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学生も参加!次世代に繋げる!名人の栽培ノウハウをデータ化【株式会社アクト・ノード|事業紹介】

2022年度から継続して、柑橘栽培のDX化に取り組む株式会社アクト・ノード(以下:アクト・ノード)。舞台は、高級温州みかん「真穴みかん」で知られる愛媛県八幡浜市・真穴地区。「名人」と呼ばれるベテラン生産者・黒田さんのマルドリ方式の栽培ノウハウをデータ化し、地域の若手生産者をはじめ、順次愛媛県全体に広げることで愛媛県の柑橘生産の底上げにチャレンジしている。


解決したい課題

真穴エリアでいち早くマルドリ方式(※)を広めた、名人・黒田さん。
黒田さんが名人と呼ばれるのには以下の理由がある。

■黒田さんの栽培の凄いポイント
(1) 毎年の収穫量 (10年連続で反収7~9トン)
(2) 高品質の割合 (90%を超える高級品率)
(3) 収穫時期が早い (1~3週間早く出荷できる=高単価で販売)
(4) 栽培の手間が少ない (多収穫が翌年の木の状態も良くするという好循環)

なんと、毎年黒田さんの圃場では、このエリアの平均の約2倍の収穫量を誇っている。みんなが黒田さんの真似をしたいとは考えているものの、黒田さんのマルドリ方式は「これまでのかんきつ栽培の常識」を覆すような点が多く真似するのが難しい。栽培マニュアルは存在しているものの、生育状況や土壌・環境の差などにより灌水や液肥の投入タイミングの見極めが必要なため、新規就農者にとってはハードルが高いとされていた。

そこで、アクト・ノードの技術により、どの様な環境・育成状態で、液肥をあげ、灌水をしているかなど、黒田さんの栽培状況やノウハウをリアルタイムにデジタルで可視化し共有することで、黒田さんの真似ができる‟黒田クローン”を広めることを目指している。

真穴の「名人」生産者・黒田さん マルドリを使った新たな栽培技術を確立

(※周年マルチ点滴灌水同時施肥法=自動化システムによる灌水施肥をマルチシートの下に敷設した点滴チューブで行うことで、省力と高品質果実生産を実現する方法。)

2022年度行ったこと

2022年度、アクト・ノードは以下の内容で実装を進めた。
 
(1)データ通信環境を整える
⇒1本のアンテナで数km~30kmの範囲をカバーし、センサーデバイスに内蔵された電池により数年~10年連続稼働する「LoRaWAN®(ローラワン)」を設置し、通信インフラを整えた。

(2) 天気や気温など「環境」を記録
⇒葉っぱの水ストレスによる灌水の最適化を前提として、最新のセンサー群を選抜。温度、湿度、土壌水分、土壌温度、日射や、圃場の灌水量などを計測。

(3)AIカメラで「生体」の状況を観測
⇒自動記録とAI判別ができるwebカメラを設置し、葉の萎れや起き上がりなど角度をみながらストレス状態を推定。水分量や水分状態と相関関係があれば、画像から植物のストレス状態が推定できると期待される。

(4)灌水用電磁弁の流量を記録し灌水や液肥投入状況を記録
⇒環境や育成条件により黒田さんが電磁弁の開閉(=灌水)タイミング設定を変更する。灌水や液肥投入の実績はクラウドにリアルタイムに記録される。これまで隣の農場の人でも、黒田さんがいつどのくらい灌水や液肥投入しているか知るのが難しかったが、デジタルで記録することで正確な情報として確認や共有ができる。

(5)「アクト・アップ」にてデータを管理・分析
各センサーやAIカメラから集めたデータは、アクト・ノードが独自で開発した、農業・畜産・水産養殖の生産活動を記録しグループで共有することができるアプリ「アクト・アップ」で一括管理。

(6)デジタルに強い生産者育成のための勉強会を実施
アプリの使い方や、データの見かたをレクチャー。生産者の意見を聞くことももちろんだが、生産者と一緒にデータを見て意見交換することで、データを見るクセをつけること、そして地域全体でのデジタル技術の活用力を上げること、すなわちデジタル人材育成を目的としている。

2023年度の実装内容

ある程度の手ごたえを感じた昨年度に続き、2023年度は以下の内容でさらに使えるデータ蓄積とAIモデルの開発をおこない、内容をブラッシュアップしていく。

(1)データ分析による最適モデル構築 (真穴)
昨年度から現在まで継続して蓄積されている黒田さんの圃場のデータをベースに、環境、灌水、液肥、実施作業を把握。他の圃場と比較し、模倣による改善点を抽出する。‟黒田クローン”を作るために特に重要なデータの項目を洗い出し、最適値の推定方法を検討し、答えを導き出す。

