で開店準備を終わらせた。
こぐまお 「どうしたの?随分早く起きたんじゃない?」
くまお「こぐまお がいなくても、お店は大丈夫だろ?」
開店後、くまお は こぐまお の分も先んじて仕事をこなした。
こぐまお 「くまお、どうしたんだよ ボクが何かした?」
くまお「朝が見つかったんだ この島のずっと南の方に
また波乗りできるんだよ いっておいで こぐまお」
こぐまお は、また波乗りができると聞いて、すぐに波乗りをしていた昔の日常を頭に思い描いた。
それと同時に、今のあたりまえが崩れることを悟った。
こぐまお「くまお も一緒に行こうよ」
くまお「こぐまお、このCafe Morningは、もう僕たちだけのものでは
ないんだ みんなの毎日を照らしている
僕はここでみんなを照らす役割があるんだよ」
くまお「大丈夫、新しいあたりまえ こぐまお は受け入れられるさ」
こぐまお は 、くまお がなぜ、今日一人でお店を回していたのか
ようやく理解できた。
くまお と離れるのは、とても寂しかった。
それでも、くまお の気持ちを考えると、こぐまお は行くべきだと悟った。
こぐまお「くまお、ありがとう 寂しいけど、すごく嬉しい
必ず、帰ってくるから
お日様のお土産持って帰ってくるから」
こぐまお は、 くまお に深くお辞儀をした後、小さなリュックに荷物をまとめ、大切なサーフボードを携えて、小さな足で歩きはじめた。
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