『ライとシーナの雷の約束』#2

いつも呪文だけが響いていた シーナ の作業場は、ライ が遊びに来るようになってからとても賑やかになっていた。

言葉というのは、本当に不思議な力を持っている。

相手と語り合うことは、こんなに楽しいことなんだ。
ライ は、ボルティナのみんなともしっかり話したいなと感じていた。

そんなある日、サンドラに大きな衝撃が走った。

カラクリにて、天気を操る技術、雲をかき消す装置が発明されたのだ。
砂の国サンドラの王は、早速その技術を採用することに。

もちろん、衝撃が走ったのはサンドラだけではない。
このニュースによって、ボルティナ国にもまた大きな衝撃が走っていた。
そして、大きな怒りの感情が、国中を包んでいた。
その理由は、またしても、我々の居場所を奪うのかという怒りが込められていた。


ボルティナの祖先は、昔はみんな会話も絶えず、穏やかに暮らしていた。
しかし、ある時突然、理不尽に住処を奪われ、怒りで言葉を失い、雲へと駆け上がっていったのだった。その時、雷を操る力が備わったのだ。


このニュースを聞いた ライ は、ボルティナのみんなのことがとても心配になった。
そして同時に、怒りによって、このサンドラはもちろんのこと、カラクリや他の国や町にも、大きな攻撃をしかけることをとても心配した。

ライ は、シーナ に自分の正体、ボルティナの国についてを洗いざらい説明した。

シーナ は ライ の話を最後まで聞かず、涙を流して作業場を飛び出していった。

ライ「言葉は凶器にもなる......」

ライ はこれから自分に何ができるのか。何からすべきなのか。
頭がはち切れんばかりに考えた。

まずは 家族としっかり話さなくては。
ライ はボルティナ城に急いで向かった。

怒りに包まれたボルティナは、そこら中からピリピリ、ビリビリとした空気を感じる。

ライ は、家族に向かって沢山言葉を投げかけた。

今までの シーナ との関係
なぜ、サンドラのみんなが困っているのか
言葉の力について

しかし、ライ の家族には、ライ が話していることを理解できなかった。


言葉で伝えることは、とっても大切なんだ
恐怖ではない 言葉で世界を変えるんだ


ライ は、家族がダメであれば、サンドラの国王と会話しようとサンドラのお城へ向かった。

サンドラにも、ピリピリ、ビリビリとした空気で溢れていた。
怒りで溢れたボルティナから送り込まれる大量の雨雲を見て、ピリピリしないのも無理がある。

彼らにとっては、命に関わる問題だ。
いや、もちろん、住処を奪われるとなれば、ボルティナにとっても同じことだ。

ライ は、板挟みになった心を落ち着かせようと、大きく深呼吸をした。

どんな理由があったって、恐怖や力で相手の行動を変えさせるのは間違っている。僕が言葉で世界を変えるんだ。

ライ はお城の庭に着地したが、すぐさま不審者として囚われてしまった。

尋問される最中、ライ は偽りなく、ボルティナのこと、自分のことを説明し、ボルティナに敵意がない事、そして、自分たちも脅かされていることを恐れているだけだと必死に説明した。