(2)定点カメラとAIモデルの性能向上により葉のストレスレベルを推定(真穴)
アクト・ノードが開発したAIモデルをアクト・アップのメニューに追加することで、葉の角度変化やカーブの比較、色の変化や縦横比など、状態数値でストレスレベルの評価を行うことが可能に。さらに性能を向上させることで、最適灌水量の測定、収量予測の要素情報として検討する。

■アクト・ノードが定める葉のストレスレベルの評価
ストレス1=過剰水分
ストレス4=品質最適状態
ストレス5=落葉リスク大

さらに、今年度から愛媛大学大学院農学研究科の和田教授と学生もプロジェクトに参加し、ポンプアッププレッシャーチャンバーという植物の水ポテンシャルを測る装置で導き出した数値と、アクト・アップに蓄積されたデータを比較。専門家の協力を得ながら、データの相関関係を見る。

(3)甘平のデータ分析による最適モデル構築(松山市)
露地栽培における甘平は、水管理が難しい柑橘と言われており、果実が割れてしまう確率が高い。そこで、露地栽培における、甘平の成長メカニズムから推定される割れ率を低減する栽培方法を構築する。割れ率を減少させる栽培方法の仮説を立てたのが、松山市の生産者・山西さん。降雨と灌水量を記録し条件を変えながら割れの発生率減少のパターンを確認する。

(4)紅まどんな栽培のリスク回避と品質向上(松山市)
施設栽培の紅まどんなにおけるリスク回避(ハウス内の気温上昇・低下の検知・土壌水分量の異常検知・害獣侵入経路の把握)と品質向上の観点から、環境データ管理のメリットを検証する。

(5)勉強会の開催
プロジェクト期間中に3~4回の勉強会を開催し、取得したデータをベースに活用効果の確認や改善点の確認・共有、導入システムの改善と活用する人のレベルアップをすすめる。愛媛県農林水産研究所果樹研究センターみかん研究所や、愛媛大学大学院農学研究科など、専門家も交え意見交換を行うことで、最新の植物生理にもとづく科学的なデータ活用方法も取り入れ、生産者および地域全体でレベルアップを図る。

(6)学生参加によるアプリ活用を促進!
勉強会を中心に、デジタルリテラシーの高い学生や研究室の学生に参加してもらい、生産現場でアプリの活用とコミュニケーションをとることで、アプリ活用促進とデータ活用の幅を広げる。また、若くてポテンシャルの高い人材が農業や柑橘への関心を高めることで、愛媛の魅力を知る機会にもなる。

10月17日「本年度2回目の勉強会」を真穴で実施

2023年10月17日、これまで取得したデータをもとに、現状や効果を共有する「第2回勉強会」が真穴共選で開催された。

この日、新しくプロジェクトに参画した、愛媛大学大学院農学研究科の和田教授と学生の姿もあった。和田教授は、植物が水をどのように吸収・保持し、利用するかについて研究する「植物水分生理学」を専攻しており、温州みかんの樹体のストレスレベルを予測するための一つの要素として、樹体の水ポテンシャルの測定が重要であると考え、学術的立場からデータを検証するためにプロジェクトに加わっている。

生産者にプレゼンする和田教授

水ポテンシャルの調査(※)に使うのは、全国的にも珍しい携帯型プレッシャーチャンバーの「ポンプアッププレッシャーチャンバー」だ。今回の勉強会では、このポンプアッププレッシャーチャンバーの紹介と、これまで和田教授が研究してきた植物の水ポテンシャルに関する研究結果を発表。

(※水ポテンシャルとは:植物の水分の状態を示す指標で、人間に置き換えると「血圧」のようなもの。プレッシャーチャンバー測定は比較的容易に行えるが、プレッシャーチャンバーで測る水ポテンシャルは、厳密には、マトリックスポテンシャルを測定していることから、他の計測器を使って測定値をクロスチェックする必要がある。)

■ポンプアッププレッシャーチャンバーとは?

