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盗撮加害者家族の記 05母たちの思い

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母を連れて義実家に行ってからしばらく。現状では私たちに出来ることはないように思われた。というよりも、どうすれば良いのか皆目見当もつかなかったというのが正しい。夫が逮捕されたという事実をどう受け止めれば良いのかわからず、ひとまず明日、警察署に行かなければ状況もよく分からなかった。

義父は義母を含めた四人全員を乗せ、私と母を家まで車で送ってくれた。今の状況で一人でいることが考えられない私は、ひとまず母とともに実家に帰ることにした。

車中で、私の携帯が鳴る。警察署からだ。
「警察からです」
私の一言に、車内全員が耳を済ませたのがわかった。

「夜分遅くにすいません。○○警察署、生活安全課の者です。奥様でよろしかったでしょうか。」
「はい、間違いありません。こちらこそ主人がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

対応する声が否応なく震える。警察官の声が思いの外優しく、それが更に私を強ばらせた。

「今後のことについて再度ご説明をさせて頂きますね。明日まず奥様に署に来ていただきたいのですが、お時間は何時頃がよろしいでしょうか?」
「何時でも大丈夫です。仕事が休みですので。……あの、義両親も一緒に説明を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
「構いませんが……。捜査段階ですので、いらっしゃったとしても通り一辺倒な流れをお話するだけになりますよ?」

本人の様子を聞くこと・会うことなどは出来ないと念押をされる。それでも同行を、と目の合った義父が頷いた。

「大丈夫です。家族で伺います」

そうして明朝8時に警察署へ行くこととなった。


実家前に着いたのは23時を過ぎていた。周囲に人影はほとんどない。母とともに車を降りた私は、義母の座る助手席の窓をノックした。挙げたその顔は呆然としたままで、魂が抜けてしまったようにも見える。それでも義母は窓を下ろしてくれた。

「お義母さん、私とひとつ約束してくれませんか」
私にはどうしても言っておかなければならないことがあった。

「絶対に、変なことは考えないでくださいね」

義母と私の付き合いはそう長くは無い。けれど家での様子を見れば彼女がどんな思いでいるのかは容易に想像がついた。
ふっと義母の目に生気がやどり、じんわりと涙が浮かぶ。何度も小さく頷いてくれた義母に少しほっとした。
「ひとつ、言い忘れたことがあります」
運転席から義父が私に話しかける。助手席に座る妻の憔悴ぶりに反した、しっかりとした口調だった。

「最悪の事態を想像して、あなたはこれからの事を決めてね」

ぐっと、何かが胸に詰まった。
「僕はね、仕事でよく部下に同じことを言うんですよ。考えられる限りの最悪を考えて準備が出来れば、何が起こってもそれより少しはいいはずだから」

「あなたはどうしたいの?」
ソファに座り込んだ私に、母が聞いた。数ヶ月ぶりの実家だ。前に来たのは結婚の挨拶の時だ。まさかこんな形で帰ることになろうとは夢にも思わなかった。
「……わからないよ」

結婚関係を続けるのか、離婚するのか。『彼が出てくるのを待つ』とすぐに答えられない自分が嫌だった。
軽い気持ちで結婚した訳ではない。どんなに辛いことがあっても二人で乗り越えていこう。そう決心して結婚したはずだった。なのに今、私は揺らいでいる。

頭の中で、絶えず義父の言葉が回っていた。
『最悪の事態』とは何だろうか。これ以上の『最悪』とは何なのだろうか。もはや今の自分には考える余力もなく、考えたくもない事柄だった。
黙ってソファに沈み込む私を、無表情の母が見つめる。

女手一つで私を育てた母は優しくも気丈な人で、迷っている時や辛い時は表情が読めなくなる。若い頃はその無表情を無感情と捉え、『何も分かってくれない』と癇癪を起こしたものだ。けれど、大人になった今は違う。

『自分が揺れれば子が揺れる』

そう思った時この母は無表情になり、口をつぐむのだ。そしていつだって私に決めさせてくれる。これがこの人の愛なのだと、今の私は知っている。

「まだ、わからない。決められない。直接話も聞いてないから。......ごめんね」

こんな思いをするために、親にこんな顔をさせるために結婚をしたのではない。
当然のように、布団に入ってもほとんど眠れなかった。

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