しかし、ライ の言葉は相手に届かず、虚しく空に消えていった。
言葉の力はいったいどこにいってしまったのだろう。

囚われの身となった ライ は、自らの言葉で傷つけてしまった シーナ のことを思い出していた。

その時、牢屋の上の方にある外の光を取り込む隙間から、聞いたことのある声が聞こえてきた。

「ライ いるんでしょ?」
「危ないから、端っこに移動して!」

次の瞬間、大きな風圧で城壁が崩れ、風がたくさん吹き込んできた。

ライ 「シーナ!」

シーナ は ライを抱えると、風とともにサンドラ城を立ち去った。

ライ 「シーナ、今まで黙っていてごめん
   最初から本当のことを話すべきだった」

シーナ は笑いながら答えた。

シーナ「今、すごい顔してるよ ライ しっかりしてよね!」

   「今聞きたいのは、謝罪よりも、お礼の言葉!」  

シーナ と ライ はサンドラから少し離れた場所に着地した。

ライ 「風の力、遂に習得したんだね!」

シーナ はライ をまっすぐ見て話した。

シーナ 「私、間違ってた 
    相手の事情も知らずに、私たちの都合で物事を見ていたわ」

   「残念ながら、この力では解決できない」

ライ は曇った表情で話した。

ライ「残念ながら、言葉の力も伝わらなかった」
  「お手上げだよ」

シーナ「しっかりしてよね! ライ!」
   「私が、どうしてこの風の力の習得を頑張り続けたと思う?」
   「言葉よりも強い力、教えてあげる!」

シーナはそういうと、落ちていた枝で、早速何ができそうかを地面に描き始めた。

シーナ「まずは、雷や雨がきても大丈夫なようにしなくちゃね」

ライは、他の国で使われている 避雷針や、雨具について シーナ に教えた。

シーナ「何よ、それこそ早くいってよね
      初めからこれを作れば良かったじゃない!」

シーナは笑顔で文句を言っている。

ライ「あとは、雲を消す装置をなんとかしなくちゃ」

シーナは枝を振り回しながら考えている。

シーナ「壊しても、また作られてしまう限り意味がないわ
    使う必要がないことを分かってもらうのが解決策ね」

シーナ が言うことはもっともだが、ライ にはどうやってやるのか検討もつかなかった。

シーナ 「言葉よりも強い力 それは、行動よ!」

ライ とシーナ は、避雷針と全員分の雨具を寝る暇も惜しんで作り続けた。

初めは何を作っているのかさえ理解されなかったが、何のためのものなのか。そして、これを作ることがどれだけ大変なことかがみんなに伝わっていくと、砂の国サンドラの住民たちは少しずつ心を動かされていった。

気がつくと、ライ とシーナだけで始めた作業も、今では大勢が参加している。

恐怖ではない。言葉だけでもない。行動で世界を変えるんだ。

この姿を、ボルティナの王族もしっかり見ていた。
そして、恐怖でなくても、相手の心を動かすことができることを、
ライの家族は目の当たりにしたのだった。


ライ が最後の避雷針を取り付けるその時、一瞬の出来事だった。
ものすごい光に包まれ、直後に大きな轟音が鳴り響いた。

次の瞬間、サンドラのみんなの前で、ライ は倒れていた。
雷に打たれてしまったのだ。

どうして!?
自分の子どもを襲ったのか!?

あたりはまた、ピリピリ、ビリビリとした空気で包まれてしまった。

シーナ はみんなをかき分け、 倒れている ライの元に駆け寄った。

そして、息をしていないことを確認すると、堪らず涙が溢れた。

ありがとう。
ライがいてくれてよかった。

もっと普段から言葉にして伝えれば良かった。

ライ「大丈夫 聞こえているよ」

ライは微かな声で反応した。

ライ「水は苦手でしょ?」

そういうと、ライ は シーナ の涙を拭った。

ライからビリビリと電気を感じる。ライは雷の力が宿ってしまったようだ。

ライ「さっきの雷は、ボルティナの仕業じゃない
   本来の天気、雷の精霊のようだ」

ライ は サンドラ のみんなに向けて大きな声で話した。

ライ「自分が傷ついたこと 自分が傷つけたこと これらを忘れないこと
   それが優しさに、強さに繋がるから」

  「僕は、今度はボルティナを変えてきます」

ライ はそういうと、雷鳴を伴い、勢いよく空に向かって駆け上がっていった。

あまりにも一瞬の出来事だったが、その一瞬でも、
シーナ には ライ がシーナ に語りかけた言葉をしっかり聞き取っていた。


約束しよう。

雷鳴が聞こえたら、その時は、傘をさして待っていてほしい。
また、光とともにやってくるからさ。


これは、砂の国に傘が初めて伝わった頃の昔むかしの物語。


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