ポンプアッププレッシャーチャンバーで葉・茎の水分状態を測定している様子

プレッシャーチャンバーは、植物の水分状態を測定する計測器の一つで、学術分野にとどまらず、アメリカやヨーロッパの果樹園、ワイナリーなどの生産現場でも用いられている。一般に普及しているプレッシャーチャンバーは、ガスボンベが付いたタイプであるが、和田教授の恩師のShackel(シャコウ)教授(カリフォルニア大学デイビス校)が農家でも手軽に持ち運んで使えるよう、ハンディなポンプアップ式のプレッシャーチャンバーを考案。現在、市販化されている。

従来、植物体の水分状態が安定する夜明け前に葉の水分状態を測定する方法が推奨されてきた。しかし、植物は日中に強い水分ストレスを受ける傾向がある。そこで、日中に、蒸散をおさえるため、専用のバッグを葉に被せ、しばらくそのままにしておくと、バックの中の葉の水分の状態が、植物体を代表する茎の水分状態に近づく。

採取する葉にバックを被せた様子

バックしたままの状態で葉を剃刀で切り取り、ポンプアッププレッシャーチャンバー内に設置。自転車の空気入れのようにポンプを上げ下げすることで、チャンバー内の空気圧が緩やかに上昇。切断面の導管から水がにじみ出たときの圧力値を読み取る。この圧力値は、葉の切除前に、茎が根からどれくらいの力で水を引き上げていたかを示し、樹体を代表する水分状態と考えられている。

ルーペで茎の断面を確認しながら圧力をかける。水の浸出が見えたら数値を測定

勉強会では、ポンプアッププレッシャーチャンバーでの測定時期についても議論され、11月~3月(週1回のペースを想定)にかけて測定していくことが決まった。

勉強会終了後、愛媛県農林水産研究所果樹研究センターみかん研究所の菊地室長とともに、黒田さん他、計測対象となるマルドリ方式の圃場と非マルドリ方式の圃場を訪れ、各圃場4本の標本木を選定した。

11月から愛媛大学農学部の学生が主体となり、ポンプアッププレッシャーチャンバーを使った水分計測を進めていく。

「尊敬する和田教授のもとで、大好きなみかんの栽培をより良くするために生産者のみなさんのお役に立ちたい」と意気込む愛媛大学農学部4回生・小林さん。

アクト・ノードが実装内容に掲げる、「学生参加型」のプロジェクト。スタート時点から、現場を訪れた学生のモチベーションが高まっているのがうかがえた。

プロジェクト参加者の今年度の意気込み

■愛媛大学大学院農学研究科 和田教授

実際に黒田さんの圃場を拝見して思ったのが、しっかりと圃場が整備されていること、それと同時に、従来私が扱った作物(ブドウや稲など)と、土壌の水分状態が違っていたので、これはもう一度データを見ながら整理しなければならないと感じました。

勉強会を通して、やはり生産者のみなさんは現場で実際に農作物を観察されているので、非常に観察力が優れていると思いました。研究者とは違った視点でご意見をいただけるので、非常に有益だったと感じます。みなさんからいただいたご意見に対して、学術的な面でお役に立てれば嬉しいです。

普段私が受け持つ学生たちには、「大学での研究と、現場とでは乖離がある場合が想定されるので、その乖離部分をちゃんと知ってほしい」と伝えています。そういった意味でも、今回学生もプロジェクトに参加させていただくことは、非常に良い学びの機会になると期待しています。

■昨年度から参加している生産者・宮本さん

私はプロジェクトの最初から参加していましたが、正直ここまで大きなプロジェクトになるとは思っていなかったです…!

いろいろなデータを見て私が面白いと思ったのが、果実のサイズを24時間カメラで計測した結果です。なんと、乾燥時に果実のサイズが縮んでいたんです。これまで目視で「小さくなったかも?」と思うことは何度かありましたが、実際数値に出ると「やっぱりそうなんだ!」と、確信に変わりました。この結果をどう灌水に結び付けるかは、降水量や気温など他のデータの分析も必要なので、これから期待したいですね。

やはり、県外の方からも「愛媛といえばみかん」というイメージを持たれているので、その期待を裏切らない収穫量と質を維持できたらと思います。

■真穴共選 共選長・中井さん

生産者の立場としてお話しますが、私も昨年度からマルドリ方式にチャレンジしています。これまで「何年か育ててみて、ようやくデータがとれる」と言われていたものを、今回のプロジェクトでとれた黒田さんのデータをもとに栽培してみると、1年目からある程度の結果を出すことができました。これは自分の中でも新しい発見ですし、他の生産者に聞いても同じ意見でした。データ活用を続けて、黒田さんのように毎年良い結果を出したいと思います。


今後はベテラン生産者だけではなく、若手生産者も巻き込みながらDX化に向けて取り組む仲間を増やしていくアクト・ノード。2023年度の実装結果がどうなったのか、次回たっぷりとご紹介するのでお楽しみに。

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