『はじまりの物語』#9

沈む夕日に向かって、一同はそれぞれの想いを抱え冒険に向かう。

ここから目的地までは半日ほどかかる。ちょうど夜明け頃に到着する見込みだ。向かう道中、ドル達はこの下界についての歴史について教えてくれた。

遥か昔、この地上は気候変動問題によって、文明が滅びるか否かの瀬戸際にたたされていた。

これは、人間が便利さを追求した結果であり、その便利さを手放すことを拒否したことによりもたらされた人災であった。

その当時はまだ、「意志」を持たないアシスタントAIと呼ばれるAIが主流だった。「AIはアシスタント」という価値観に飲み込まれた世界。

「意志」を持つパートナーA.I.を世に出したDearliyという組織は、この世の中の価値観をひっくり返すことはできなかったらしい。

その後、Dearliy創業者の孫が改めてリスタートさせたDearliyが、今のパートナーA.I.が主流となったこの世界のきっかけを作ったと歴史上記録されている。

その時代には、すでに写真や動画などをデータとして保存できる技術があったはずだが、名前以外は、当時の関係者の顔や姿が分かるデータは何も残っていない。

そして、今では多くの人が当たり前のように使っているこの言語も、遥か昔ではDearliyが創設された一つの島国だけで使われている言語だったそうだ。
言語が複数使われていた時代には、翻訳システムを使っていたと言われており、さらに時代を遡ると、翻訳家という職が存在したそうだ。


ウェズ「アシスタントAI......気候変動問題...?」

ウェズ はその言葉の響きを誰よりも知っていた。

ヒロアキ「ウェズ がDearliyの当時の研究室の場所を知っていたという
     ことは、ウェズ はその時代からやって来たってことなのか!?」

ひろ「説明はつかないけど、間違いないと思う」

        「 天空都市であなた達を見かけた時、てるてる坊主君に
   ハッキングをしたの その時は、研究室の場所の記憶が
   保存されていることまでしか潜れなかったけど
   その記憶が保存されていたということは、Dearliyの創業メンバーに
   大きく関わっていたはず 更に、同じ時代の記憶ファイルが2重で
   保存されているのも見つけたわ」
         
     「歴史上は"てるてる坊主”モチーフは英雄の証として、
   永久欠番とされている」

  「でも、"てるてる坊主”モチーフが永久欠番になった理由は
   それだけじゃないと私は考えている」

ウェズ「なんども見られていると感じていたのは、ひろ だったのかな?」

ひろ「わたしは一度だけよ? すぐにその後追われてしまって
   後はあなた達も知っているとおり」

ヒロアキ「とにもかくにも、ここからは憶測よりも、事実を確認すること
     探している絵本に辿り着くことが大切ってことだな」

    「天空都市では、その時代から天空都市計画がスタートされ、
     都市が完成すると、人々は皆、天空都市に移住したとなっている
     この下界ではどういう形で歴史が残っているんだ?」

ドル達は、再び歴史の話を続けた。

人類が天空都市に移住する当時、大地に足をつけて生きていきたい人々も多かった。

天空都市に移住する人々からすれば、大地もいずれ海に全て飲み込まれ、
自然災害が多発する世界に残る考えは理解できなかったのだろう。

そして、残る人達もまた、生まれ育った大地を捨ててまで、
安定に束縛され、死んだように生きるのを否定したのだった。

地上に残った人々は、どんどん無くなっていく大地を奪い合い、
争いが絶えない日々を繰り返した。

そして、その戦いを制した一族、ルーラ家が、現状残る最後の島 ブーべ を支配している。バベル は、ルーラ家の末裔だ。

ルーラ家は、常に勝者となる教え、行動を貫いてきた。
誰にも心を許さず、常に心を鬼にして圧倒的支配を実現させる。

それこそが、ルーラ家を信じ、従う多くの人々を守り、繁栄させることができると信じてきたのだった。


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